『アンフェア』(カンテレ)公式サイトよりこれまでの“かっこいい女”のイメージを逆手に取って、新境地を開拓しています。
ミステリーコメディ『イップス』(フジテレビ系)に、バカリズムさんとダブル主演中の篠原涼子さんのことです。
今回は年間・約100本寄稿するドラマ批評コラム連載を持つ筆者が、篠原さんがいかにして新境地に辿り着いたか、解説します。
◆『ごっつええ感じ』で知名度急上昇
まずは“芸能人・篠原涼子”のキャリアを振り返っていきましょう。
1973年生まれで現在50歳の篠原さん。
1990年、16歳のときにアイドルグループ・東京パフォーマンスドールのメンバーとしてデビューしますが、彼女の知名度を押し上げたのは伝説のバラエティ番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)でした。
いまのコンプライアンスに照らし合わせるとセクハラ、パワハラまがいのアウトなことばかりでしたが、篠原さんは必死に食らいつき、“体を張れるバラドル”的ポジションを確立していきます。
そして、次なる転機を引き寄せ、ただのバラドルで終わらないところが彼女のすごいところ。
小室哲哉さんプロデュースで1994年にリリースしたシングル曲『恋しさとせつなさと心強さと』が大ヒット。女性ソロ歌手として史上初のダブルミリオン達成という記録を打ち立てます。
けれど残念ながら、大衆の記憶に残るほど流行ったのは『恋しさとせつなさと心強さと』だけで、アーティストとしての人気はわりと早く失速してしまうのです。
◆『ギフト』『カバチタレ!』で名脇役
それから篠原さんが注力しはじめたのが、現在のキャリアに直接繋がる俳優業。
もちろんいきなり主役やヒロインを演じられるわけではなく、バイプレイヤーとして起用されることが多かったのですが、数々のドラマで“脇でいい味を出すキャラ”を好演していました。
個人的に彼女のバイプレイヤー時代で印象に残っているのは『ギフト』(1997年/フジテレビ系)と『カバチタレ!』(2001年/フジテレビ系)。
木村拓哉さん主演の『ギフト』での役は、主人公に好意を抱いて付きまとう自由奔放なキャラクター。普段はアホっぽい能天気な女なのに、意外と敏感な性質を持つというギャップを繊細に演じていました。
深津絵里さんと常盤貴子さんのダブル主演作『カバチタレ!』での役は、交通課の勝ち気な警官。深津さん演じる行政書士とバチバチに対立するキャラで、嫌味の応酬となる掛け合いが作品の好アクセントになっていたのです。
◆“かっこいい女”ブランドを構築
こうして着実に俳優業でキャリアを積んでいった篠原さんには、主演オファーが続々と舞い込むように。
『anego[アネゴ]』(2005年/日本テレビ系)、『アンフェア』(2006年/フジテレビ系)、『ハケンの品格』(2007年/日本テレビ系)と3年連続で主演作がヒット。そしてこの3作品の役柄がいずれも“かっこいい女”の役だったこともあり、そういったパブリックイメージも構築されていくのです。
近年では、一昨年に大ヒットした恋愛ドラマ『silent』(フジテレビ系)で、主人公の元恋人で聴覚障害を持つ青年の母役として、再びバイプレイヤーでも好演。これまでかっこよく色っぽい役が多かった彼女が、『silent』で“疲れた母親”を演じたことはいい意味で衝撃的で、そうやって役の幅を広げています。
とはいえ、やはりいまだに根強いのが『anego[アネゴ]』、『アンフェア』、『ハケンの品格』などの“かっこいい女”のイメージでした。
◆従来のイメージをあえて逆手に取った
ですが現在主演中の『イップス』では、その“かっこいい女”イメージをあえて逆手に取った演技を見せてくれているのです。
『イップス』では、表向きは“かっこいい女”風の発言をしているものの、実は偏屈で口が悪く、突飛な行動も起こす“めんどくさい女”。しかし、いたるところにツッコミどころがあるチャーミングさも持ち合わせており、愛すべきキャラに昇華させているのがさすがです。
思い返せば、彼女の最初の転機となったのは『ダウンタウンのごっつええ感じ』のコントでした。“かっこいい女”主人公のイメージが強いのでつい忘れがちですが、彼女はコメディエンヌとしての才能も持った役者だったわけです。
そういえば2003年の宮藤官九郎さん脚本のファンタジーコメディ『ぼくの魔法使い』(日本テレビ系)でも、ラブラブ夫婦のおバカ妻役を振り切って演じていたのも思い出されます。
◆『イップス』終盤と次回作に期待!
“かっこいい女”というブランディングで大成した篠原涼子さんが、最新作ではあえてそのブランドをぶっ壊し、“セルフいじり”するような演技で新境地を開拓。
最終回が近づいてきた『イップス』や、彼女の次回作が楽しみで仕方ありません。
<文/堺屋大地>
【堺屋大地】
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。現在は『現代ビジネス』、『smartFLASH』、『文春オンライン』、『集英社オンライン』などにコラムを寄稿。LINE公式サービスにて、カウンセラーとして年間で約1500件の相談を受けている。Twitter(@SakaiyaDaichi)。