“駆け込み寺”の庵主さん語る女性のあり方「あなたの名前は“お母さん”でも“奥さん”でもありません」

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2024年06月02日 06:10  web女性自身

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【前編】学生出産、看護師を経て48歳で出家…“駆け込み寺”の庵主さん「自分を好きになる方法」より続く



兵庫県姫路市網干区。瀬戸内海もほど近い場所に、その寺はある。山門をくぐると、出迎えてくれるのは、2匹の猫と柔和な表情の庵主(あんじゅ)さん。ここは悩める女性の駆け込み寺、不徹寺だ。



これまで多くの人の悩み相談を受けてきた庵主さん。看護師として終末医療に向き合いながら、シングルマザーとして二女を育て上げたのち、48歳で仏門に入った異色の尼僧だ。



『駆け込み寺の庵主さん』(双葉社)の著書も出すなど、その見識は広く知られている。この日も寺を訪れた女性たちが。不徹寺の一泊二日の修行体験に密着した。



■赤ん坊に立ち返ったら悩みも消える



「泊まりがけの修行体験に備え、張り切って家でストレッチしていたら、かえって腰を痛めてしまいました。ご迷惑かけますが、今日からよろしくお願いします」



4月13日(土)の正午前、兵庫県姫路市にある臨済宗妙心寺派・松壽山不徹寺の本堂で、主婦の梶田有紀子さん(73)が言えば、



「私も含めみなさんいいお年で、あちこち痛いとこばかり。互いにいたわり合っていきましょう」



誰からも親しみを込めて尼寺の主を意味する“庵主さん”と呼ばれている、25代住職の松山照紀さん(61)が笑顔で応じる。



不徹寺は、江戸時代に女流俳人の田ステ女が創建してから300年以上にわたり、代々、尼僧が守り続けてきた、門跡寺院を除けば日本唯一の禅寺だ。



この日は午後から、女性限定、携帯や化粧はご法度の「1泊2日の修行体験」が行われることになっており、梶田さんは大阪から同世代の友人と参加したのだった。



「今年1月に妹をがんで亡くすなど、立て続けに身内に不幸があって、うつ状態になりました。私は自分より家族のことで悩んで仏教の本も読み尽くしましたが、余計にわからなくなりました。今は知識を増やすより、助けてほしいという思いが正直あります」



それを聞いた庵主さんが、おでこの辺りを指さしながら、



「なまじ学ぶと、ココで考えるようになってしまいがちです。この本堂の壁に、『不生』という墨文字の額がありますね。ふしょう、と読みます。ごく簡単に言えば、あなたそのものが仏だから生まれたままの姿でいい、との意。赤ん坊に立ち返ったら、恐れもない、欲もない、それは幸せなことじゃないかと。



そこを忘れて、自分というものを立ち上げたばかりに、あれが欲しい、これは嫌だ、となる。今日と明日とで、そんな教えの一部でもかじってみてください」



そこへ、ふらりと1匹の黒猫が現れ、庵主さんの膝へ。



「この織部は、座禅などしていると、『しっかりやってるか?』と覗きに来ますが、知らん顔しといてください(笑)。もう1匹の白ちゃんも夕方には帰ってきます」



この2匹の寺猫が登場する同寺のX(旧ツイッター)も大人気だ。



「先日は、夫のDVに苦しむ女性がやってきて、私と話したあと、しばらく縁側で織部と日なたぼっこをして、『また報告に来ます』と言って戻られました」



山門は朝4時から開かれ、電話相談も無料で受け付けるなど、いまや不徹寺は女性たちにとって現代の駆け込み寺であり、「人生リセット寺」の別称もあるほど。



参加者らの許しを得て修行体験に同行した。





■「“お母さん”や“奥さん”という名前の女性はいない」



午後3時になると「作務」の時間となり、これも300年の歴史を持つ禅堂である宝林堂の前庭で修行体験の梶田さんたちは草取りを始めた。



「作務とは、禅の奉仕労働です。しばらくの間、何も考えず、作業に没頭してみてください」



そう説明する庵主さんに、梶田さんが問いかける。



「60歳を過ぎたころより、ふだんから何かに集中しようとしても、頭のどこかに、常に生きていく不安があります。誰もが、こんなに悩んでいるものでしょうか」



うなずきながら聞いていた庵主さんは、静かに語り始めた。



「子育て、病気、不倫、嫁姑問題など女性からの電話相談はほぼ毎日で、ときには夜中に『眠れないんです』と泣きながらかかってくる。一人暮らしじゃないんです。家族がいても、『寂しい』と言うんですね。



実は今朝も、この修行体験が始まる前に、関西から50代後半のご夫婦が訪ねてこられました。“夫の定年後の生活プランに夫婦で食い違いが生じて困っている”と」



夫は会社生活から解放されたら、今度は夫婦の時間を楽しみたいと考えている。一方の妻は、



「60代、70代を前に自分の体のメンテナンスだけで精いっぱいなのに、もう主人の面倒まで見る気力はありません。気がつけば、この人の世話ばかりしてきた。子育ても終えて“私の人生っていったい何だったんだろう”って、つい考えてしまうんです」



庵主さんが言う。



「双方の話を聞いてわかったのは、とにかく奥さんの心身が、もういっぱいいっぱいだということ。だから私、『一回、離れてみてはどうですか』と助言しました。夫婦の問題だけじゃありません。何事もそう。疲れたら、一回、全部やめてみる、降りてみる、捨ててみることも大事」



だから、「夫婦は仲よく」「相手を恨むのはよくない」など、耳ざわりのよいだけの言葉を簡単には口にしない。



「私は『ぶり返す悩みは、とことん吐き出しなさい』と言います。その代わり、心の粗大ゴミは、いったん捨てたら追いかけないこと。



いまや人生百年時代で、定年してからが長い。相手の人生を尊重して干渉しないのは互いのためでもあるんです。あとは、おふたりが別居期間の後に、どう判断するか。いっそ別れるか、イヤイヤながらも生活できそうならばそれもよし。



あくまで決めるのは、あなた自身。“お母さん”や“奥さん”という名前の女性はいません。素敵なあなただけの名を思い出して、自分らしく生きる時間を大切にしてください」



ただし、庵主さんは自身の体験から、離婚には相応の覚悟も必要なことも必ず付け加えるという。



「妻たちには、はっきり言います。『離婚して、家庭からいわゆる主人と呼ばれる存在がいなくなると、日本の社会は非情なものですよ』と。私自身、離婚後に世間の冷たい風にさらされたときは、『女と思ってなめとんな』と、自分を奮起する材料にしましたけど」



このあと、草取りの作務を終えた梶田さんたちは、手作りうどんの薬石(夕食)と写経を済ませ、明朝の4時起床に備えて、早くも21時には消灯となった。





■“人生リセット寺”で庵主さんと寺猫がいつでも待っている



「すごく気持ちよかったです」
「一瞬ですが、初めて、何も頭にない無の状態を味わえました!」



修行2日目。朝8時からの宝林堂での座禅会を終えた梶田さんら参加者がすっきりとした表情で言うのに答えて、庵主さん。



「足がしびれませんでしたか(笑)。座禅も写経も、行為の意味を考えるのではなくて、ただ座る、ただ書くことが大事なんです」



この後、梶田さんたちは庵主さんから人生指南の法話を聞き、続いて斎座(昼食)では禅宗の作法にのっとっての精進料理を体験し、すべての修行メニューを終えた。



これら修行の進行をサポートしたり、寺のSNSの編集などを3年前から担当しているのが、秘書兼広報担当の“ツイ担さん”(40)。



「庵主さんは、とにかく元気で明るい方です。最近、早朝4時半からの読経をフェイスブックで生配信する『朝のおつとめ』が好評ですが、これでいちばん元気をもらっているのは、実は庵主さん。



お経を終えた5時半ごろが一日のなかでいちばん元気かも(笑)。本当に修行好きなんです。3秒で寝落ちできる方なので健康面は安心ですが、貧乏寺で修理のため屋根や塀に自ら上られるのでケガだけは心配ですね」



今年1月に起きた能登半島地震では、直後から「被災地の女性を寺で受け入れます」というメッセージを発するだけでなく、月2ペースで庵主さんやツイ担さんが現地を訪問しての支援も続けている。



さらに庵主さんには今後、看護師や看取り士のキャリアを生かして取り組みたいことがある。



「僧侶である私のライフワークとして、終末期看護や在宅看取りのお手伝いもしていきたい。また、男女平等の時代ですが、不徹寺の歴史を考えても、私はあえて女性のための寺を打ち出していきたいと思ってます」



そして午後1時過ぎ、梶田さんたちを山門で見送る。この2日間をふり返って、梶田さんは、



「私は家族のために悩んでいたつもりでしたが、見方を変えると、私のほうが家族依存で恩着せがましくなっていたかもしれません。



庵主さんに言われたように、これからは、まず自分に目を向けて生活していきたい。すぐには変われないかもしれませんが、修行体験でその練習ができました」



梶田さんたちが山門を出ようとするまさにそのとき、2匹の寺猫たちも出てきて、一緒にお見送りする。彼女たちの背中に向かい、庵主さん、



「織部も白ちゃんも『おつかれさま』と言ってます! また、いつでも、うちの寺に心の粗大ゴミを捨てに来てください」



悩める女性たちの居場所である不徹寺を訪ねれば、いつも庵主さんの笑顔と、気ままな寺猫たちが出迎えてくれる。



(取材・文:堀ノ内雅一)

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  • 「会社の仕事ばかりしてきて、私の人生、なんだったんだろう?!」とどの程度違うのですかね?と思うんだけど?! あなたの名前は“お父さん”でも“旦那さん(主人)”でもありません
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