斎藤工、カンヌで「日本映画の弱点」について鋭い質問 三池崇史・西川美和らが真摯に回答

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2024年05月19日 09:17  ORICON NEWS

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カンヌで開催した「K2P Film Fund I」の記者会見に登壇した(左から)K2 Pictures紀伊宗之代表、三池崇史、西川美和、ゆりやんレトリィバァ (C)Kazuko Wakayama
 俳優・監督の斎藤工がフランス・カンヌで現地時間18日に行われた、日本発の映画製作ファンド「K2P Film Fund I(読み:ケーツーピー フィルム ファンド ファースト)」の記者会見に、海外のメディア・映画関係者に混じって参加。登壇した映画監督の三池崇史、西川美和らに「日本映画の弱点」について鋭い質問を投げかけた。

【画像】カンヌらしいビーチで撮影されたそのほかの写真

 カンヌ国際映画祭のメイン会場にほど近い、JWマリオットにて行われた同会見は、映画、映像を中心とした事業を展開する「K2 Pictures」(東京都目黒区、代表取締役:紀伊宗之)による、“日本映画の新しい生態系をつくる”ことを目標として掲げた「K2P Film Fund I」のファンドが成立したことを発表し、映画祭に集う世界中の映画関係者・メディアに向けて、同ファンドのビジョンをプレゼンテーションするために開催された。

 紀伊代表取締役CEO、K2 Picturesと映画製作をともにするクリエイターを代表して、三池・西川の両監督が登壇。フランス、アメリカ、イギリス、韓国、ニュージーランド、台湾、イタリア、エストニア、スイス、ドイツ、ポーランド、ハンガリー、フィンランド、中国、ベトナム、マレーシア、カナダ、アラブ首長国連邦、ノルウェーなど、日本を含め20を超える国と地域から映画・メディア関係者が集まり、関心の高さがうかがえた。

 カンヌ国際映画祭の会期中に、俳優・プロデューサーのMEGUMIが代表を務めるKICKYが主催する「JAPAN NIGHT」に参加するため、現地入りしていた斎藤は、質疑応答の時間に「今年のカンヌ映画祭のメインビジュアルが、黒澤明監督の『八月の狂詩曲』(のワンシーンを使用している)ということで『オッペンハイマー』がアカデミー賞で作品賞に輝いた年に日本映画の名作がこのようにオマージュされていることについて、我々日本人以上に、フランスの方たちや海外の方が、そういった映画のリテラシーなるものが高いと感じました。日本映画の弱点はどういうところにあると思いますか?」と質問。登壇者の3人は、それぞれこう答えた。

 「保守的で閉鎖的、意思決定が遅いことだと思います。これは日本映画界だけでなく、日本の産業全部でそうなっているんじゃないかなと思います。戦略的であるためにはクイックな意思決定が必要ですし、1年かけていたら考えていたことも古くなってしまう。それよりは、少ない人数で意思決定し思い切ってチャレンジしてみることが大切だと思っています」(紀伊)。

 「いろいろ弱点はあると思いますが、教育でしょうか。これまでとは違う視点で、教えるというよりは一緒に学んでいく必要があるんだろうなと思っています。共に考えていくという岐路に僕らは今立っていると思います。日本が何を踏まえ、海外に何を伝えていくのかも大切だと思います。海外の需要に答えていくというよりは、日本人と組むからこそこういう映画が生まれたという、夢ではなく実績として作品を作り上げていくことで実証していく。そういうことを日本人は不得意としてきたと思います。僕らにとっての発言は、生まれていく作品。これは逃れられないと思っているので、K2 Picturesのプロジェクトを非常に楽しみにしています」(三池)

 「海外の映画祭に行くと、映画という文化が非常に価値の高いものとして受け入れられていること痛感します。日本では宣伝をがんばったり、映画祭に出たりしてもなかなか浸透しないというジレンマを感じていました。それこそ1、2年で変わるものではないですし、カンヌ国際映画祭の監督週間では久野遥子監督・山下敦弘監督の『化け猫あんずちゃん』を小学生を招いて観る機会が設けられていると今日初めて知りました。小さい頃から当たり前にそういう環境があると定着していくと思いますし、どうしたら、もっと映画を豊かに体験して育んでいけるのかをみんなで未来を考えて行動して行けたらいいなと思います」(西川)

 会見では、K2 Pictures代表の紀伊とタッグを組んだ監督作『初恋』(第72回/監督週間出品)をはじめ、これまでカンヌ国際映画祭には7回参加している三池監督は「現場にいる我々が一番大事なことは映画を作って人を幸せにしながら、自分たちも幸せである必要があるのではないかという紀伊さんの考えに賛同し、今いろいろな企画を動かしています」。

 長編2作目となる『ゆれる』が第59回カンヌ国際映画祭監督週間に出品された西川監督も「日本の映画の仕組みを大きく変えるようなことを考えていて非常に頼もしいですし、ぜひその船に乗ってみたいなと思いました。キャリアのある監督だけでなく、新しい企画や若い監督にもチャレンジを与えて、必要十分な予算とよい環境で映画作りを目指されているところにも共感しますし、自分も挑戦したいなと思います」と、それぞれK2 Picturesへの賛同を示した。

 国内にとどまらず日本映画が世界に向けて出ていくためにはどうすべきか、という質問には、「いかに人間の可能性を考えるか、それは環境づくりで、眠っている才能を活性化させて開花させてあげることはプロデューサーにしかできない。世界中の才能ある人たちと映画を作れるというのは素晴らしいことだと思います」(三池)、「これまで素晴らしい日本のクリエイターたちが映画祭などで力があると証明してくれて私たちの今がありますが、活躍するのは限られたパスポートを持った人たちという図式でした。K2 Picturesが開拓して、日本の映画を期待してくれる人に届けてくれることを私たちは期待します」(西川)と、K2 Picturesの取り組みに期待を寄せつつ、第一線で活躍する2人だからこそ出てくる現状への思いも語っていた。

 また、K2Picturesが共に映画を作っていく次世代の監督として、タレントのゆりやんレトリィバァが映画監督デビューすることが発表され、本人が登壇。「子どもころからの夢を叶えてくださったK2 Picturesさんには感謝してもしきれません。絶対に恩返しできるように頑張ります!!」と意気込みを語った。

 ほかに、若手映画監督・ミュージシャンの登龍門となっている映画祭「MOOSICLAB2017」で観客賞を受賞し、国内外共に高い評価を得ている枝優花、是枝裕和監督、西川監督作品の助監督を経験後、長編映画『夜明け』で監督デビューし、現在進行中の企画が、第23回釜山国際映画祭のAsian Project Market(APM)でCJ賞とARRI賞を受賞している広瀬奈々子との映画製作も発表された。
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