もし入社した会社が「ブラック企業」「ブラック職場」であるならば、自己防衛、あるいはコンプライアンスの観点から早期の転職検討が必要かもしれません。ブラック企業であるか否かの判断ならびに、すぐにでも辞めるべき企業、しばらくは様子を見るべき企業の違いはどこにあるのか、その判断のポイントを考えてみます。
確定ブラックだけでなく、“実質ブラック”にも要注意
ブラック企業とは、狭義には法令違反のある企業です。しかし昨今では、コンプライアンスの定義そのものが法令違反の有無に留まらなくなっています。したがってその定義は、なんらかのモラル違反や有言、無言のパワハラをはじめ、ハラスメント行為がとがめられることなく組織内で横行する企業、とするのがいいのではないでしょうか。以下具体的に、ブラックか否かの判定基準、転職すべきケースと様子を見るケースについて記します。
まず、ハラスメントを含めて業務遂行上で明らかに法令違反と思われる業務が行われている場合、あるいは法令違反にあたる業務をせよという会社からの指示・命令がある場合は、ブラック確定です。速やかに退職を申し出て転職するのが肝要でしょう。
|
|
知らせる手段がない、あるいは知らせたものの特段の対応がない、逆に自分が悪者扱いされたなどの場合には、前記と同様に速やかな退職検討が望ましいということになるでしょう。
ここまでは、至って常識的な“確定ブラック企業・ブラック職場”の判断基準ですが、それ以外のケースでもモラル上から考えて、“実質ブラック”といえるものがあります。
“実質ブラック”企業の特徴
一番分かりやすいものとしては、他社に比べて明らかに劣っている製品・サービスを、無理な目標を背負わせて「売れ」と指示を出しているケースです。要するに、まともな売り方をしたのでは売れないものを「売ってこい」と言っているわけで、そうなると真実を説明せずに隠すか、あるいは嘘をついてだますかしないことには、多くを売る手だてがないわけです。
|
|
次に自社で重大な不祥事が発覚した場合、それを受けた身の振り方を社員の立場でどのように判断するべきか、そのあたりを考えてみます。
迷うことなく転職を考えるべき企業は
企業不祥事は「個人的なものであるか、あるいは組織ぐるみであるか」と「意図的であるか、意図せざるものであるか」の2軸のマトリクスで考えると、図のように4つのケースに分類されます。「個人的かつ意図せざるもの(左下)」は社員個人の作業ミスなどに起因する局所的事故であり、この手の不祥事の発生は社内で働く上で大きな問題にはならないでしょう。
「組織的ではあるが、意図せざるもの(右下)」は、組織のたるみや習慣から起きてしまう事故的不祥事です。この組織風土のために働く上で若干の支障はあるかもしれませんが、意図的なものはそこにないのでブラックに分類される問題ではなく、すぐに転職を考える必要はないでしょう。
|
|
要注意なのは、不祥事が意図的原因である場合です。「個人的かつ意図的(左上)」不祥事は、一般的には個人の着服や横領といったものがこれにあたります。
個々の不祥事自体は、ブラックに当たるものではありませんが、この手の不祥事が頻発するといった場合には、組織風土に問題ありとして要注意ということになります。
また、個人的不祥事を起こしたのが経営者である場合も要注意です。「組織は頭から腐る」といわれるように、知らず知らずに組織内に悪い空気がまん延して、自分もむしばまれていくリスクがあるのです。
このような不祥事が頻発する企業や、トップ自らが不祥事を起こしている組織であることが分かった場合には、慎重に身の振り方を考える必要があるでしょう。
最も問題なのは、発生した不祥事が「組織的かつ意図的(右上)」であった場合です。これは、組織風土そのものに自浄能力がなく、皆が流されるままに不祥事に手を染めている状態といえます。
この場合、その組織風土がどのようにしてでき上がったものであるのかがポイントとなります。
自動車メーカーなどで多発している品質不正などで見られるように、誰かの悪意ある指示に起因したものではなく、社内の雰囲気でやむなくルールとは異なる業務に流れてしまったケースはブラックとはいいがたいです(コンセンサス重視という組織風土は、学術的にも日本的組織の特性としてありがちとされています)。
一方、昨年大問題となったビッグモーターのように、左遷や解雇をちらつかせるような経営層からの有言、無言の圧力によって組織的な不祥事が横行しているケースは、確実にブラックであるといえます。このようなケースでは、抜本的な経営体制の変更などが見込めないのであるならば、迷うことなく転職を考えるのが肝要であると考えます。
就職・転職から1〜2カ月後に組織の実態が見えて「この会社、問題がありそうだから辞めようかな」と思ったときには、以上のような考え方を参考にしてみるといいでしょう。
大関 暁夫プロフィール
経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))