「つばさの党」はなぜ今逮捕されたのか。背景に潜む「小池都知事の存在」を考える

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2024年05月22日 08:51  日刊SPA!

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今夏の東京都知事選でも3選出馬が注目されている小池百合子都知事(撮影:小川裕夫)
2024年4月28日に投開票された衆議院議員補欠選挙から約2週間が経過。永田町の話題は、静岡県知事選、そして今夏の都知事選、さらに近いうちに実施されるとの予測が広がる衆議院議員選挙の話題に移っています。
そんななか、東京15区の補選で話題を振り撒いた政治団体「つばさの党」の代表である黒川敦彦氏、幹事長で立候補した根本良輔氏、運動員の杉田勇人氏の3名が公職選挙法違反で逮捕されました。

選挙が終わり、すでに補選の話は口端にのぼらなくなっています。にもかかわらず、今になってつばさの党の3名が逮捕されたのはなぜでしょうか? 

永田町や霞が関の取材歴が15年超のフリーランスライター・カメラマンの小川裕夫が現場取材を通じて見えてきた「東京15区の情勢」や「つばさの党の謎」について解説します。

◆「つばさの党」の選挙活動が異様だった

2024年4月16日告示、28日に投開票された衆議院議員補欠選挙で、最も注目を集めたのが東京15区です。9名の候補者が乱立するという激戦だったことも話題になった一因ですが、政治団体「つばさの党」が擁立した根本良輔候補陣営の選挙活動が異様だったからです。

東京15区には、届出順に「福永活也(福永かつや)」「乙武洋匡(乙武ひろただ)」「吉川里奈(吉川りな)」「秋元司(あきもと司)」「金澤結衣(金澤ゆい)」「根本良輔(根本りょうすけ)」「酒井菜摘(酒井なつみ)」「飯山陽(飯山あかり)」「須藤元気」(※カッコ内は届出名)の9名が立候補しました。

福永候補は告示日に立候補の届出を済ませた後、エベレスト登頂のために日本を出国。実質的に選挙活動をしていません。

筆者は、福永候補を除く8人の候補者の街頭演説を繰り返し取材しています。その街頭演説の場で、根本候補本人やつばさの党の関係者に遭遇したことは1度や2度ではありませんでした。

通常の選挙戦において、候補者の街頭演説で場所がバッティングしてしまうことは珍しくありません。バッティングが生じた場合、多くは時間を区切ってそれぞれが納得できる形で譲り合いになります。

◆つばさの党の選挙カーが突っ込んで…

今回、つばさの党が他陣営の街頭演説に姿を表したのは、偶然に生じたバッティングではありません。他陣営の候補者たちの居場所を突き止めて意図的に乗り込んでいます。そして相手候補者の演説を妨害するように大音量を流し、演説内容を聞き取れないようにしたのです。

つばさの党は街頭演説に乗り込むだけではなく、相手陣営の選挙カーを執拗に追尾してカーチェイスのようなことも強行しています。筆者は、ほかの候補者が街頭演説をしているところに、つばさの党の選挙カーが突っ込んでくる様子を間近で見ています。かなり危険な行為でした。

道路上での危険な行為は、選挙を戦う人たちばかりではなく、まったく関係ないドライバーや歩行者を巻き込む危険性があります。そうした危険な行為が公職選挙法に違反するとして今回の逮捕に至ったわけですが、今後は道路交通法違反などにも問われそうです。

◆つばさの党の突撃行為は“誰得”だったのか?

各陣営はつばさの党への対策として、街頭演説の日程をHPやSNSで非公表にしています。その影響で、東京15区の有権者が候補者の政策を聞きたいと思っても容易に街頭演説に足を運べなくなってしまったのです。

そのほかにも、つばさの党は他陣営の選挙事務所に押しかけるという“迷惑行為”をしています。選挙事務所に集まっていた他陣営の支援者とつばさの党のスタッフの衝突が起き、警察が出動する騒ぎも起きました。

つばさの党の過激な選挙活動が根本候補の票を増やす効果につながったとは思えず、逆にほかの候補者の票を減らす効果になっていたのかも怪しいところです。

昨今、選挙に出馬する陣営がYouTubeなどにその様子を配信して広告収入を得ることも珍しくありません。他陣営に突撃することで目立ち、PVを稼いでいるという指摘もありますが、つばさの党のYouTubeチャンネルの登録者数やPV数からは選挙資金を捻出できるほどの規模ではありません。

まして逮捕されてしまえば、勾留中に本人によってYouTubeを更新できなくなります。リスクが高いビジネスモデルです。結局のところ、「根本候補やつばさの党の突撃行為は“誰得”だったのか?」という疑問が残ります。そして、なぜ「選挙が終わってから約2週間も経ってから3人は逮捕された」のでしょうか?

◆「札幌の野次排除」とは本質的に異なる

立候補者がいる手前、つばさの党の関係者を選挙中に逮捕するとハレーションが起きることは予想できます。警察も逮捕といった行動には出にくく、選挙中は避けようと慎重になる事情は理解できます。

つばさの党の選挙活動を警察が黙認してきた理由として、札幌地裁判決の影響とする指摘する声がSNSで広まっていました。2019年の参院選で安倍晋三元首相が札幌駅前で応援演説をしましたが、居合わせた男女2人組が安倍首相に対して野次を飛ばし、北海道警が2人組を排除した、という事件です。

同事件では、札幌地裁が道警の行為を違法と認定。その判決の影響により、つばさの党の行為を警察が手出しをできなくなった――とする意見です。

しかし、札幌の野次排除とつばさの党の選挙活動は本質的に異なり、同列に論じることはできません。なぜなら、公職選挙法においてギャラリーの野次や掛け声などは規制対象になっていないからです。2019年参院選の事件でも、道警は男女2人組を排除した理由として公職選挙法の選挙妨害であることを主張していません。

◆東京都知事選への影響と対策なのか?

つまり、東京15区補選において、警察は「とりあえず静観」を選択したのです。それでも、選挙が終われば警察も影響を考慮する必要はありません。容疑が公職選挙法違反ということですから、警察は選挙後すぐに逮捕することも可能でした。繰り返しになりますが、なぜ今のタイミングだったのでしょうか?

まず考えられるのは、東京都知事選への影響と対策です。都知事選は東京都民しか投票できない選挙ですが、有権者数が多いこともあって注目度は衆院選・参院選に比肩します。

都知事選にあたり、NHKから国民を守る党の立花孝志代表は4月の時点で候補者11人を擁立すると発表しています。その後も追加で候補者を擁立する考えを示し、最終的には30名の候補者を都知事選に立てる目標を示しました。

つばさの党の黒川代表は、NHK党(当時)の公認候補として選挙に出馬した経験があり、NHKから国民を守る党から選挙戦術を学んでいたことが窺えます。

◆小池都知事の“疑惑”を追及したかった?

つばさの党は、都知事選に最低でも2人の候補者を擁立すると事前からアナウンスしていました。都知事選と東京15区補選のでは選挙区の広さが段違いです。条件が異なるので単純な比較はできませんが、候補者を2名擁立すれば、使用できる選挙カーは2倍になります。

つまり、候補者を2人擁立すれば東京15区補選の2倍の規模で、仮に4人擁立すれば4倍の規模で他陣営に突撃できるのです。
他陣営に突撃を繰り返したことで知名度を上げたつばさの党ですが、恐らくその根底にあるのが、昨今のマスコミ、とりわけ新聞・テレビへの不信感です。

東京15区の補選では小池百合子都知事が連日に渡って乙武洋匡候補の応援に入りました。以前から小池都知事は学歴詐称が指摘されていましたが、東京15区の補選が始まるタイミングで、東京都特別顧問や都民ファーストの会東京都議団政務調査会事務総長を務めた小島敏郎氏が学歴詐称を暴露。

小池都知事は東京15区補選に立候補していませんが、都知事という立場にあるため東京都内の選挙においては絶大な訴求力を持ちます。そのため、根本候補はテレビ・新聞が学歴詐称を扱わないことに対して不満を抱いていたのです。つまり、根本候補は「小池都知事の学歴詐称は選挙を左右する重要な情報」と考え、それを追及する必要性を訴え、実際に行動していたのです。

◆仮に都知事選に出馬することになれば…

こうした根本候補やつばさの党の考え方に共鳴する人も少なからずいます。そうした支援者たちがSNSなどを通じて、他陣営の行動を情報提供していました。寄せられた情報をもとにして、根本候補は他陣営の街頭演説へと駆けつけていたのです。

小池都知事が選挙に立候補しているならともかく、応援弁士という立場なのに疑惑を追及されることは心身ともに負担の大きい話です。

しかし、6月20日には東京都知事選が告示されます。今のところ小池都知事は出処進退を明らかにしていませんが、3選を目指して都知事選に出馬することになれば、当然ながら疑惑に関して追及されることは確実です。

小池都知事にとって、学歴詐称問題で騒がれたくないという気持ちがあることは間違いありません。都知事選で騒がれることは避けたい。日程を考慮した上で今回の逮捕に至ったと考えるのが順当です。つまり、今回の逮捕は、「都知事選へ牽制」と「つばさの党を都知事選から少しでも排除したい」という意味が含まれているのではないでしょうか。

しかし、逮捕者が出たからといって、政党や政治団体が選挙に候補者を擁立できなくなるわけではありません。また、公民権を奪われない限り、逮捕された本人が選挙に出馬することも可能です。それだけに、この問題は一連の逮捕で一件落着する話ではありません。

<取材・文・撮影/小川裕夫>

【小川裕夫】
フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーに。首相官邸で実施される首相会見にはフリーランスで唯一のカメラマンとしても参加し、官邸への出入りは10年超。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)などがある Twitter:@ogawahiro

このニュースに関するつぶやき

  • 小池は関係ないね。北海道で馬鹿な判決出した件に対しての揺り戻しだよ。
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