冷えた肉まんを入れておくだけで“熱々”に 電子レンジみたいな布バッグ「HO-ON」の革新性

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2024年03月23日 12:52  ITmedia NEWS

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WILLTEX「WILLCOOK HO-ON」は2万3000円。バッテリー(6500円)は別売。色は、写真のブラウンの他、ブラックもある

 WILLTEX(神奈川県横浜市)の持ち運べる電子レンジバッグ「WILLCOOK HO-ON」(以下、HO-ON)は、そりゃCESで賞をもらうのも当然だというくらい、ものすごくイノベーティブな製品だと思うのだ。発熱する布と聞いた時、「電気毛布とどう違う?」と思う人は多いと思う。そして、大ざっぱにみれば、それは大して変わらないのかもしれない。でも、電熱線を布の中に仕込むのと、その布そのものが発熱するのでは、全く別の話なのだ。


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 実際にHO-ONを使っていて思うのだけど、例えば、コンビニで買った肉まんをHO-ONに入れて持ち帰って食べるというだけなら、保温効率に優れた保温バッグというに止まる。でも、このバッグの場合、既に冷めてしまった肉まんを、バッグに入れておくだけで熱々にすることが可能。ここが「持ち運べる電子レンジ」というキャッチフレーズのゆえんだ。


 で、これを可能にしているのは、「バッグの中を高温にしているから」だけではない。バッグの中全体が高温で、しかも温める対象物を中で高温の布が包みこんでいるからなのだ。だから、肉まんはまんべんなく熱せられて、しかし焦げたり固くなったりすることがない。ただ、温かくなるのだ。


 まあ、蒸したてに比べれば、多少、皮部分のふんわり感はなくなるのだけど、それでも電子レンジよりも自然な温まり方をしていると、私が食べてみた感じでは、そう思った。あたたまり方は、電子レンジというより「湯せん」に近い。


 だから当然、レトルト食品も温められるし、おにぎりも温められる。私は先日、コンビニでホットコーヒーを買って、それを保温ボトルに入れ、木村屋の「ジャンボむしケーキ」を買って「HO-ON」に入れて散歩して、公園のベンチで熱いコーヒーとまるで蒸し立てのマーラーカオのようになったむしケーキを頂いたのだった。余談だが、このむしケーキはとてもコーヒーに合うのだけど、温めると、さらに相性がよくなるのだ。


 スマートフォンのアプリ「Hotopia Standard」で温度調整が行えるのだけど、どの温度で、どのくらい温めるかに関しては、結局、電子レンジやオーブントースター同様、ある程度の経験が必要になる。目安としては、一番高温の設定で、レトルトのカレーが約20分で熱々になるという感じ。


 ものすごい技術による最先端の布なのだけど、できることは「温める」だけなので、その使用感はとってもアナログ的。その生活に寄り添った未来感も、私がこの製品を好きだと思う要因だろう。


 とはいえ、2月の「第97回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2024」で、初めてWILLCOOKの製品を見た時、私はありがちな製品だと思って、素通りしそうになったのだ。それでも、何となく引っ掛かるものがあって足を止めたら、この製品、なんと布自体が発熱するのだというのでビックリ。意味が分からなくて「は?」となって、その場でWILLTEX社長の木村浩さんに、どういうことなのか、お話をうかがったのだった。


 実は、この発熱する布自体は、三機コンシスというメーカーが「HOTOPIA」という名前で、2016年には完成させていたもの。しかも、既に首都高速道路などで冬場の夜間作業用の服などに採用されていたり、ONWARDや三陽商会など大手アパレルメーカーの製品にも使われているというのだ。


 デモ用の布を触らせてもらうと、確かに布全体が発熱している。しかも、布は導電繊維なので、バッテリーとの接点以外は金属部品が一切使われていない。


 木村さんは「スマホのアプリを使えば4段階で温度調節もできるんです。布ヒーター自体は電力によっては最高280度まで温度上昇させることができます」と畳み掛けてくる。知らなかったことは不覚ではあるものの、知ってしまったら、いったいどういう布なのか、そこからどんなふうにビジネスに発展させたのかといった話が聞きたくなったので、取材を申し込んだ。


 そういえば、1月に米国で開催された「CES2024」でベストオブイノベーションを受賞した製品が、そういう感じの製品だったなあと思い出したのは、その後のこと。


●きっかけは「息子のお弁当を温めたい」


 WILLTEXのCTOである上田彩花さんは、この発熱する布に出会った、その最初のきっかけを話してくれた。「元々は、私と木村が同じ繊維を扱う商社の同僚で、その会社を辞めた後も、それぞれ別の仕事をしながら、連絡は取り合っていたんです。それで、繊維の会社の次に私が入ったのが、電子回路の基板などを作るメーカーで、そこが横浜国立大学と横浜消防局との産学連携で、消防士さんの活動中の心電や筋電を測って二次被害を防ぐウェアを作っていたんです」。


 上田さんは、この時のセンサー付きの防護服を作るために、布に導電性のペーストを塗って電極をプリントするといった実験を重ねていたそうだ。繊維関係の会社から基盤関係の会社に移り、その両方の経験が生かせる仕事をやっていたことになる。


 そこで、会社が展示会に出展することになり、そこでプレゼンできる製品のアイデアを担当することになった上田さんは、当時、中学生で野球をやっていた息子さんが、寒い中で冷たい弁当を食べているのをどうにかできないかと考えた。


 「なんとか、あったかくできないかなと思って、移動式の一人用暖房付きルームみたいなものができないかとか空想してました。バルーンみたいなのに入って移動できないかとか。そういう妄想を実現可能なレベルに落とし込んでいった時に、洋服が発熱したら暖かいんじゃないかと思ったんです。で、それをやることになって、生地に導電性のペーストを塗って、抵抗値を利用すれば熱が発生するんじゃないかというアイデアで、プロトタイプを作って展示したんです」と上田さん。


 その展示が首都高速道路株式会社の人の目にとまり、共同開発しないかと持ちかけられた。ただ、まだ製品ともいえないプロトタイプだったので、これを量産できるレベルに持っていく必要がある。そう考えた上田さんは、仲の良い工業ヒーターのメーカーに相談に行くが、そこは高温のヒーターが専門だったので、人間に使う用途のものはなく、その代わりに別のヒーターのメーカーを紹介してもらう。それが三機コンシスとの出会いとなった。


 「三機コンシスさんに伺ったら、そこが布ヒーターを作っていたんです。まさに私がやりたいことがそこにあったんです。でも、私、このアイデアを形にしようとした時に、インターネットでかなり深く掘って調べたんですよ。でも、布ヒーター的な製品は一切出てこなかったんです。どうして三機コンシスさんが出てこなかったんだろうと思ったんですけど、ホームページ見たらあまりにも表に製品を出していなくて、『これは検索に引っかからないわ』と思いました」と上田さん。


 インターネットの検索サイトがアクセス数重視になっていたり、長く更新されていないと検索結果に出てこなかったりといった現状のネットの限界が図らずも露呈した形ではあるけれど、結局、足で稼ぐ方が確実というのは、昔も今も、あまり変わっていないということだろう。とにかく、そういう偶然が重なって、上田さんは三機コンシスの発熱する布、HOTOPIAと出会うことになったのだ。


 「三機コンシスさんは、元々は空調設備なんかを作られていて、展示会で水槽用の外から貼り付けるシート型のヒーターを出展されてたそうなんです。それを見た方から、『もっと薄くて柔らかいものはないの? 布みたいなの作ってよ』と言われて作ったのが『HOTOPIA』なんです。これを作るために、初めて繊維のことを勉強されたそうです」と上田さん。


 これはすごいものだと思った上田さんは、以前の同僚であり導電繊維の開発に携わっていた木村さんに連絡を取る。しかし、木村さんは、上田さんの話を眉唾だと思ったという。


 「こっちが大手と組んで何年もかかって作れなかったのに、という気持ちはありました。しかも、伸縮性があって伸びるのに発熱するって言うんです。大袈裟に言ってるんだと思いました」と木村さん。


 これは見せた方が早いと、木村さんを三機コンシスに連れて行って、そこから話は一気に進み、この布を売るための会社として、木村さんと上田さんは18年7月にWILLTEXを設立。早速、首都高速道路株式会社に持っていくと、喜ばれて、すぐに大量受注になったという。


 そこから順調に事業は拡大し、アパレルメーカーなども含めB to Bの分野で業務を拡大していた時にコロナ禍になり、受注が一気に減ってしまう。それをどうにかしようと起ち上げた自社ブランドが「WILLCOOK」で、その最初の製品が、持ち歩ける電子レンジバッグ「HO-ON」だ。


 このブランドが面白いのは、木村さんの意向で、上田さんをリーダーに、三機コンシス、元々付き合いがあった繊維の製造・量産を担当している製造会社、上田さんに三機コンシスを紹介してくれたメーカー、それぞれから選抜された20代の女性スタッフ4人のチームが開発を担当していること。その上で、木村さんは、「WILLCOOK」というブランド名を決めて、上田さんに「なにか開発してちょうだい」とお願いしたそうです。


 「最初は、布でお湯が沸かせるといいな、と思ったんです。それができれば色々温めたりできると考えたんですけど、お湯が沸かせるくらい布を発熱させるとなると、安全面に問題があるかもとなって、一旦、スペックを下げて、生活の中で使い易いものにしようということになりました。その中で出てきたのが、バッグ型でした」と上田さん。


 でも、単にバッグの中にHOTOPIAを仕込めば良いという単純な話ではなかった。HOTOPIAは1つの製品の名前ではなく、発熱する布全体を表す名称。基本は、導電性の糸に抵抗値を与えて発熱させる技術にあるから、どういう糸を使って、どういう織り方や編み方にするかで、その特性は変わってくる。


「糸の編み方によって、密度が変わってきて、密度が変わると、温度の上がり方なども全部変わってくるんです。なので、どういう編み方をしたヒーターがいいのか、あと内側の熱は内部ではこもって、外には熱が伝わらない構造にしたかったので、そのための断熱材をどうするかは、相当考えました。それこそ、新幹線に使われている断熱材を取り寄せてみたりしたんですけど、それは弾力があり過ぎて、バッグがゴロゴロになっちゃったんです。そうやって見つけたのが、表立っては流通していないけれど、今回の製品にはぴったりの綿だったので、それを使いました」


 実際、この製品の面白さは、発熱する布というより、糸自体が発熱することにあると思う。糸だから、そこから様々に展開できるのだ。


 布にするにしても、シャツの生地ような織物にすることも、セーターのニットのような編み物にすることもできる。それで、今回のように、中に入れたものを温めるのであれば、温めたいものと布との隙間が出来にくい、伸縮性のあるニット状に仕上げるのが最適。こんなふうに、温めたいものがどういう形であれ、それに寄り添うように形を変えられるという点だけを取っても、このHOTOPIAの可能性の大きさが感じられる。


 「ヒーターのサイズや、周りの断熱の効果によって温度の上がり具合は違ってきます。なので、できる限り高い温度を出したいけど、やけどしないギリギリの温度を探りました。みんなで毎日毎日実験して、空炊きした時に150度までっていうあたりで、ここが基準だろうなみたいなところを見つけたんです。それで、ひとまず、このスペックでいこうと決めました。サイズも最初は、ヒーターのサイズを12cmくらいの正方形にしていたので、それに合わせた内寸にしていたのですが、これじゃモノが入らないよねということで、じゃあ、これで何を温めたいのか、というところから考えました」と上田さん。


 話をうかがっていると、徹底的に「使う人」目線での製品作りが行われていることが分かる。男性の意見は一切入れないと決めた木村さんの判断は、こういうところに生きていると感じる。そうして、ペットボトルは保温したいよね、というあたりからサイズが決められていった。あえてマチを作らなかったのも、中に入れたものと布の間に空間をつくらないようにするためなのだ。


 「マチを作るかどうかは、かなりもめました。マチがあった方がお弁当なんかは入れやすいんですけど、そこはある程度大きさに余裕を持たせれば入るので。それよりも内部の熱のこもりやすさや、モノとの空間を減らす方を取って、マチ無しにしたんです」と上田さん。


 この「HO-ON」が面白いのは、電源を入れなければ単なる保冷・保温バッグとして使えること。内側に熱がこもりやすい構造と優秀な断熱材の合わせ技は、例えば、お弁当なども冷やした状態で持ち歩き、食べる時に加熱するといったことを、このバッグ一つで行えるということなのだ。冷蔵庫に電子レンジがくっついた的な(言い過ぎですね)。


 そして、普通のバッグでもあるというのが、この製品の特徴。機能的には電子機器なのだけど、バッグ自体にはバッテリーとの接点になるマグネット以外、電化製品的なパーツはどこにもない。バッテリーとバッグをつなぐ部分にケーブルを使わなかったのも、ケーブルの断線による故障を避けるためだ。マグネットによる接点からもケーブルは出ていなくて、繊維に直結なので、断線による故障が起こらない。内部でヒーターが破れたとしても問題ないというのは、実用品として素晴らしい。


 ショルダーストラップが直付けなのも、普通のバッグであるということを強調している。本当に細かいところまで考えられている製品で、21年の春頃に企画が立ち上がって、製品ができたのは22年10月と、開発に時間がかかっているだけのことはあるのだ。


 この製品がクラウドファンディングで大成功を収めたことで、ブランドの将来に光が見えたと木村さん。そこに伊藤園とのコラボが決まり、伊藤園のお茶を飲んでポイントを溜めると、「HO-ON」が当たるというキャンペーンが実施される。


 「伊藤園さんは、自社のバイヤー全員に『HO-ON』を配ってくれたんです。それで、営業先に持っていって、ホットがおいしい商品のプレゼンに使ったりしてくれたんです。そのあと、ビックカメラさんも採用してくださって、次の製品を作ることもできました」と木村さんが言う次の製品は、ストラップが着脱式でバッグインバッグにもなる「WILLCOOK TREK」。折り畳んで小さくできたり、開いて座布団的に使えたりするのは、布ヒーターを使っているからこそ可能なのだ。


 そして、このWILLCOOK製品を持ってCES2024への参加、そしてイノベーション・アワードの大賞受賞へとつながっていく。そして現在は、リュックのポケットがWILLCOOKになっている製品のクラウドファンディングを実施中だ。こちらは、ヒーター部分が取り外せて、温かい風呂敷のような使い方ができたり、バッテリーがケーブル式になって、汎用のバッテリーも使えるようになっているなど、かなりガジェット側に踏み込んだ製品になっている。


 このあたりまでは展開として予想できる。「WILLCOOK」の第1章という感じなのだろう。このあと、なんと冷える布も登場するらしいし、上田さんが夢見た、お湯が沸かせるバッグも登場するのかもしれない。


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  • ピザ用の本気の電熱バックかったんだけどシガーソケットで動かない・・トホホ。
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