セクハラや性加害が“お酒のせい”では絶対に許されない理由。「アルコールで性欲は高まらない」

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2024年06月01日 09:10  日刊SPA!

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◆「酔っていたから」では絶対に許されない 
 大企業のトップから政治家・芸能人まで、いまや「セクハラ」「性加害」で一発でクビが飛ぶ時代だ。それほど気をつけないといけないとわかっていても、お酒が入ると気がゆるむときもある――しかし、「これからは“酔っていたから”では、絶対に許されない」、そう語るのは『女医が導く いちばんやさしいセックス』(扶桑社)の著者・富永喜代氏だ。性を語る場として日本最大級のオンラインコミュニティ「富永喜代の秘密の部屋」(会員数1万6000人)を主宰する医師・富永氏は、「お酒で性欲が高まることはなく、セクハラや性加害の原因は別にある」と語る。アルコールとセクハラの本当の関係性について聞いてみた。

――セクハラや性加害の場として、しばしばお酒の席が登場します。お酒が入るとムラムラするという人もいると思いますが、実際、性欲が高まるのでしょうか?

富永喜代(以下、冨永):適量のアルコールは人との距離を縮める有効なコミュニケーションツールです。知り合ったばかりの相手でも、アルコールが入ることでリラックスして、打ち解けていくこともできますし、ときにはロマンチックな夜を彩ってくれることもあるでしょう。

 2003年のイギリスでの研究によれば、血中アルコール濃度が0.01%〜0.009%のほろ酔い状態になったになったとき、男性は女性に対して評価が甘くなると報告されています。お酒片手に談笑していたら、隣に座っている女性が妙に色っぽく見えるようになった……そんな経験がある男性もいるのではないでしょうか。

 ただ、それとセクハラや性加害は別の話です。女性に当たり前のようにお酌をさせる、頭やからだを触る、肩や腰を抱く、卑猥な冗談を言う、「まだ結婚しないの?」「彼氏とは最近どう?」などとプライベートを詮索する、「ノリ」と称して服を脱ぐなど、酒席での狼藉を挙げ始めたらきりがありません。上司や社長にお酒の席で抱きつかれても、多くの人はその場で「イヤ!」とはっきり言いづらいものです。「お酒の席なんだから」「冗談もわからないヤツだな!」などと言う周囲の人間もいるかもしれません。

◆アルコールで性欲が高まるわけではない

 ひどい話ですが、お酒に酔って前後不覚になった女性をホテルに連れ込んだり、睡眠薬などの薬をお酒に混ぜて相手の意識をもうろうとさせたり、抵抗できない状態にしてセックスをする……といった卑劣な事件もあります。当然ながらこういった行為は、性的同意を取っているとは言えず、内閣府のホームページでも「相手が抵抗できない状態で、性交やわいせつな行為を行うことは、性別を問わず刑法の処罰の対象となり得ます」と明言されています。ここに「性別を問わず」とあるように、こうしたセクハラやアルハラは、男性から女性に行われるものだけでなく、女性から男性はもちろん、同性同士のケースもあります。

 女性上司が部下の男性に「男のくせにお酒が弱いなんて、将来出世しないわよ!」とアルコールを強要したり、男性上司が部下の男性に「筋肉すごいね〜」などと言って二の腕や胸をなで回す……などです。ときに当の本人はセクハラをしているという意識がないパターンも少なくありません。

 では、このようなセクハラや性加害がお酒の席で起こりやすいのは、「アルコールで性欲が高まったから」なのでしょうか。答えはNOです。人間のからだで性欲を司るのは、男性ホルモンのテストステロンです。たしかに、少量のアルコールでテストステロンの値が上がるという報告もあります。ですが、それだけでセクハラや性加害を抑えきれないほど性欲が高まるとは言えませんし、過度な飲酒は、むしろテストステロンに悪影響を与えます。

◆お酒の席でセクハラが起きてしまう理由

――お酒で性欲が高まらないとすると、なぜお酒の場でセクハラが起こりやすいのでしょうか?

富永:結論から述べると、お酒を飲んでセクハラや性的な行為に走るのは、テストステロンの値が高まったからではなく、脳の前頭葉の働きが鈍くなったからです。

 この「前頭葉」という部分は、おもに認知機能を司り、感情をコントロールする、いわば「感情のブレーキ役」です。しかし、アルコールが入るとこの前頭葉の働きが鈍くなってしまい、感情が制御不能に陥ってしまうのです。たとえば、職場で若い女性が前日と同じ洋服を着て出社したとします。そのとき、「あ、さては恋人の家に泊まって、そのまま出社したのかな」と内心思っても、シラフなら「さすがにこれはセクハラになるから言わないほうがいいだろう」と思いとどまるものです。しかし、アルコールが入ると、前頭葉によるブレーキが利かなくなっているため、「昨日、いいことあったでしょう?」「彼氏と順調なの?」といったセクハラ発言をしてしまうのです。「アルコールを飲むことで、ストレスやプレッシャーから解放される」という人もいます。しかし、実際はストレスやプレッシャーがアルコールで霧散したわけでなく、アルコールによって感覚が麻痺し、感じにくくなっているだけです。

 日本のお酒や酔っぱらいに対する寛容さは、世界でも屈指と言われています。海外では、ビーチでの飲酒が禁止されている国や地域も多いですが、日本では「海の家」でお酒を売っているのは当たり前。また、自動販売機で自由にお酒を買えることに驚く海外からの観光客も多いと言います。

 このような「酔っ払いに甘い」文化土壌で育ってきた私たちは、たとえセクハラやアルハラが目の前で起こったとしても、「お酒の席だから」と穏便に済まそうとしてしまいがちです。しかし、これはアルコールによるハラスメントや性加害の被害を矮小化する「二次加害」につながります。

 そもそも「お酒のせい」で別人になったり、性欲が急激に高まるのではありません。感情のブレーキがゆるみ、その人の持っている「本性」が表に出てくるだけです。「結構、飲んでいたから許してあげて」ではなく、普段はどんなに立派に振る舞っていても、飲んで本性を現した姿こそ、その人そのものなのです。

◆酔っていながら獲物を狙う加害者たち

――どんなに人格者や偉い人でも、酒席のほうが本当の姿であり、「普段はいい人だから」という言い訳は通用しないということですね。

富永:そうです。ちなみに、セクハラや性加害をする人は、酔っていると言いながらも、冷静に抵抗してこない相手を見定めているものです。抵抗して大事にしそうな人はちゃんと避けて、気が弱かったり、大人しかったり、立場が弱かったり、ものわかりがよさそうだったりと、その日のターゲットを虎視眈々と見極めています。なおさら、「普段はいい人」や「ストレスがたまって酔っていたから」といった言い訳が通用しないことがおわかりになるでしょう。

 逆に言えば、お酒が入ってもぶれずに魅力的な人、飲み方がかっこいい人は、同性・異性を問わず人を惹きつけます。同性から慕われる人は異性にも好印象を与えるので、セクハラで相手の関心を得ようとじたばたするより、かっこよく飲む習慣を身につけたほうが絶対にモテるようになると思いますよ。<取材・文/日刊SPA!取材班>

【富永喜代】
痛みで苦しまない人生を医学で導く「痛み改善ドクター」。愛媛県松山市にて富永ペインクリニックを開院。性の悩み専門の性交痛外来を開設し、全国から8000人以上がオンライン診断を受ける。医療×ITで人生100年時代を豊かにするデジタルドクターである。10万部のベストセラーとなった処女作『こりトレ』(文藝春秋)をはじめ、これまで著書累計95万部。YouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、中高年の性事情に特化した内容で登録者数24万人。SNS総フォロワー数は38万人。日本最大級のオンラインセックスコミュニティ(会員数1.5万人)『富永喜代の秘密の部屋』を主宰。

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  • 何もしてなくても女さんの発言ひとつでセクハラが成立する時点でなぁ・・・
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