【ブログ】長島哲太&ダンロップに突撃。タイヤの違いってナンダ? 激戦必須なST1000も/カメラマンから見た全日本ロード第2戦もてぎ

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2024年05月22日 10:50  AUTOSPORT web

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すごいぜ、長島哲太選手!
 毎年、全日本ロードレース選手権をまわり、シャッターを切り続けるカメラマン「Nob.I」がお届けする『カメラマンから見た全日本ロード』。今回は4月13〜14日に開催された第2戦もてぎです。

* * * * * * *

当ブログをご愛読の皆様、ありがとうございます。

今シーズンは鈴鹿2&4が開幕戦となったため、もてぎは2戦目。
2戦目ではあるものの、JSB1000クラス以外は開幕戦となります。
いつの間にかシーズン毎に変わるゼッケンにも慣れ、自然と覚えられるようになっているのが不思議です。

それではいつものごとく、レース内容は編集部にお任せし、私の視点でお送りします。


昨シーズンはチャンピオン争いが最終戦までもつれ、しかもドラマティックな展開で幕を閉じたST1000クラス。
このウイークを終えた時点でその流れは今シーズンも続きそうだと思い、気を引き締め直して臨んでいく必要があると再認識しました。
激戦必須なST1000クラスの主な選手を紹介します。

まずは、初優勝、國井勇輝選手(SDG Team HARC-PRO.)

昨シーズンは怪我に泣いたため、今シーズンへの意気込みも大きいでしょう。
尚、旧モデルのホンダCBR1000RR-Rで優勝。

次いで、岩戸亮介選手(Kawasaki Plaza Racing Team)と作本輝介選手(AstemoHondaDream SI Racing)。

岩戸亮介選手の乗るカワサキZX-10RはST1000クラス初の表彰台獲得。
作本輝介選手はJSB1000クラスからスイッチ。

このふたり、以前紹介したのを覚えていますか?

表彰式後に撮影させてもらったのですが、個人的には胸アツな写真です。

昨シーズンのもてぎラウンド勝者で、最終戦を迎えるまではポイントリーダーだった國峰啄磨選手(TOHO Racing)。

今シーズンはリベンジに燃えているでしょう。

昨シーズン、クラス内でヤマハトップの豊島怜選手(DOGFIGHTRACING JDS)。
昨年12月、ファクトリーマシンにも試乗した経験を活かし、ホンダの牙城を崩したい。

ウイークが始まる前までは今シーズンの大本命、だと思っていた荒川晃大選手(MOTOBUM HONDA)。

痛恨のノーポイントとなってしまい、苦しいチャンピオンシップとなってしまいましたが、昨シーズンのチャンピオンもノーポイントのレースがあったので、最後まで分かりません。

そして、3年連続チャンピオンの渡辺一馬選手(Astemo Honda Dream SI Racing)が怪我で欠場という波乱の始まりに。
昨シーズンのドラマティックなチャンピオン獲得の主役でありますが、今シーズンは暗雲が立ち込めています。

まずは、しっかりと怪我を直して、元気な姿で次のレースの地に立ってもらいたいと思います。

今シーズンのST1000クラスも目が離せません!

冒頭からここまでの流れは昨シーズンと同じじゃないか、と思った読者のアナタ。
では、この方に登場していただきましょう。

Team HRC、鈴鹿8耐2連覇の立役者、長島哲太選手です。
今シーズンは、ダンロップのタイヤ開発を兼ね、JSB1000クラスへDUNLOP Racing Team with YAHAGIにて参戦中。

今シーズンの「カメラマンから見た全日本ロード」は今までよりも、ほんのちょびっとだけでも一味違う内容にしていきたいと思っています。

というわけで、今回はこの競技には欠かすことのできない重要な『タイヤ』について、カメラマンの目線で調査してきました!

偉大な鈴鹿8耐ウィナーに、電波少年のごとくアポなしでの突撃。
いやな顔一つせず、私の質問に丁寧に回答してくれました!

分かりやすいよう、会話方式で掲載します!
(以下、長島哲太選手を「哲」と記載)

私)そもそも、「タイヤがグリップする」とはどういうことなのでしょうか?

哲)モトクロス用の、ブロックタイヤを想像すると分かりやすいと思います。あの凸凹が土を掴んでグリップしますが、凸凹が減ってくると土を掴みにくくなり、タイヤの空転が多くなります。ロードレース用のスリックタイヤに凸凹はありませんが、考え方は同じです。ブロックタイヤと同様に、減ってくると路面を掴みにくくなります。これが、「タイヤが滑る」や「グリップ感が無くなる」という表現になります。

私)よく解説で、「タイヤを使う」や「タイヤを温存する」という表現が使われますが、具体的にはどういうことなのでしょうか?

哲)公道であれば、タイヤを使うという表現は単純にタイヤを転がす、ということになります。しかし、レースで「タイヤを使う」とは「タイヤを潰してグリップさせて走る」ということになります。JSB1000クラスであれば、例えば時速300キロからブレーキをかけて減速する際に、タイヤに荷重がかかり、路面にグリップします。ケシゴムを想像してもらうと分かりやすいです。強くこすればよく消えますがケシゴムの減りが早いです。逆に弱くこするとあまり消えませんが、減りは少ないです。これと同じような現象がタイヤにもおきています。

私)では、「タイヤを潰せば潰す」ほど、速く走れるのでしょうか?

哲)そういうワケでもないのです。タイヤメーカー毎に特性があり、その特性を活かせるような絶妙な潰れ具合(グリップ感)を探っていきます。これが「セッティング」です。タイヤ空気圧、サスペンションの減衰やフロントフォークの突き出し量等によってマシンバランスを調整します。また、常にタイヤを潰して全開で走っていると、タイヤが削れてしまってグリップしなくなってしまい、レース終了までもちません。

私)レース中は常に全開走行ではない?

哲)そういうことです。「タイヤを温存する」という表現は「タイヤを使う」の逆で、タイヤを潰さないように走る、ということです。アクセルワーク、ブレーキングの強弱やタイミング、走行ラインを調整し、タイヤを消耗させないよう(潰して削らないよう)優しく丁寧にバイクを走らせます。規定周回数の中で、タイヤを使う(潰す)、温存する(潰さない)をコントロールするのが「タイヤマネジメント」という表現になります。

私)ということは、タイヤの消耗度によって走り方を変えている?

哲)その通りです。「タイヤを使え」ば、その使った部分は摩耗してグリップしなくなっていきます。そのため、タイヤの消耗度合いによってグリップする箇所を見つけ出し、今のタイヤの状態で速く走れる乗り方(バンク角やバイクを起こすタイミング等)を探しながら周回しています。但し、レコードラインを大きく外してしまうと他車に抜かれてしまうため、できるだけ走行ラインは維持するように乗っています。

私)コンマ何秒を争うレースで、このような繊細な作業をしているなんて驚きです。

哲)近年のバイクは電子制御(ECU)が入っているので、実際はもう少しフクザツです。

私)私が長島哲太選手へ最も尋ねたかった質問になります。ずばり、タイヤメーカーによって「何が違う」のでしょうか?短期間でMotoGP(ミシュラン)、WorldSBK(ピレリ)や鈴鹿8耐(ブリヂストン)、そしてST1000・JSB1000(ダンロップ)の各メーカーを使用したことがある選手は他にいません。

哲)イメージとしては、メーカー毎にバイクの特性が異なるのと同じです。エンジンパワーの違いや旋回性の違いみたいな感覚です。あくまで僕の感想ですが……ミシュランとピレリは似たような特性です。両メーカーともグリップ感が高く、タイヤを意図的に潰さなくてもグリップするので、タイヤが路面を掴んでいる感覚を感じやすいです。一方、タイヤを潰しすぎるとタイヤが空転してパワーをロスしてしまうので、潰さないように意識して走ります。逆に、ブリヂストンは、しっかりとタイヤを潰さないとグリップしません。タイヤを潰すとしっかりグリップし、前に進んでいる感覚を強く感じます。WorldSBKにてピレリで走っている選手からすると「タイヤってこんなに潰して良いんだっけ?」という感覚になります。ダンロップは開発段階ではありますが、タイヤを潰しすぎないようにしています。

私)改めて今回の長島哲太選手の挑戦について教えてください。

哲)鈴鹿8耐や全日本ロードのJSB1000クラスはブリヂストンの一強となっていますが、ダンロップで「勝つため」の開発を担っています。具体的にはテスト走行やレースでのデータを基に毎戦、新しいタイヤを試していきます。3年かけてJSB1000のチャンピオンを狙います。

私)毎戦「長島哲太専用スペシャルタイヤ」だなんてすごい!こう言っては何ですが、すごく楽しくないですか?

哲)とっても楽しいです!ダンロップが勝てるタイヤになれば、ダンロップを選択するチームも増えるでしょう。そうなれば他メーカーも開発を進め、全体のレベルが上がっていくでしょう。また、レース用タイヤの開発は、最終的に市販車へフィードバックされます。先の「各メーカーのタイヤって何が違うの?」という質問がまさに、僕にこの挑戦の依頼が来た理由だと思っています。

長島哲太選手へ突撃する前は、苗字のヨミが同じ、迷(?)サードのように、「スーッと来た球をガーンと打つ」的な抽象的な説明だったらどうしよう?」とか、「そもそも、このような質問をして良いのか?」という不安がありましたが、いざ質問してみると、とても親切かつ分かりやすく説明していただき、私の中で好感度が爆上がりです。
大声では言えませんが、長島哲太選手の挑戦を心の中で応援することにします。

もう少しタイヤについて知りたくなり、理解を深めるために向かった先は……

ダンロップのタイヤサービス!

またまた突撃取材にもかかわらず、親切丁寧に説明していただけました!

(以下、小野裕明さんを「小」と記載)

私)そもそも、公道用タイヤとレース用タイヤは何が違うのでしょうか?

小)グリップ力と寿命(ライフ)が異なります。レース用タイヤは周回数分だけ走り切れれば良いため、グリップ力を高めてライフを犠牲にしています。一方、公道用タイヤがすぐ減ってしまったらタイヤの用途を満たせませんので、ライフが長持ちするように設計されています。

私)(スリックタイヤを触らせてもらって)こんなに硬いんですか?

小)今触られたタイヤは、それでも柔らかい種類です。溝がないため、余計にそのように感じるのかもしれません。レース用タイヤは適切な温度(80〜100度)まで温めて使用するのが前提です。温めることによって表面のゴムが溶けて柔らかくなり、その粘着性によって路面をグリップします。温まるとトリモチのようになります。

私)そんなに高温になるのですか?それでは、今シーズンの鈴鹿2&4(3月)は寒くて、タイヤには大変厳しいレースだったのではないでしょうか?

小)その通りです。公道用タイヤは常温でもグリップしますが、レース用タイヤは常温では硬く、先の通り適温まで温めなければその性能を発揮できません(グリップしません)。あまり知られていませんが、気温が低い場合、レース用タイヤは落下等の衝撃によって割れてしまうことがあります。ホイールにはめるだけでも割れてしまうおそれがあるため、先の鈴鹿2&4では大変気を遣いました。

私)長島哲太選手が担っているタイヤ開発ですが、具体的にはタイヤの何を変更しているのでしょうか?

小)いわゆるコンパウンドと呼ばれるゴム材料の配合や、カーカスと呼ばれる、「タイヤの骨格」になる糸の太さやその編み込みの間隔、タイヤの断面形状などを変えて、タイヤの「たわみ具合」を変更しています。選手目線で表現すると「タイヤの潰れ具合」を変更しています。現在は長島哲太選手が「こういう風に走りたい」という希望を叶えるため、彼の意見を取り入れたタイヤをレース毎に用意しています。

……タイヤの世界も相当奥が深いようです。
曖昧な知識しか持ち合わせていませんでしたが、今後の撮影にも活かせるインタビューとなりました。

いかがでしたでしょうか?
突撃取材にもかかわらず、おふたりとも親切丁寧に説明してくれました。
この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
当ブログが、皆さんの今後の観戦に役立てば幸いです。

個人的にもレースを撮る楽しみが増えた一方、被写体への知識不足を痛感したのも事実です。
今シーズンは記者の真似事のようなことをさせてもらっていますが、記事を執筆するには取材はもちろんのこと、自分の知識、そして、それらをまとめてアウトプットする文章力が必要です。
編集部がさらりと書いている記事も、膨大な経験があってこそであり、コンビを組んでいる編集部員へのリスペクトも増したもてぎラウンドとなりました。

次戦は何が待っているのでしょうか……お楽しみに!
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