ドコモがAmazonと“dポイント”で提携の背景 楽天やPayPayとの違いはどこにある?

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2024年04月13日 06:11  ITmedia Mobile

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ドコモは、アマゾンジャパンとの提携を強化。Amazonでの買い物で、dポイントをためたり、使ったりできるようになった。写真は、テレビCMに出演するポインコ兄弟(両端)と女優の浜辺美波さん(左)、指原莉乃さん(右)

 NTTドコモは、アマゾンジャパンとの提携強化を発表した。Amazonがdポイント加盟店になり、同サイトでのショッピングでdポイントがたまるようになった。dポイントの利用にも対応する。これまでも、「d払い」を通じてdポイントの利用はできたが、直接dポイントに対応することにより、他の決済方法との組み合わせが可能になった。合わせてドコモ経由でAmazonプライムを申し込むと、毎月120ポイントのdポイント還元を受けられる特典を導入している。


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 キャリア各社がポイント経済圏を拡大している中、ドコモはなぜAmazonとタッグを組むことになったのか。その背景には、キャリア各社がEC(イーコマース)と通信サービスの連携を強化している動きがある。Amazon側にも、キャリアのユーザーを取り込む狙いがあると見ていいだろう。ここでは、両社の提携強化がモバイル業界に与える影響を考察していく。


●dポイントがたまる、使えるようになったAmazon、還元率は最大3.5%


 2012年にAmazonの電子書籍リーダー「Kindle」に3G回線を提供することで協力を開始したドコモだが、経済圏という観点での取り組みは2017年の「ドコモ払い」対応にさかのぼる。2018年にはドコモ払いがd払いに代わったが、現在でもこの関係は続いている。一方で、Amazonには、ドコモが経済圏の軸にしているdポイントが導入されていなかった。d払いでの決済には充当できるものの、dポイントがたまったり、dポイント単体で使えたりできなかったというわけだ。


 こうした状況の中、4月10日にドコモとアマゾンジャパンは記者会見を開き、新たに始める2つの協業を発表した。その1つが、dポイントだ。Amazonがdポイントの加盟店になることで、同サイトでの買い物に対してポイントが付与されるようになる。もう1つが、Amazonプライムに関する協業。このサービスにドコモ経由で入会した場合、毎月120ポイントが還元される他、特定の料金プランや一定以上の年齢の場合に買い物の際の還元率が向上する。


 1つ目の施策により、ドコモとAmazon、双方のアカウントを連携させるだけで、Amazonでの買い物に対してdポイントがたまるようになった。その還元率は1%。0.5%が多い他の加盟店より大盤振る舞いといえる。Amazonが共通ポイントであるdポイントを採用したという位置付けのため、ドコモ回線以外のユーザーも還元の対象だ。ただし、ポイント付与は1回あたりの購入額が5000円を超えた場合に限定される他、1回100円という上限も設けられている。


 もう1つの施策は、ドコモ回線のユーザーを対象にしたもので、まず、ドコモ経由でAmazonプライムを契約すると、その料金に対して毎月120ポイントが還元される。ドコモは、「Netflix」や「Disney+」「YouTube Premium」などの映像系サービスや、音楽サービスの「Spotify Premium」、ゲームサブスクリプションの「Apple Arcade」などを契約するとdポイントを還元する「爆アゲ セレクション」を用意しているが、発想や仕組みはそれに近い。


 ドコモ回線契約者がAmazonプライムを利用する場合、料金プランや年齢に応じて、買い物をした際のポイント還元率も上乗せされる。これは、Amazonに特化した取り組みだ。料金プランがeximo、ahamo、ギガホの場合、注文金額の1%分が別途付与される。さらに、ユーザーが60歳以上の場合、追加で1%の還元を受けられる。これらの還元には5000円という下限はないが、それぞれの上限は毎月100ポイント。60歳以上のユーザーがeximoを契約し、かつ5000円以上をAmazonで注文した際の還元率は3%、d払いで支払うと3.5%に上がる。


●ECが弱点だったdポイント経済圏、他社グループとの違いは


 ドコモの狙いは、dポイント経済圏でECを強化するところにある。ドコモのウォレットサービス部長の田原務氏は、「dポイントクラブを15年から提供しているが、平たく言うと、やはりECが弱い。そういったところのリクエストを、会員の皆さまからいただいていた」と語る。実際、ドコモ自身でも「dショッピング」を提供しているものの、他社に比べるとサービスとしての規模は小さい。


 競合他社を見渡すと、楽天モバイルには楽天市場があり、ECの規模感ではAmazonに匹敵する。楽天グループは、2023年12月に「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」を改定しており、楽天モバイルを契約していると、常時4%ポイント付与率が上がる仕掛けだ。月間2000ポイントという上限はあるが、楽天モバイルを契約するモチベーションになるのと同時に、楽天市場の利用促進にもつながっている。


 同様に、ソフトバンクはメインブランドのソフトバンクや、サブブランドのY!mobileのユーザーに、「LYPプレミアム」を無料で提供している。この会員になると、ソフトバンク傘下のLINEヤフーが運営する「Yahoo!ショッピング」で買い物をした際の還元率が2%アップする。さらに、支払いにPayPayを使うと3%から3.5%、還元率が上乗せされる仕組みだ。ソフトバンクユーザーには、毎月500円が還元されるPayPayクーポンも配布しており、ECと通信サービスでシナジー効果を出している。


 楽天モバイルとソフトバンクは自社グループに巨大なECサービスがあり、それと通信サービスがポイントや決済サービスを通じて連携している格好だ。それより規模感は劣るが、KDDIも傘下のauコマース&ライフが「au PAYマーケット」を運営している。これに対し、ドコモのdショッピングはオールアバウトの子会社との共同運営で、取扱高も「サンプル百貨店」と合わせて四半期で100億円規模にとどまっている。


 自社運営のECが弱いのは、「お察しの通り」(同)と言う状況。経済圏拡大のために、この分野を強化していく意向はあるものの、「自分たちで何か作るのか、資本提携するのかは決まっていない」(同)。こうした中、dポイント経済圏に楽天市場と肩を並べる規模感のAmazonを加えられるインパクトは大きい。Amazonは、d払いでも「かなりの取扱高がある」(同)といい、dポイントへの対応でこの利用を促進できる公算が高い。Amazonがおトクに使えるという売りは、ドコモユーザーの解約抑止につながる可能性もある。


●足りなかったピースを埋められる提携、低い還元率はビジネスモデルの違いが要因か?


 Amazonにとっては、初の共通ポイント導入という形で、これまで足りなかったピースを埋められた格好だ。アマゾンジャパンのバイスプレジデント プライム・マーケティング事業統括本部長の鈴木浩司氏は、「多くのdアカウントユーザーに対して、魅力的なオファーを提供できる」ことをメリットに挙げる。Amazon自身でも日本独自施策として2007年からポイントサービスを導入していたが、これはサービス内で完結する取り組み。共通ポイント導入により、送客を強化できる。


 鈴木氏は、「お客さまのために何をすべきかから逆算しており、他社がやっているからではない。競合他社が実施しているアクティビティーは、それはそれと考えている」と語っていたものの、Amazonが最大のライバルである楽天グループの楽天ポイントを導入するのは考えづらい。PayPayポイントもいわゆる共通ポイントではなく、PayPayという決済と密接にひも付いている。ユーザー数や流通額などの規模感や、これまでの経緯を踏まえると、dポイントしか選択肢がなかったというのが実情だろう。


 このように見ていくと、Amazonのdポイント対応は、ドコモとAmazon、双方にとって足りないピースを埋め合える取り組みといえる。ドコモは弱点だったECを強化でき、Amazonも他社と同様、共通ポイントの送客効果を見込めるようになるからだ。


 一方で、ポイント還元率が楽天市場やYahoo!ショッピングよりも低い水準にとどまっているのも、こうした座組だからといえる。ユーザー視点で見ると、どうしてもインパクトに欠けてしまう部分がある。田原氏は、ポイントの発行原資は「通常の加盟店と同じで加盟店が持つ」と答えていたことから、少なくとも基本となる1%分はAmazon側が負担しているとみられる。


 dポイントの付与が1回5000円以上の注文に限定されていたり、1回につき100ポイントが上限だったりするのは、Amazon側が原資の負担を抑えるためと考えられる。田原氏は、「より多くの方にdポイントをためていただきたいため、5000円以上1%という設定になった」と語っていたが、これは広く薄くdポイントを配布するためだろう。自社や自社グループ内でポイント付与を完結させられる他社との違いといっていい。


 その反面、dポイントはネットの加盟店も少なくない。取扱高が大きなサービスとしては「メルカリ」がある他、リクルートの「ホットペッパーグルメ」や「ホットペッパービューティ」「じゃらん」などで予約した店舗や宿泊施設を利用しても、ポイントをためることが可能。Amazonへの対応も、その一環になる。還元率の差には、こうした戦略の違いもありそうだ。


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