ヤマダデンキとANA発スタートアップが協業、「AIロボティクス」で目指す接客業の未来とは

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2024年06月03日 12:01  BCN+R

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ヤマダHDとavatarinがAIロボティクスサービスを活用した業務提携を発表
 ヤマダホールディングス(ヤマダHD)とANAホールディングス(ANA HD)発のavatarinは5月21日、AIロボティクスサービスを活用した業務提携を発表した。29日には東京・中央区の「LABI東京八重洲」でデモを交えた説明会を開催。両社が目指す接客業の未来について方向性を示した。

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●接客AIサービスで働き方改革を推進

 人材不足や物流の2024年問題に対する不安がさまざまな業界で生じている。小売業界もこれらの問題によって大きな影響を受けることが予想されており、早急な対策が求められている。その解決のための有力な手段として各社が取り組みを進めているのが、テクノロジーの活用だ。

 今回、ヤマダHDとavatarinが協業するのは、AIロボティクスサービス。ANA発のスタートアップであるavatarinが独自開発している「newme(ニューミー)」を、ヤマダHDが展開するヤマダデンキの店舗に導入し、接客AIサービスの実用化を目指す。

 執行役員も務める統合経営企画室の長野毅室長は「小売業界には多くの課題があり、状況は今後ますます厳しくなってくる。newmeを導入すれば事情があって店舗に出勤できない社員が在宅でリアル店舗の接客したり、店舗を横断して接客したりといったことが可能になる。働き方改革に大きく貢献してくれると期待している」と協業の理由を語った。

 また、ヤマダHDは家電領域だけでなく家具やインテリア、住宅などをグループ内でワンストップ提案していく「くらしまるごと戦略」を事業成長の重要なテーマとしており、newmeの活用が各セグメントでのシナジーを生み出すことにも期待しているという。

●重要なのはプロアクティブとぬくもりのあるオートメーション

 接客AIサービスの実用化までのロードマップは以下の通りだ。まず、newmeを人が遠隔操作して接客することでスキルをデータ化する。

 次に収集したデータを生成AIに学習させ、接客AIサービスを作成する。最後に接客AIサービスをnewmeに搭載してスタンドアローンでリアル店舗の接客ができるようにする。接客内容に専門知識が求められることもあり、実用化までには約2年を見込んでいる。

 newmeが接客ロボットとして優れているのは「プロアクティブな接客」が可能という点だ。人がタブレットを操作して接客を受けるタイプのロボットはすでにあるが、newmeは接客を必要としている人を自ら探し出して声をかける能動的なロボットとして設計されている。

 専門知識の必要なAIサービスを作成する上で強みとなるのが、大容量かつ多種多様なデータを低遅延で伝送する独自のクラウド技術や「見て、聞いて、話して、動く」といった異なるデータを単一のデータとして収集する技術を保有していることだ。

 avatarinの深堀昂社長は「見て、聞いて、話して、動くことができるマルチモーダルAIはロボットだけでなく、コールセンターのソリューションなどにも応用できる。今回の取り組みは業界特化のAIを作成するフォーマットになるのではないか」と意気込みを語った。

 また、人材不足の問題について「ただ単に人が足りていないのではなく、気づきや気配りなどができる人材が少ないというのが本質だ。newmeは無機質なオートメーションではなく、ぬくもりのあるオートメーションを目指している」と接客に特化するからこそのこだわりも示した。

●来店客の誘導が可能、多言語対応でインバウンド需要にも応える

 説明会では、売り場で困っている人にnewmeが接客するデモも行われた。遠隔にいる社員がnewmeのカメラを通して困っている来店客を視認し、遠隔操作によって近づき、「お困りですか?」と声をかける。プロセス自体は生身の店舗スタッフと変わりない。

 その場でヒアリングを行い、来店客にニーズがありそうな商品の元に誘導する。今回は社員が手動で遠隔操作しながらnewmeを動かしたが、今後はマッピング技術を駆使して自動で移動できるようにしていくとのことだ。

 遠隔からの接客は多言語対応でも強みを発揮する。店舗に英語や中国語を話せるスタッフがいないというケースは多々あるが、newmeであれば遠隔から語学が堪能なスタッフが代わりに接客をすることができる。

 インバウンド需要で訪日外国人客が増加していることもあり、業務の効率化に大いに貢献しそうだ。

 両社が業務提携によって開発するソリューションは中長期的にはヤマダHD内だけにとどめず、外部にも横展開していく方針だ。

 スタンドアローンの接客AIサービスの開発にはさまざまな課題の解決と膨大なデータの収集が必要で、実用化までのプロセスは挑戦的なものとなるが、「見て、聞いて、話して、動く、しかも専門知識も有している接客ロボット」は、人材不足が進行する業界にとって期待すべき存在になりそうだ。(フリーライター・小倉笑助)

小倉笑助

家電・IT専門メディアで10年以上の編集・記者経験を経て、現在はフリーライターとして家電レビューや経営者へのインタビューなどをメインに活動している。最近は金融やサブカルにも執筆領域を拡大中

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