「オムツをはいて排泄するのは難しい」ベテラン介護福祉士・安藤なつが見た介護現場のリアル

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2024年03月10日 21:10  週刊女性PRIME

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メイプル超合金・安藤なつ

「介護の仕事って、大変だとかキツいとか、そういった印象を持つ人が多いと思うんです。まあ、それも事実ですが、私にとって介護は“楽しいもの”。はじめて介護の現場に関わったのがまだ子どものときで、遊びの延長としてだったからかもしれませんが」

小学校1年生から介護に慣れ親しんだ

 人一倍大きな身体におかっぱ眼鏡、それに紫色の服がトレードマークのお笑い芸人・安藤なつさん(43)。相方であるカズレーザーさん(39)とともにお茶の間で人気を博す彼女には意外な一面がある。

 実は安藤さん、ボランティアも含めると20年以上介護の現場に携わってきた、いわば介護のスペシャリストなのだ。

「きっかけは、小学校1年生のとき、伯父の家に遊びに行ったこと。伯父は自宅の一部を改修して小規模な介護施設をやっていたんです。脳性まひや自閉症、認知症など、さまざまな症状の人がいて、年齢もバラバラ。

 私は、そんな利用者さんたちと遊ぶのが楽しくて、休みのたびにそこに通っていました。見よう見まねのお手伝い……そんな軽い感覚で、やがて介護の世界に足を踏み入れていったんです

 安藤さんの“お手伝い”は徐々にスキルアップ。高校時代にはアルバイトとして働くようになっていた。

 そんな中、いまでも忘れられない出来事があったという。

「当時、私は施設で暮らす認知症のおばあちゃんの朝の着替えを手伝っていたんです。でも、その人は着替えを嫌がって、いつまでたっても着替えてくれない。私が根負けして他のスタッフさんを呼んでくると着替えてくれるんですが、それがまた悔しくて。

 粘り強く、毎日、何か月も声をかけ続けました。声色を変えてみたり、キャラクターを変えてみたり、自分なりにいろいろ工夫をしながら。するとある朝突然、すんなり着替えてくれたんです。

 ……あのときは本当にうれしかったな。やっと私を受け入れてくれた、信頼関係を築けたと思いました」

 まもなく、お笑い芸人としての活動を始め、ほかのバイトでも大忙しだった安藤さんだが、伯父の施設に通うのをやめることはなかった。

夜間の訪問介護、M-1決勝前夜にも

 20歳になった安藤さんは、お笑い活動の傍ら介護の仕事を続けるため、ホームヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修に相当)の資格を取得する。

「これがあると訪問介護の仕事ができるようになるんです。というのも、伯父の施設は自宅からは遠く、お笑いをしながらメインのバイト先にするのは難しかったので。もちろん、昼間の訪問介護も無理。だったら夜やろうと思って」

 夜間に行う訪問介護とは、要介護状態の利用者のために、家の鍵を預かって家族が夜寝ている間に、トイレ誘導や安否確認、体位交換、水分補給などをするサービスのこと。夜9時から15〜20軒を回って、朝7時に帰宅。安藤さんは、これを週2、3回行っていた。

最も印象に残っているのは、オムツ交換の業務です。もちろんやり方は知っていましたが、実際に寝ている利用者さんのオムツを交換するのは本当にハードでした……。

 そのときに思い出したのが、資格を取るために通っていたスクールで出た、『オムツを使っている利用者さんの気持ちを理解するために、実際にオムツをはいて排泄(はいせつ)してみよう』という課題。

 家でこっそりやればいいことで、他人の目があるわけじゃない。だからそれくらい余裕だろうと思ったのですが、なかなかどうして恥ずかしい!(笑)

 やっぱり、羞恥心が邪魔をするんですよ。それと同じで、頭でわかっていても、実際に経験してみないとわからないことってあるんだなと、現場での実務を通して再認識しましたね」

 夜間訪問の仕事は、安藤さんが芸人としてブレイクするきっかけとなった2015年M−1グランプリの決勝前夜まで続けていたという。

お笑いも介護も両方やっていきたい

 現在では芸能活動が忙しくなり、介護の現場に出ることはなくなった安藤さん。しかし介護への思いは強く、これから先も、何らかの形でずっと関わっていきたいと語る。

「芸人の仕事も介護の仕事も、どちらも同じくらい楽しくて、好きなんですよ。むしろ、お笑いのほうを辞めようと思ったことはあって。当時の相方にコンビ解散を切り出されてしまい……。

 ところが、ピン芸人だったカズレーザーに誘われて、半ば押し切られるようにして『メイプル超合金』を結成。いや、人生ってわからないものですね(笑)。おかげで大好きなお笑いを続けつつ、大好きな介護の仕事についても発信ができる立場に。

 現場で働くのは難しくても、今は“広報マン”的な立ち位置で、介護の魅力を伝えていきたいと考えています」

 こういった経緯から、安藤さんのもとには介護にまつわるオファーがくるように。さらに昨年、ハードな講習とテストをクリアして介護福祉士の資格を取得。そこまでしてこだわる介護の仕事。安藤さんが考える魅力ややりがいとは?

「何といっても楽しいことです。介護する方の人生に寄り添って、何をしたいのか、どうしたら健やかに過ごせるかを考えて、それを実行する。

 それで、その人が少しでもいい状態、いい気持ちになってくれると、本当にうれしいし、報われます。それ自体が楽しいことだと思いませんか?」

 安藤さんは「介護の仕事がことさら大変だと思われがちなのは、一般的に想像しやすい介護の現場が、在宅での“家族による家族のケア”だからではないか」と指摘する。

介護は私たちプロに任せてください

ご家族の介護って、本当に大変なんです。身近な人だからこそ、感情を切り離すことが難しくてイライラをぶつけてしまうことも……。

 そんなふうに閉鎖的な環境からお互いに余裕がなくなってしまうのであれば、ぜひ第三者の手を借りてほしい。そのための介護サービスだし、私たちのようなプロがいるんですから」

 一方、深刻な人手不足が続く業界でもある。安藤さんが介護の魅力を発信するのは、そんな介護の担い手を増やしたいという思いもあるからだ。

若い人たちにとって、介護の現場がもっと身近なものになればいいのに、と思っています。ほかの仕事と比べると身近に接する機会がなく、特別に苦労が多いという話ばかり聞こえてくるから敬遠してしまうのかも。

 私の場合は、“入り口”が親戚の家、しかも子どものころで心から楽しいところだったので、そういう先入観はなかったんですけど。だから、介護職にためらいを感じている若い人たちには、そんなに心配しなくて大丈夫だよって言いたいです(笑)

 それに、介護にやりがいを感じ、熱量を持って働く人が増えれば、安心して家族を預けられる人も増える。すごくいいことじゃないですか。1人でも笑顔で過ごせる人が増えるといいなと思っています」

教えてくれたのは……安藤なつ●1981年生まれ。お笑いコンビ『メイプル超合金』のツッコミ担当。ホームヘルパー2級(介護職員初任者研修)、介護福祉士の資格を持ち、2022年より厚生労働省の補助事業「GO!GO!KAI-GOプロジェクト」副団長を務める。

文/大野瑞紀

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  • 介護じゃないけど、パイロットとか消防士とか、オムツしてても我慢するって聞くね。
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