朝ドラ『虎に翼』イキり散らす“男性”にも共感してしまう理由。「男vs女」のドラマじゃない!

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2024年05月11日 09:10  女子SPA!

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『連続テレビ小説 虎に翼 Part1 (1) (NHKドラマ・ガイド) 』NHK出版
 5月9日に放送されたNHK連続テレビ小説『虎に翼』(月〜金曜あさ8時〜ほか)第29回が、平均世帯視聴率16.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した。日本初の女性弁護士・三淵嘉子氏を主人公のモデルにした本作。弁護士を目指す猪爪寅子(伊藤沙莉)が様々な困難に直面しながらも、仲間と一緒に成長する姿を描いたリーガルエンターテインメントである。

◆女性の問題だけでなく、男性の葛藤にも触れる

 今以上に男女の立場が不平等だった1931年(昭和6年)が舞台のスタートとなっており、寅子をはじめとした女性キャラが虐げられるシーンが目立つ。それでいて、そういった問題に寅子が勇ましく戦う姿が多く描かれていることから、“フェミ的”といった批判は少なくない。一部の人には、女性が男性という“巨悪”と戦う、一種の”スカッと系作品”として解釈されている節もある。しかし、女性が虐げられている姿ばかりではなく、男性独自の葛藤に触れるシーンも多く、男性が“女性向け”と切り捨てるにはもったいない。

 まず第4週「屈み女に反り男?」で寅子が明律大学の学友と一緒に甘味処で食事をする際は印象的。寅子の同級生・大庭梅子(平岩紙)の長男で帝国大学に通っている徹太(見津賢)と遭遇した時、花岡悟(岩田剛典)を始めとした明律大学の男子学生が“学歴コンプレックス”を発症して「スン」としてしまう姿にはついつい共感した。令和の現在も学歴をステータスと捉える男性は珍しくなく、「スン」とした花岡達を見ていると学歴コンプレックスの寿命の長さにも驚かされる。

◆男性同士の場でイキり散らす花岡の姿に共感

 また、花岡が男友達の前で虚勢を張るシーンも“男性あるある”だ。花岡は寅子達の前では優しく振る舞っているが、男友達だけの空間では「女ってのは優しくするとつけあがるんだ」とイキり散らす。さらには、寅子と討論になった際には花岡は「君達はどこまで特別扱いを望むんだ」「男と同様に勉学に励む君達を、僕達は最大限敬い尊重している」と言い放つ。

“爽やかイケメンの仮面を被ったミソジニーボーイ”と思われた花岡ではあるが、梅子と話していた時に「仲間に舐められたくなくてわざと女性をぞんざいに扱ったり」「みなさんを尊敬しているのに無駄にカッコつけたり」と本心を打ち明けていた。男友達との関係性を気にするあまり、女性をからかった経験のある男性は少なくないのではないか。羞恥心と罪悪感で胸がいっぱいになるが、筆者も小中学生の時に経験した。

 とはいえ、大人になった今もつまらない仲間内のノリのために、誰かを知らず知らずに不快にさせているかもしれない。花岡が申し訳なさそうに本心を口にしている姿を見て、今一度気をつけなければいけないと強く思えた。

◆100年後の現在も「はて」な物事はあまりに多い

『虎に翼』では男女の生き辛さや葛藤が描かれているが、“声を上げること”の必要性をとにかく感じてならない。本作では女性のみに姦通罪が適用されていたり、女性に参政権が与えられていなかったりなど、“1931年の常識”がいくつも登場する。しかし、今ではそれらは非常識でしかない。なぜそういった常識が改められたのかと言えば、寅子のように声を上げてくれた先人達がいてくれたからに他ならない。

 とはいえ、約100年後の現在も寅子のように「はて」と首をかしげたくなる物事はあまりに多い。54万の反対署名を集めたものの政府は2023年10月に施行された「インボイス制度」はその典型である。最近のケースで言えば、DV・虐待被害者の立場を無視して十分な議論がされないまま、「共同親権」の導入を進める民法改正案が4月中旬に衆議院本会議で可決された。他にも、能登半島地震の復旧が進んでいなかったり、物価上昇に対する適切な対応がなされていなかったりなど、「はて」と思うことは1つや2つではない。

◆本作を男叩き・女叩きの道具として消費してはいけない

 寅子のように声を上げなければいけない現状ではあるが、そういった機運はとても低い。私達が持っている権利、安心安全に暮らせる土壌は先人達が声を上げ続けてくれた勇気と努力の賜物である。にもかかわらず、ここ最近は声を上げる人を冷笑する風潮が根強い。もちろん、声を上げることは勇気が必要であり、その“有効性”もイマイチわからない。ただ、『虎に翼』を見ていると、声を上げることがより良い社会を作るうえで必要不可欠なアクションであることが嫌というほどわかる。

 寅子のように自分の中に生まれた「はて」を無視せず、勇気を持って声を上げる必要性を示す『虎に翼』。男叩き、女叩きの道具として消費されるには惜しいドラマだ。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki
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