アンカツ選定、衝撃の「3歳牡馬番付」 群雄割拠のクラシックをどう読み解いたのか?

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2024年04月10日 07:30  webスポルティーバ

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 ここ数年、3歳牡馬戦線は常に混戦状態にある。そのため、牡馬クラシック第1弾のGI皐月賞(中山・芝2000m)では、1番人気のオッズが3年連続で3倍をきっていない。しかも、それら1番人気はいずれも勝利を飾っていない。さらに、続くGI日本ダービー(東京・芝2400m)でも、過去3年は1番人気が戴冠を遂げることはなかった。

 そして今年も、皐月賞では単勝オッズが1倍台になるような、ずば抜けた存在は見当たらない。3歳春のクラシックに関連が深い2歳GI、ホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)で牝馬のレガレイラ(牝3歳)が勝って以降、前哨戦やトライアル戦でも有力馬がことごとく馬群に沈んで、ますます混迷を深めている。

 もはや皐月賞(4月14日)、さらにはダービー(5月26日)においても、勝つチャンスはどの馬にもある――そう言っても過言ではないだろう。

 だとしても、本当に勝ち負けを演じることができる実力馬は何頭かに絞られるはずである。ならば、ここは"プロの眼"に頼るのが最善だろう。

 そこで今年も、競走馬の分析に長けた元ジョッキーの安藤勝己氏に3歳牡馬の実力診断を依頼。今回は皐月賞に参戦する牝馬のレガレイラも含めて、独自の視点による「3歳牡馬番付」を選定してもらった――。

        ◆        ◆        ◆

 今年の3歳馬路線は、牝馬同様、牡馬も混戦だ。そのうえ、GI阪神ジュベナイルフィリーズ(12月10日/阪神・芝1600m)を除外になった牝馬(タガノエルピーダ)がGI朝日杯フューチュリティS(12月17日/阪神・芝1600m)で3着に食い込むぐらいだから、決してレベルが高いとも言えない。

 ただ、今年の有力馬のなかには、馬がまだ子どもで、持てる力を出しきれていない馬が何頭かいる。それらの成長次第では、全体のレベルを一気に押し上げ、そこから大物が出てくる可能性は十分にある。そういう意味では、どんなクラシックとなるのか、楽しみだ。

横綱:シックスペンス(牡3歳)
(父キズナ/戦績:3戦3勝)

 自らの経験から言わせてもらうと、GIを勝つような馬はどこかで記憶に残るような強い競馬をしているもの。仮に負けても、レースぶりに光るものがあったりする。

 その視点を重視すると、今年、最も可能性を感じるのはこの馬だ。馬自身の状態を鑑みて、皐月賞はスキップすることになったが、この世代の横綱には同馬を指名したい。

 とにかく、前走のGIIスプリングS(3月17日/中山・芝1800m)が圧巻だった。ただ強かったというだけでなく、レースぶりにインパクトがあった。

 スローペースのなか、道中ずっと3番手で折り合って、直線で追い出されると、みるみると後続を引き離していった。結果、2着に3馬身半差をつけての完勝。今年、こういう強い競馬をした馬を見たことがなかった。それだけに、余計に印象が残っている。

 デビューから無傷の3連勝。負けていない、というのがまたいい。前走を見る限り、一戦ごとにレースがうまくなっている、というところもある。

 スプリングSの勝ち時計(1分49秒4)自体は大したことがないし、メンバーレベルも疑問符がつく。それに、ここまでの3戦すべてが中山ゆえ、中山が得意なだけ、と見る向きもあるかもしれない。

 それでも、父キズナで距離延長には不安がない。改めて、皐月賞に出走しないのは残念だが、ダービーでは間違いなく有力候補の1頭だ。

大関:シンエンペラー(牡3歳)
(父シユーニ/戦績:4戦2勝、2着2回)

 今年の3歳牡馬のなかで、最も注目していたのはこの馬。凱旋門賞馬の全弟という超良血なのだから、それも当然だろう。しかし、その注目度の高さを思うと、成績的には「もうひとつ」といった印象が拭えない。

 とりわけ、ここ2戦が期待外れだった。前々走のホープフルSは牝馬に屈し、巻き返しが期待された前走のGII弥生賞(3月3日/中山・芝2000m)では6番人気の伏兵に完敗を喫した。

 おかげで「評判ほどの馬じゃない」といった声も出てきているが、自分は世代2番手の大関に推したい。

 確かに不器用で、サッと動けないし、終(しま)いも伸びそうで伸びないといった弱点もある。だが、それには理由がある。ひと言で言って、馬がまだ子どもだから。

 それゆえ、騎手のゴーサインにもスッと反応できず、それによって、勝てるレースを取りこぼしてしまっている。それでも、必ず2着はキープしている。これが、この馬の素質の高さだろう。

 あてにできないタイプではあるが、これからの成長度によっては、急激に強くなる可能性を秘めている。そこが、この馬の魅力。折り合いには不安がなく、距離もこなせるはずで、皐月賞よりダービーで真価を発揮するのではないか、と思っている。

関脇:ジャスティンミラノ(牡3歳)
(父キズナ/戦績:2戦2勝)

 2戦2勝と、この馬も負けてないのが強み。キャリアは浅いが、その分、伸びしろは大きい。その未知の可能性も評価して、この馬を3番手の関脇とする。

 前走のGIII共同通信杯(2月11日/東京・芝1800m)では、強いレースを見せた。道中2番手を追走し、直線に入って追い出されると、あっという間に逃げ馬をかわして、最後は2着に1馬身半差をつけて快勝。味な競馬というか、キャリア2戦目の馬にしては、大人びた競馬だったように思う。

 しかも、2着に負かしたのが、朝日杯FSを勝って、JRA賞の最優秀2歳牡馬に選ばれたジャンタルマンタル(牡3歳)。デビュー2戦目でこの相手に、あれほど堂々とした競馬をして勝ったことの意味は大きい。

 時計は平凡だったかもしれないが、この馬の勝ちっぷりはその不足を十分に補えるものだった。特に上がり32秒6というタイムは立派。前で運んでいた馬に、これだけの上がりを使われては後続もなす術がない。

 キズナ産駒で、2戦とも東京を使われてきたことを考えると、この馬も狙いはダービーか。3歳牡馬のなかでは、この馬が最も不気味な存在だ。

小結:ジャンタルマンタル(牡3歳)
(父パレスマリス/戦績:4戦3勝、2着1回)

 朝日杯FSまでは、デビューから無傷の3連勝。同レースでこの馬を実際に見たとき、「すごくいい馬」「この馬が勝って当然」と思った。馬格があって、全体のバランスがいい。ここまで「いい」と感じさせてくれる馬は滅多にいない。

 騎手は"馬のつくりに惚れる"というところがある。自分も現役時代、馬を見て惚れ込んで、その馬を選ばせてもらったことがあった。しかし、それで本当に走るのか、というとそういうわけではない。まったく走らない、ということもよくある。

 でも、この馬は違う。朝日杯FSのときも全然本気を出して走っていないのに、あっさり勝った。

 それで、同馬への期待を一段と膨らませたのだが、前走の共同通信杯ではコロッと負けてしまった。それも、キャリア2戦目の馬に完敗である。

 それによって、世間的な評価は落ちてしまったが、自分が見たところ、あの負けは勝ちにいっての敗戦ではなかったように思う。馬に"競馬を教える"という騎乗だったように感じた。つまり、先々のことを考えての敗戦で、そこまで悲観することではない。皐月賞も、ダービーも、きっといい競馬を見せてくれるのではないだろうか。

前頭筆頭:レガレイラ(牝3歳)
(父スワーヴリチャード/戦績:3戦2勝、3着1回)

 牝馬ながら、牡馬相手のGIホープフルSを勝利。後方から、前が止まって見えるほどの強襲で一気に差しきった。

 2分00秒2という勝ち時計も悪くないし、2着に負かしたのが牡馬では上位にランクされるシンエンペラー。もう少し評価が高くてもいいように思われるかもしれないが、個人的にはこの辺りの位置づけが妥当だと考えている。

 牡馬相手のGIを勝ったのは、もちろん立派だ。しかし、2歳暮れという時期は、牡牝のポテンシャルにそこまで大きな差はない。それだけに、過大評価は禁物だ。

 また、自身の分析では、この馬は素直で真面目な性格。要するに、完成度が高いということ。それゆえ、能力があるのは間違いないが、ホープフルSは完成度の高さがモノをいった一戦、と見ている。

 加えて、2000mの距離、中山コースに抜群の適性があった、と考える。皐月賞参戦を決めたのも、陣営が「牡馬相手でも勝てる」と判断したというより、その適性を高く評価してのものではないかと思っている。昨年の三冠牝馬リバティアイランドと比較する声もあるが、それはちょっと酷なような気がする。

        ◆        ◆        ◆

 番付には以上の5頭を選出したが、それぞれ盤石と言えるほどの存在ではない。そういう意味では、伏兵が台頭する余地は例年以上にある。

 なかでも、弥生賞を勝ったコスモキュランダ(牡3歳)は面白い存在。かなり強引な競馬をしながら、難なく勝ちきってしまうのだから、想像以上に力をつけているのかもしれない。

 いずれにせよ、大混戦の牡馬戦線。思わぬ馬の激走も大いにありえるだけに、馬券的な妙味は増すのではないだろうか。

安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。

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