『イップス』第8話 やっぱり安定の「森ハヤシ」回 単体としてなら過去イチの出来

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2024年06月01日 14:01  日刊サイゾー

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 バカリズム演じる刑事・森野と篠原涼子のミステリー作家・黒羽ミコという“イップス”を抱えた2人が殺人事件を解決していく倒叙型ミステリー『イップス』(フジテレビ系)も第8話。

 コメディとしての楽しさと謎解きの完成度が両立した質の高いミステリー……だったらよかったのですが、肝心の謎解きの部分で出来にバラつきがあって、なかなか勢いに乗れないままクール後半まで来てしまったという印象です。

 しかも、ミステリーとしてはメインの脚本であるオークラさんの回がよくなくて、サブの森ハヤシさんの回がいいという、書き手の趣味趣向がモロにクオリティに出てしまっているという感じ。

 今回は第3話の議員秘書、第7話のフィギュアスケーターに続いて森ハヤシさんの担当回でした。

 振り返りましょう。

■アンミカvs篠原涼子

 仲の悪い大人の女と女が口ゲンカしているシーンが好きなんですよ。映画でいえば、『阿修羅のごとく』(03)の桃井かおりと大竹しのぶとか、『ぐるりのこと。』(08)の江口のりこと木村多江とか。

 今作はコメディですし、そこまでのピリピリ感はなかったけど、アンミカと篠原涼子が言い合いしているシーンは楽しかったですね。50の女同士が感情をむき出し合って衝突しているシーンに、なぜか興奮を覚えるんです。そういう性癖なのかな。

 そんな話はいいとして、今回はミステリーとして『イップス』の中で、一番おもしろかったです。

 今回はアンミカが付き合っていた男が既婚者だったことが発覚し、さらに不倫を持ちかけられたことで殺害に至るわけですが、まずは状況証拠としての“アリバイ崩し”が行われ、さらに子役の目撃証言が決定的証拠となりました。

 犯人が最初にわかっている倒叙型におけるカタルシスは、やっぱりこの決定的な証拠を突き付ける瞬間に訪れてほしいものなのです。

 この子役が、オーディションに積極的でないことから事件現場でアンミカを目撃してしまい、元来芝居が好きであることから、アンミカからの口止めを守っているにもかかわらず決定的な証言をしてしまう。

「(現場である大道具倉庫に)行ってない」

「(犯人であるアンミカに)会ってない」

 子役に設定されたバックグラウンドを最大限に活かしている上に、「うさんくさい関西弁を使うタレント」というアンミカのパブリックイメージまで用いたこのシーンは、『イップス』を見ていて初めてゾクゾクする体験でした。こういうのが見たいのよ、こういうのが。

 さらに、今作の森ハヤシ回では謎がすべて解けた後に、もうひとつ事件関係者に人間味を乗せてくるんですよね。

 第3話の秘書には愚直なまでの忠誠心、前回のフィギュアスケーターには競技者としての美学、今回のアンミカには似つかわしくないコンプレックス。

 そうやって事件そのものに厚みをもたらして終わることで、余韻を残してくる。ほんとに、森ハヤシさんという脚本家はミステリーが好きなんだろうなと感じさせます。

■あくまで、単体としては

 そういうわけで、すごく今回はおもしろかったわけですが、あくまで単体としてはという話です。なんで第8話にこれなんだと思ってしまうんです。

 第6話で物語の縦軸となる「歪な十字架模倣事件」についてギアを入れ、森野とミコさんのイップスの原因について語り出したにもかかわらず、今回ほとんどその流れを無視している。

 森野のイップスについても、まるでごちゃごちゃ言うのは時間の無駄とでも言いたそうに「調子いいんで」の一言ですんなり捜査に参加させてる。

 縦軸が動き出した後に持ってくる話じゃないように思えるんです。

 その印象は前回もあって、なんか「スケジュール都合なのかな」と邪推してしまうのですよ。村上佳菜子やアンミカが稼働できる日が限られていて、クール後半じゃないと出られなかったのかも、とか、そういうどうでもいいことを考えてしまう。

 なんかこのドラマの関係者が一枚岩になってないというか、作り手がリソースを全ベットしてない感じが伝わってきちゃうのよね。それが一番残念な感じです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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