同じ物件で、新規入居者と既存入居者で家賃のギャップは生じるものなのでしょうか、また生じる場合の理由についても考察しました。
賃貸マンション・アパートの家賃が値上げラッシュ!
不動産情報サービスのアットホーム社が発表した『2024年1月全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向』によると、マンションの平均募集家賃は、東京23区・東京都下・神奈川県・埼玉県・千葉県・仙台市・名古屋市・京都市・大阪市・神戸市・福岡市の11エリアが全面積帯(30平方メートル以下:シングル向き、30〜50平方メートル:カップル向き、50〜70平方メートル:ファミリー向き、70平方メートル超:大型ファミリー向き)で前年同月を上回ったとのこと。特に、ファミリー向き(50〜70平方メートル)賃貸マンションにおいては、全13エリア(※)で前年同月を上回り、中でも東京23区・東京都下・神奈川県・千葉県・札幌市・京都市・大阪市・福岡市の8エリアは2015年1月以降最高値を更新しました。
※対象全13エリア:首都圏(東京23区、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県)、北海道札幌市、宮城県仙台市、愛知県名古屋市、京都府京都市、大阪府大阪市、兵庫県神戸市、広島県広島市、福岡県福岡市
もっともあくまで体感にはなりますが、周りの友人や知人から、住んでいる賃貸マンションを更新する際に、家賃の値上げを求められたといった話は聞いたことがありません。
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大家さんや不動産屋さんは、一方的に家賃を上げられない
一般的に、不動産賃貸借契約の契約条項の家賃等に関する文言には、「本契約の家賃等が、公租公課の増減・経済情勢の変動等あるいは近傍同種の家賃等と比較して不相当となったときは、協議の上、家賃等の改定をすることができるものとする」などと示されています。つまり、本来なら新規の募集家賃が上がっている状況であれば、既存入居者の家賃についても(更新のタイミングでなくとも)、値上げの可能性は十分あるのです。
ただし契約の文言例の通り、あくまでも協議が必要となり不動産屋さんには大きな負担がかかります。家賃を上げたい大家さんに対して、賃借人は値上げを了承しないという状況を取りまとめることは至難の業です。
実際に協議がまとまらなければ、「弁済供託(以下、供託)」といって法務局(供託所)に、賃借人が妥当と考える家賃(これまでと同額の家賃とすることが多い)を供託する流れになります。供託になると、これまでと同額の家賃ですら供託所の手続きにのっとるため、不動産屋さんは家賃を取得するのに時間がかかってしまいます。
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そのため、既存入居者の家賃については(更新のタイミングであっても)、値上げするケースはまれということになります。
もっとも大家さんが、家賃を値上げせず更新することは「あまりにも損をしている」と思うなら、既存入居者との契約を更新しないことも考えられはします。しかし、新しい入居者がすぐに見つかるかどうかという空室のリスクを抱えることになるため、大家さんとしては、家賃据え置きのまま更新してもらうのが無難となるのでしょう。
こういった背景もあり、大家さんとしては、入居者が入れ替わるタイミングの新規入居者の家賃でしか上げにくいといった事情があるのです。
まとめ
このように、既存入居者の家賃が値上げされるケースは少ないため、賃借人としては一応の安心があるかもしれません。
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しかし賃借人は、最悪の場合、契約更新されないことで転居を余儀なくされる可能性もありますし、入居し続けられるにしても、供託という煩雑な手続きを踏まなければならない場合もあることには注意したほうがよいでしょう。
新規入居者の家賃は上がっているのに、同じ条件で更新してもらえることはありがたいことなのかもしれませんね。
文:みちば まなぶ(ファイナンシャルプランナー)
大学卒業後、大手ハウスメーカーや不動産業者などを経て、住宅ローンを切り口に、住宅購入をはじめとしたライフプランニングを提案する1級FP技能士。(文:All About 編集部)