「ボール遊び禁止」の都市公園6割に…。社会の少数派となる子どもたちの「縮小する遊び場」問題

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2024年03月21日 21:51  All About

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ボール遊びや大声禁止など注意事項が多い最近の公園。子どもの遊び不足は「環境問題」と警鐘する一般社団法人TOKYO PLAY代表の嶋村仁志さんに、こうした社会の背景について話を聞きました。

禁止看板は市民の声に応えるため? ボール遊び禁止の都市公園6割

「ボール遊び禁止」「大声禁止」など、最近は多くの公園で注意事項が増え、禁止看板を見かけるようになりました。

「Play Friendly Tokyo〜子どもの遊びにやさしい東京を〜」をビジョンに掲げる一般社団法人TOKYO PLAYは、2023年3月発行「子どもが豊かに育つ社会のための緊急政策提言」でボール遊び禁止の実態についてまとめています(*1)。

提言が元にした研究による調査では(*2)、回答した自治体の6割が都市公園でのボール遊びを禁止しているそう。また、東京は他都市に比べて、統一規制率が大幅に高くなっていることなどもわかりました。

しかし、こうした都市公園を規定する「都市公園法」には、遊び方についての特段の禁止項目や明確な基準はなく、自治体が独自に判断していて、その実態はよくわかっていません。

一般社団法人TOKYO PLAY代表の嶋村仁志さんは、次のように話します。

「自治体で公園を管理する部署の方と話す機会があるんですが、市民からのご意見のほとんどは苦情だという話をよく聞きます。自治体職員さんの仕事のひとつは、市民の声を反映することです。

その一方で、昔と比べて、ボール遊びができたような空き地はほとんどなくなり、スペースの限られた公園に様々な年齢の子どもの遊びを集約するには限界もあります。同時に、乳幼児を連れている保護者にとっては、小学生が思い切り遊ぶボール遊びは怖いはずです。

公園を利用する子どもたちや親子の間でコミュニケーションを取りながら、ボールの固さや遊び方、遊ぶ場所などで、お互いの存在に配慮し合う、0か100かではない解決策を見つけられるのが理想ですが、そうした公園は少ないかもしれません」

2023年4月、都市公園ではありませんが、長野市の公園「青木島遊園地」が、住民からの「子どもの声がうるさい」というクレームをきっかけに廃止されました。

長野市の発表によると(*3)、同公園は児童センターや保育園、小学校に囲まれ、子どもたちが集団で遊ぶことが多く、大きな音や声が発生しやすい立地だったそうです。

とくに夕方は児童センターの子どもたちが40〜50人一斉で遊ぶこともあり、近隣住民は騒音に悩まされていた様子だったとのこと。話し合いでは解決に至らず、近隣にほかの遊べる公園もあることから、廃止が決まりました。

基本的に声をあげるのは、現状に不満がある人。不満を抱いていない人は、わざわざ声を出すことは多くありません。ましてや、苦情を言う大人たちに対して、子どもが意見を届けることは難しいものです。

「子どもの遊びが迷惑だという声だけでなく、『禁止事項が多くて、子どもの育ちが阻害されて困っている』という声を行政に届けることも、子どもが幸せかつ健康に育っていく生活環境を保障するためにはとても大切です」と嶋村さん。

All About編集部が子育て世代に行ったアンケートによると(※有効回答300)、見直してほしい公園の禁止事項についてとくに多かったのが、やはりボール遊び、そして花火でした。

「ボールも花火も店で売っているのに遊ぶ場所がないのは子どもがかわいそう」という声のほか、ボール遊びについては「ゴム素材なら許可してほしい」「高い柵やフェンス、ネットを設けて遊べるようにしてほしい」といった改善提案も。

こうした声を行政へ直接届けることで、子どもの遊び場問題は改善に向かうこともありそうです。

今、子どもの“遊び不足”は社会全体で取り組むべき「環境問題」

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、児童のいる世帯の割合は、1986年には46.2%だったところ、30年後の2016年には23.4%にまで減少し、2022年は18.3%になっています(*4)。

つまり“5人に4人”は、現役の子育て世帯ではないということ。子育て世代の声が行政に届きにくかったり、「子どもの声は騒音だ」という苦情が増えて、子育てに冷たい社会といわれる要因にもなっていると考えられます。
子どもと大人の割合、18歳未満の子どものいる世帯の割合/2023年3月発行「子どもが豊かに育つ社会のための緊急政策提言」(一般社団法人TOKYO PLAY)

「地域の人間関係の希薄化が進むと、知らない子どもが増えて、余計にうるさいと感じられてしまうでしょう。顔を知っているなじみの子の声なら、むしろ『今日も朗らかで元気だね』と受け取りやすくなりますよね」と嶋村さん。

「充分に遊べる子ども時代を過ごすことは、人間的に心身の確かな育ちを得るための、生き物としての本能の営みであり、幸せな子ども時代の基本となるものです。

また、遊ぶ中で出会う身の回りの自然や生き物、人や社会との関わりを通して、自らの生きている世界を学びます。でも、公園での制限なども要因のひとつとなっている子どもの遊び不足は、今、個人の努力だけではどうにもならない“環境問題”だと思うんです。

SDGsなどへの取り組みと同じく、社会全体で努力して解決していくことが必要になっています」(嶋村さん)

ちなみにドイツでは、2011年の「連邦イミシオン防止法」改正によって、保育園や公園などで遊ぶ子どもの声は騒音とは認められなくなっています。もちろん、環境や文化は国や時代によっても変わるため、何がベストということは一概にはいえません。

最近ならリモートワーク中に近隣の公園で遊ぶ子どもの声がうるさくて仕事に集中できない、といったシーンもありそうです。

それでも、子どもが遊ぶことの大切さへの理解を深めたり、地域の未来を考えたりすることで、子どもの声に対する感じ方や行政の苦情に対する対応にも変化が見えてくるのではないでしょうか。

*1:“遊びのマニフェスト” 子どもが豊かに育つための緊急政策提言(一般社団法人TOKYO PLAY 2023.3.24発行)
*2:地方自治体による街区公園のボール遊びの規制実態に関する研究寺田 光成, 木下 勇
*3:青木島遊園地の廃止を判断した経緯について(令和5年3月31日長野市)
*4:2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況

古屋 江美子プロフィール

子連れ旅行やおでかけ、アウトドア、習い事、受験などをテーマにウェブ媒体を中心に執筆。子ども向け雑誌や新聞への取材協力・監修も多数。これまでに訪れた国は海外50カ国以上、子連れでは10カ国以上。All About 旅行ガイド。
(文:古屋 江美子(ライター))

このニュースに関するつぶやき

  • じゃあ公園ではなく遊戯場を税金で作りましょう(+・`ω・´)キリッ
    • イイネ!41
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