そのあふれる自信はどこから? Intelが半導体「受託生産」の成功を確信する理由【中編】

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2024年03月29日 12:31  ITmedia PC USER

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壇上に並べた壇上に「Intel 7」「Intel 4」「Intel 3」「Intel 20A」「Intel 18A」のウエハを前に、満面の笑みを浮かべるパット・ゲルシンガーCEO

 Intelは2月21日(米国太平洋時間)、半導体の受託生産(ファウンドリー)事業に関連するイベント「Intel Foundry Direct Connect」を開催した。本イベントで、同社のパット・ゲルシンガーCEOは“今”半導体の受託生産ビジネスに注力する理由を説明した。


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 ゲルシンガーCEOは、同社のファウンドリービジネスについて相当自信があるようで、「世界初の『システム・ファウンドリー』になった」「2030年までに世界2位のファウンドリーになる」とも語っている。その自信は、一体どこから来ているのだろうか。この記事では、その“源”を探っていこうと思う。


●Intelがここまで自信満々な理由


 半導体の受託生産事業について、ここまでのIntelの思惑を箇条書きで整理してみよう。


・プロセス開発で一度つまずいたIntelには、新しい収入源が必要


・Intelはアジア(特に東アジア)一極集中の受託製造業界を改善したい


・一極集中の軽減は、将来の半導体産業の持続性に良い方に働く


・一極集中の軽減は、シリコノミーおよび地政学の観点から見ても有益


・世界各地に開発/製造/テスト拠点を構えるIntelだけが、一極集中を解消できる


 大体こんな感じだろうか。あまりにも自信満々な様子が伺える。しかし、なぜここまで半導体の受託生産事業の成功を確信できるのだろうか。


 そのヒントは、ゲルシンガーCEOの「世界初の『システム・ファウンドリー』になった」という発言に隠されている。「なった」という、已然(いぜん)的な表現になっていることがポイントなのだ。


 その“自信”のほどを説明したのが、ゲルシンガー氏に続いて登壇したステュアート・パン氏(ファウンドリーサービス担当シニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー)である。


 パン氏は、TSMC創業者のモリス・チャン氏がMIT(マサチューセッツ工科大学)でプレゼンテーションをした際に使ったスライドを引用し、「(このスライドにおける)赤枠の中に集中した事業を展開したのが、TSMCを始めとする半導体受託製造業者だ。一方、青枠はIntelを始めとするCPUを開発/設計から製造/試験まで一貫して行う垂直統合型の企業だ」と説明した。


 パン氏はこう続ける。


 TSMCは、プロセッサ製品の受託製造において“一点集中”の技術進化に投資をして、その結果、世界一のファウンドリーとなった。これは素晴らしいことである。 しかし、ボブ・ディランの歌にから、この歌詞を引用したい。The Times They Are A-Changin'――そう、時代は変わるのだ。


 AI時代を支える高性能プロセッサは、単一機能のチップでは十分な機能や性能を発揮できない。既に一部の最新アーキテクチャのCPU(SoC)がそうなっているように、これからは多様なプロセッサ同士が複雑に接続し合い、超高度なシナジー効果を創出できるアーキテクチャが求められる――パン氏はこう見立てている。


 こうした超高度なプロセッサを作り上げるには、新旧さまざまなプロセスノードで製造されたダイを、1つのパッケージとして集約し、まとめ上げる技術が必要となる。先のスライドでいう青枠、つまり垂直統合体制でCPUを開発してきたIntelのような企業こそが、このようなプロセッサを“完成”できると、パン氏は力説する。


 Intelは、他社で製造されたダイ(チップ)と自社で製造したダイを接合する多様な技術を保有しており、既に自社製品で実践している。いわゆる「Advanced Chiplet Packaging」(ACP:高度チップレット・パッケージング技術)だ。


 Intel Foundryを使えば、生産を委託した事業者も他のファウンドリーで作ったダイとIntel Foundryで作ったダイを結合した半導体を作れる。ここが、他のファウンドリーにはない強みとなるのだ。


 そのACPだが、どのようなものが用意されているのだろうか。


●異なる“ダイ”をつなげる技術を豊富に持つIntel


 今回の発表では、Intel Foundryにおいて提供できるACPは現時点で6種類あるという。


 1つ目は、ダイをインターポーザー基板にパッケージ化する、通常のパッケージスタイルである「FCBGA 2D」だ。2つ目は、FCBGA 2Dを拡張して、ダイとインターポーザー基板の間に、高密度中間基板(パッチ)を挟んでパッケージ化する「FCBGA 2D+」だ。これは、かつてXeonプロセッサの製造に活用されていたこともある。


 3つ目は「EMIB 2.5D」だ。EMIBとは「Embedded Multi-die Integrated Bridge」の略で、平面方向に並べた複数のダイを、インターポーザー基板を介して接続するパッケージスタイルだ。Intel Foundryの顧客に対しては第二世代EMIBと呼ばれる、55μm〜45μmのバンプピッチでのEMIB 2.5D技術が提供されるという。4つ目は「EMIB 3.5D」だ。これはEMIB 2.5Dの拡張版ともいえる技術で、複数のダイをインターポーザー基板ではなく、後述する「Foveros」を用いてベースダイを介して接続する。


 5つ目は「Foveros 2.5D&3D」だ。これは以前は「Foveros Omni」と呼ばれていた技術で、重ね合わせた2つのダイを、要所では最短距離で接合し、必要であればインターポーザー基板に接続するなどするパッケージスタイルだ。ダイ間接合には「TSV(Through-Silicon Via)配線」が用いられ、インターポーザー基板への接続にはマイクロバンプ接続が使われる。


 そして6つ目は「Foveros Direct 3D」だ。重ね合わせた複数のダイを、ダイ上に形成した銅電極を使って熱圧着させるという、Intelが誇る最先端パッケージ技術となる。この技術のポイントは、切り出された単体ダイ同士を接続するのではなく、ウエハ“全体”を相互に直接接合するという点にある。接合技術の歴史を見てきた人間からすると、結構驚きのある技術でもある。接合ピッチは第1世代では9μmだったものが、第2世代ではわずか3μmに短縮されている。これまたビックリするほどの微細化だ。接合されたダイ同士は、超広帯域かつ超低遅延での相互接続が可能となる。


 Intelが提供する、高度なチップレットパッケージング技術は、絵空事ではない。その多くは、既に自社CPUの製造で実績を積み重ねられてきたものである。


 パン氏は、その証拠/象徴として2022年9月に発表されたデータセンター向けGPU「Intel Data Center GPU Max」シリーズ(開発コード名:Ponte Vecchio)を挙げる。


 Intel Data Center GPU Maxシリーズは、5つの異なるプロセスノードで製造した合計47基ものダイを1パッケージにまとめ、トランジスタ総数1000億のGPUとして動作させている。この偉業は、真に“偉業”といえる。


 パン氏はここまでを総括し、「モノシリック(単一の)ダイで高機能かつ高性能なプロセッサの製造する時代は、そろそろ終焉(しゅうえん)を迎える。これからは『System of Chips』の時代へと突入していくのだ」と語った。


 これまでの「SoC」といえば、「コンピュータを構成する複数のロジック(回路)を1チップに集約した統合プロセッサ」の意である「System on a Chip」の略だったが、Intel Foundryで作れるSoCは「System of Chips」(複数のシステムを集約化した統合プロセッサ)とでも言いたそうだ。


 ここまで来ると、最初はピンとこなかった「世界初の『システム・ファウンドリー』になった」という発言の言わんとするところが見えてくる。Intel Foundryは半導体受託事業であると同時に、高度なパッケージング受託業者でもあると言いたいのだ。


 そして「ファウンドリー」の前に、わざわざ「システム」と付けたのは、高度なパッケージング技術が幾つもの自社製プロセッサの量産で実用化済み、あるいはテスト製造で実用に問題ないことが確認されていて、それを顧客に“即”提供できることを強調する狙いがある。


 確かに、今のところここまでできる体制が整っているのは、半導体業界を見渡してもIntelだけかもしれない。


 1つ、心配な要素を挙げるとすれば、Intel Foundryは「超高度なアーキテクチャのプロセッサを製造したい顧客向け」の受託生産サービスになってしまう可能性が高いことだろう。ただし、昨今のAIブームでそのようなプロセッサへのニーズが高まっていることもあって、当のIntelはそこまで不安に思っていないようだ。


●Intel Foundryには既に“大きな”顧客がいる


 2024年2月時点で、Intel Foundryの顧客であることが分かっているのはQualcomm(Intel 20A)、Arm(Intel 18A)、そしてMicrosoft(Intel 18A)など。3月にはNVIDIAもIntel Foundryに興味を示していることが明らかとなった。


 今回の基調講演では、Microsoftのサティア・ナデラCEOがビデオメッセージを寄せた他、Armのレネ・ハースCEOが登壇し、Intel Foundryに“檄(げき)”を飛ばした。


 Intelの思惑通り、Intel Foundryが事業として“順風満帆”に進むかどうかは分からない。しかし、今回のイベントを通して、同社が半導体の受託生産事業でやろうとしていることや目指していることは、よく理解できたように思う。


 後編では、Intel Foundryでも重要な“キー”となる、Intelの製造プロセスに関する話を深掘りしていく。


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