ふたりの偉業達成に、影薄まるドゥカティ勢。ドルナ買収による今後とレースの健全性/MotoGPの御意見番に聞くアメリカズGP

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2024年04月17日 21:00  AUTOSPORT web

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マーベリック・ビニャーレス(アプリリア・レーシング)とフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)/2024MotoGP第3戦アメリカズGP
 4月12〜14日、2024年MotoGP第3戦アメリカズGPが行われました。スプリントと決勝で完勝を収めたマーベリック・ビニャーレス、そしてペドロ・アコスタの2戦連続表彰台、左回りのサーキットが得意なマルク・マルケスはトップに立った後に転倒、ドゥカティ勢は他コースと比較すると苦戦するなど今回も多くのトピックスがありました。

 そんな2024年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム、2年目に突入して第28回目となります。

※ ※ ※ ※ ※ ※ 

--今回のレースのハイライトは何と言ってもアプリリアとマーベリック・ビニャーレス選手の快進撃だったと思うのですが、ご意見番的にはどうでしたか?

 前回のスプリントでアプリリア機での初優勝、余勢を駆ってレースでも優勝かと思わせたところでのまさかのマシントラブル。ツキがないって言えばそれまでだけど、何か今回の完全勝利につながる予感のようなものは有ったよね。これで、スズキ・ヤマハ・アプリリアと3メーカーで優勝した稀有なライダーって事になったのかな。

--そうですね、MotoGPクラスの3メーカーで優勝した初のライダーになりましたね。今回のレースではまたしてもスタートで出遅れて、いつものビニャーレス選手かと落胆したんですけど、そこからの追い上げは見事でしたね。

 オープニングラップで11位まで下がっているし、前にいる連中も簡単に抜けるような相手ではないし、焦って仕掛けるとタイヤが消耗するから残り7ラップでトップに立った後もその位置をキープできるか懐疑的だったんだけど、むしろそれまでトップを走っていたペドロ・アコスタ選手よりもタイヤのコンデイションは良かった感じだね。

 やっばりタイヤマネジメントの上手さは年の功かな(笑)

--トップに立ったところで、前回のアクシデントがフラッシュバックするとかなかったんですかね?

 アプリリアの公式見解では、あのギヤボックスのトラブルは技術的なものではなくて人為的なものと言っていたので、再発する可能性は低いという事でライダーのメンタルに与える影響はあまりなかったんじゃないかな。

--人為的なものといってもピンと来ないですけど、それってむしろ怖い事じゃないんですか。

 途中から動きがおかしくなるという現象が人為的な原因によるとすれば、真っ先に考えられるのはネジが緩んだとかそういう類の問題で、締め付けトルクが適切でなかったとか、緩み止めがされていなかったとか、そんな感じかな。

 前回も言ったけれど、結構デリケートな構造なのでクリアランスの調節が不適切だったとか、定期交換すべき部品を忘れていたとか、思いつくことはそんなに多くはないね。

 まさかオイルを入れ忘れたとかはさすがに無いと思う(笑)

--なるほど。マシントラブルと言えば、今回はオープニングラップで派手に白煙を吹いているマシンを久々に見ましたが、原因は何だと思いますか?

 ファビオ・ディ・ジャンアントニオ選手のドゥカティだね。

 あんな風に派手に白煙を吹いて炎が出たりするときは、バルブ系のトラブルかピストン・クランク系のトラブルで、コネクティングロッドがクランクケースを突き破ったのではないかと考えられるね。

--それって原因は技術的か人為的かどちらかに分類することは可能ですか?

 そもそもああいうレベルのトラブルは、パーツが跡形もなく壊れているから原因の特定は難しいね。運よく何かの破片の断面に疲労破壊の痕跡が見つかれば、バルブなのかピストンなのか原因をある程度絞り込めるけどね。

 絞り込んだところで問題がごく稀に起きる事象なら、設計品質という純粋に技術的な問題に帰結するのは難しいんじゃないかな。そもそも、ものづくりには様々なプロセスが有って、材料・加工・熱処理・表面処理というすべての段階で何かしら人が関わっているから、厳密に技術的か人為的かと判別するのは難しいよ。技術って基本的に人あってのものだからね。

 アプリリアがあの問題を「技術的な問題ではない」と言い切ったのは、ライダーの不安を払拭しつつブランドイメージも守ろうとしたんじゃないかな。

※疲労破壊:繰り返し荷重が掛かることで材料が疲労して破壊に至る現象

--なるほど。それじゃあスプリントのスタートでフランセスコ・バニャイア選手がトラブっていたのは「人為的」な問題と言えるんでしょうか?

 現在のMotoGPマシンのローンチコントロールはクラッチの操作には電子制御が介入していないので、スロットル全開状態で回転数をコントロールしているだけなんだね。

 クラッチ操作はライダーに委ねられているので、クラッチが突然つながってフロントが浮いてしまったのは操作ミスと言えなくもないけれど、いつもと同じように操作しているのにあんなふうに唐突につながってしまったとすれば、何か技術的な要因はあるかもしれない。

 例えばクラッチがオーバーヒート気味でクリアランスが狭くなっていて、ジワっとつないだつもりが完全につながってしまったとかね。とは言え、これもグリッドに着くまでのクラッチの使い方に問題があったというのなら「人為的」という事になるね。

--話は変わりますが、今回のレースでは今までのドゥカティ一強と言う構図に変化が見られたと思いますが、これは今後も続くと見て良いのでしょうか。

 今回はビニャーレス選手とアコスタ選手の存在が際立っていて、一方でドゥカティファクトリーが今一つ本来の強さを発揮できていないという印象だね。

 果たしてこの状況が今後も続くのか現時点で判断するのは難しいけれど、ドゥカティのアドバンテージが今までのように絶対的なものではない、と言って良いのかもしれない。

--スプリントではリヤのソフトタイヤが機能しなかったと、ファクトリーのふたりが言っていました。レースはミディアムなので心配していないとも言っていましたが、エネア・バスティアニーニ選手の3位がやっとでした。

 トップ争いに絡めていたのはGP23に乗るマルク・マルケス選手だけというのは、ドゥカティファクトリーにとってはかなり厳しい結果だと言わざるを得ないね。

 そのマルケス選手もアコスタ選手に手玉に取られたって感じで、やっとオーバーテイクしたと思ったらフロントが切れ込んで呆気なく転倒していたね。

--そのアコスタ選手ですが、レースを見る限りでは既に新人とは思えない冷静なレース運びと、オーバーテイクの巧さを発揮していますね。逆にファクトリーのふたりが不甲斐ないというか、特にブラッド・ビンダー選手はあの開幕戦の勢いが全く感じられませんね。

 型破りの新人の登場でファクトリーのベテラン勢が意気消沈しているとか(笑) たしかに、現状でKTMのポテンシャルを客観的に判断するのは難しいね。

 アプリリアにしても、ビニャーレス選手がいわゆる「ゾーンに入った」感じがするので、マシン自体がドゥカティに追いつき追い越したと判断するのは早計だろうね。

 とは言え、ライダーの技量や勢いやコースへの適応力などによって、レース結果が特定のメーカーに偏らないという状況は、レースの健全性という視点では大事な事だね。

--レースの健全性といえば、MotoGPの運営会社であるドルナが買収されたという話ですが、今後どういう展開が予想されますか?

 FIMがロードレース世界選手権の興行権を売却したのが1991年、その時はかの有名なバーニー・エクレストンのTWP(Two Wheel Promotion)という会社とドルナに半分ずつ権利が委譲され、1993年にはドルナに一本化されたんだよ。

 その後ドルナはブリッジポイントという投資会社とカナダ年金基金が大株主になっていたんだけど、その持ち分がF1の興行主であるリバティメディアに売却されたという事らしいね。

 今後もドルナがMotoGPの興行を仕切るという話なので、急に何かが大きく変わる事は無いんじゃないかな。基本的にモータースポーツを良く分かっている会社に買収されたのは、将来的な展望としては悪くないと思うよ。

 ドルナにしても、現在のMotoGPの仕組みはF1をリファレンスにして構築してきたと言えるしね。今後はさらにシナジー効果を狙って来るんじゃないかな。

--なるほど、F1との関係性でさらにMotoGPのプレゼンスが上がるという事ですね。そうなるとMotoGPにも新規参入とか増えるかもしれませんね。

 新規参入とまでいかなくても、現在参戦しているメーカーが今後も継続する理由とかモチベーションという点ではプラス材料かな。

--ですよね、今回も日本メーカーにとっては厳しい結果でしたから、いつ何時「撤退」とか役員会で決まってもおかしくはないですよね。

 そう言う意味では、ヤマハとファビオ・クアルタラロ選手が2年契約を更新したというニュースは、少なくとも今後2年間はそういう議論の余地がないという、ヤマハの強いコミットメントと受け取って良いと思うよ。

 まあ契約更新した途端に撤退した某メーカーもある事だから100%安心て事はないかもしれないけどね(笑)

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