「マッドマックス」45年の歴史と早逝した“相棒”の存在 名監督の現パートナーが語るヒットの法則 「マッドマックス:フュリオサ」プロデューサーインタビュー

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2024年05月31日 12:33  ねとらぼ

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ダグ・ミッチェルプロデューサーとジョージ・ミラー監督

 「マッドマックス:フュリオサ」が5月31日から全国公開中。前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」公開から9年、そして1作目公開から45年。ジョージ・ミラー監督が描き出すサーガに新たな1ページが刻まれます。


【画像】若き日のフュリオサ&イモータン・ジョーが登場


 シリーズ通算5作目となる新たな「マッドマックス」の主人公は、マックスではなくフュリオサ。前作「怒りのデス・ロード」に登場し鮮烈な印象を残したキャラクターで、フュリオサの若き日を描く最新作ではハリウッド最旬注目株のアニャ・テイラー=ジョイがこの役を演じています。


 敵対する“悪役”ディメンタス将軍には「マイティ・ソー」シリーズのクリス・ヘムズワースが配役され、過去作で演じてきたヒーローとは違った一面を存分に見せています。


 ねとらぼでは、長年ミラー監督とタッグを組んで「マッドマックス」の世界観を作り上げてきたプロデューサーのダグ・ミッチェルにリモートでインタビュー。世界観やシリーズの舞台裏についてはもちろん、サーガ確立の立役者ながら33歳で早逝したもう1人のプロデューサー、バイロン・ケネディについても聞きました。


●意外と知らない映画プロデューサーのお仕事


 映画を見ると必ず目に入る“プロデューサー”のクレジット。しかしどんな仕事をしているのかは意外に知られていません。もちろん作品やその人の特性によって負う役割は変わってくるものの、“ダグ・ミッチェルプロデューサー”の場合はどんな仕事をしているのか。率直な疑問にまず「ただのタイトル(肩書き)」と笑いながらも、「マッドマックス」シリーズのように大規模な予算を持つ映画ではダグが果たす役割は小さくないと教えてくれました。


ダグ・ミッチェルプロデューサー(以下、ダグ) 「映画を作るためクリエイティブなスキルはもちろん必要ですが、最終的には利益を得るためのビジネスです。1週間に300万ドル以上を費やし、8カ月間ではかなりの額になる。現場には1000人ものスタッフがいます。私にはどうすれば映画が完成するかだけでなく、どうすればお金を無駄にしないか、困難な場合はどうすればよいか、過去40年間にわたって学んできたスキルがあります」


ダグ 「映画製作はゲリラ戦みたいなもので、明日は何をして、今日は何を、と考える時間はありません。誰も人生で起きる出来事の全てをコントロールすることはできないし、ましてや映画セットで何が起こっているかは言うまでもありません。でもやらなくてはならない。特に危険なシーンには完璧に配慮しなくてはいけません」


 「気付けばもう43年もジョージと一緒にいた」というダグ。今ではミラー監督がどこで何をしているのか、また何をしていないのか暗黙のうちに把握していて、根底にはお互いへの信頼があるといいます。どんなことがあっても監督をサポートし、日々を積み上げていった結果として作品ができあがります。


 監督の才能を絶賛する一方で、「私に芸術的才能がないわけでも、ジョージの経済感覚が薄いわけではないけれど、七面鳥とワシが別の生き物であるように私たちができることは違う」と持ちつ持たれつ得意を生かしながら2人は数々の名作を生み出してきました。


 2人はお互いの名を冠した製作会社「ケネディ=ミラー=ミッチェル(Kennedy Miller Mitchell)」を作り、今回の作品にもクレジットされています。トップに含まれているのは、今は亡きミラー監督の盟友で、「マッドマックス」シリーズの生みの親でもあるバイロン・ケネディの名前です。


ダグ 「私は南アメリカで生まれ、スコットランドで教育を受けました。父の後を追ってロンドンで金融を学び資格を得てからオーストラリアへわたり、そこでバイロン・ケネディと出会いました」


ダグ 「ケネディは若くて優秀だった。彼はジョージと一緒に映画の仕事を始め、最初の『マッドマックス』を一緒に作り上げました。映画がヒットして、ケネディは利益の一部でヘリコプターを買い、そしてとても悲しいことにそのヘリが墜落して亡くなってしまったんです。その後すぐに、私はジョージのパートナーになりました」


 ダグはインタビュー中、繰り返し「ジョージの才能」に言及。オーストラリアの地方で育ったことが想像力を、無声映画を数多く視聴してきた体験が言葉を必要としない洗練されたアクションシーンを作る力を育んだとダグは分析します。そして今では「世界中を飛び回ってきた」というダグの経験が、ミラー監督の創造性の助けになり「マッドマックス」シリーズが世界中で受け入れられる要素にもつながったといいます。


ダグ 「私がジョージを見てきて感じるのは、どんな出自の人も共感できるヒーローの物語を形にしているということです。当初は第1作目が成功した理由に本人はピンとこなかったようですが、ずっと後になって世界を旅するうちに、日本でのヒットはサムライカルチャーがあったからだと思い当たりました。デンマークではバイキング、フランス人は車輪のついた西部劇のようなものだと考え、同じくヒットへつながった。つまり私たちは、自然とバックグラウンドを補完してストーリーそのものに注目します」


ダグ 「そしてジョージの才能は、人間が互いに命を削り合う劇的な物語を描き出し、私たちを引き付けます。今日に至るまで45年の映画制作で何を成し遂げたか。それはアクションヒーローを追求して、物語を伝える方法を進化させてきたのです」


●ヒトラーにカルト 終末世界を駆ける悪役が示すリアリティー


 新作の話をするときに、まず触れておきたいのが前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。シャーリーズ・セロンが演じるフュリオサ大隊長が初めて登場した作品は、ダグいわく「砂漠で3日か4日にわたって繰り広げられる大型車両の追走劇」です。フュリオサの視点から見れば「ワイブス(妻たち)を連れた将軍からの逃走劇」。一方でイモータン・ジョーの視点では、「フュリオサによって妻たちをさらわれたことになる」と、敵対する両者の視点から表現します。


 ジョーの目的は妻たちに健康な子を産ませること。圧倒的に物資が不足し、水が何より希少で価値を持つ世界で、岩場に作られたシタデル(要塞)には完璧な階層社会が築かれています。生きるだけでもやっとのこの世界観や価値観を「異常」で「男性主導の、残忍で残忍な世界」とし、女性のフュリオサが生き残るには、戦士になって、“ナルシシストな悪役”に立ち向かう能力を持つ必要があったといいます。


ダグ 「『フュリオサ』の物語、それも誘拐から始まります。“緑の地”と呼ばれる終末世界に存在する豊かで小さなオアシスで育った13歳の少女から、『怒りのデス・ロード』の大隊長になるまで。それが『フュリオサ』で描き出す物語です。


ダグ 「故郷から連れ去られたフュリオサは、非常に残忍な世界で、できる限りのことをして生き延びることを強いられます。立ちはだかるのはバイカー軍団を引き連れたディメンタス将軍。この映画はフュリオサが家へ帰るための旅であり、同時にその途中で受けた残虐行為に彼女が復讐を遂げる物語でもあるのです」


 「怒りのデスロード」でヒュー・キース・バーンが演じたイモータン・ジョーは、ラッキー・ヒュームが演じる若き日のバージョンで「フュリオサ」にも登場。前作で視聴者を魅了した圧倒的な残虐さはその強烈なビジュアルとともに健在で、狂信的にジョーを支持し、ためらいなく命を捨てるウォーボーイズのいかれっぷりも引き続き堪能できます。


 新キャラのディメンタス将軍は、ジョーより若いためか信奉者に囲まれるというよりはギャングの親玉といった印象。集団としてもシタデルの人々と比べればまとまりに欠け、荒削りな面が目立つ分、何をしでかすか分からない怖さがあります。


 イモータン・ジョーとディメンタス将軍。タイプの異なる悪役に共通するのは“カリスマ性”だとダグは話し、カルトや独裁者ヒトラーといった実例を挙げて説明しています。


ダグ 「ヒトラーを例に挙げれば、彼は非常にカリスマ性があり話し上手で、聴衆の心へ訴えかけ、最終的にはナチスの指導者となった他に類を見ない残忍な男です。重要なことは、ナルシシストでありながらも、リーダー、あるいは独裁者にはカリスマ性が必要だということです。ディメンタスには時にコメディアンのような言動もありますが、強いカリスマ性があり非常に残忍な一面があります」


ダグ 「カルトであれば――宗教的な一面はさておき、リーダーがいう“大いなる目的”のために喜んで従うでしょう。つまりイモータン・ジョーがヴァルハラへ導くとウォーボーイズをコントロールし、彼らはジョーの願いが何であれ奉仕しようと銀のスプレーを吹きかけ嬉々として死地へ飛び込んでいくのです」


 例えはカミカゼにもおよび、「私たちの誰もが、何らかの邪悪な力の呪縛に陥る可能性を持っている」とダグは警鐘を鳴らします。「ヒトラーはそれをやった。ディメンタスならそれができる。イモータン・ジョーはやってのけた」とスクリーン上の悪役たちも“私たちの歴史の一部”であり、普遍的なテーマだと強調。ジョージ・ミラー監督が伝えたかったテーマの1つだと話しました。


ダグ 「(ディメンタス将軍を演じた)クリス・ヘムズワースはオーストラリア人。オーストラリアで、オーストラリア出身の俳優と物語を作ることは、私たちがこの映画を誇りに思う要素の1つです」


ダグ 「そして対するフュリオサこと、アニャ・テイラー=ジョイ。彼らは真っ向から対立する、全くベクトルが違うキャラクターなんです」


●「ストリーミングの波はもうとまらない」 名プロデューサーが語る映画のこれから


 前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」公開から9年、コロナ禍を挟んでストリーミングが普及し映画の味方が大きく変化した現代で、「フュリオサ」はそれでも劇場で見るべき作品になったとダグは話します。


ダグ 「過去5年間で世界は急速に変化しました。新型コロナウイルスが世界を襲い映画を見に行く人々が一掃されましたが、だんだんと再び戻ってきている。それでもストリーミングの波はもうとまらないでしょう。世界が今後どのように変化していくかはわかりませんし、コントロールする人は誰もいません」


 Netflixは巨額の利益を上げ、世界各地でサブスクライバーを獲得。こうした動きに対応するようにオーストラリアでは、国内で制作されている映画へ資金を提供できるよう配信会社への課税を検討しているという中、ダグにとって重要なのは「1億ドル、2億ドル、3億ドルを投資する価値のある映画はほとんどないということ」といいます。映画を作る側の立場として、最低でも支払った製作費だけでも回収できなければならない。“リスク”の存在を挙げました。


ダグ 「最初の『マッドマックス』はホンダ車1台分よりも安い価格で作られました。それでいて、すべての人に向けて物語を伝える映画製作者への魅力も持っています。そしてそれ自体、ワーナー(・ブラザース)が利益を生むと信じて、無造作にではなく、賢明なビジネスとして投資した結果なのです」


ダグ 「映画、特に非常に大規模な予算を組む作品の場合は、大きな映画館で上映しても誰も来なかったら、すぐに多額のお金を失うことになる。この業界は億万長者をさらに儲からせることで有名ですが、投資家には勇気が必要です。今後ほとんどの作品はストリーミングへ移行するでしょう。そして誰もがそれを快適に感じるでしょうね」


●「マッドマックス:フュリオサ」


世界崩壊から45年。バイカー軍団に連れ去られ、故郷や家族、人生のすべてを奪われた若きフュリオサ。改造バイクで絶叫するディメンタス将軍と、鉄壁の要塞を牛耳るイモータン・ジョーが覇権を争う“MADな世界(マッドワールド)”と対峙する! 怒りの戦士フュリオサよ、復讐のエンジンを鳴らせ!


監督:ジョージ・ミラー


出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース


配給:ワーナー・ブラザース映画


公式サイト:MADMAX-FURIOSA.jp #マッドマックス #フュリオサ


2024年5月31日(金)全国ロードショー!


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