NECの取り組みから探る「ユーザー企業がDXを成功に導く3つの要件」

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2024年06月03日 17:01  ITmediaエンタープライズ

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BluStellarの内容(出典:NECの会見資料)

「本日はDX(デジタルトランスフォーメーション)事業について非常に重要な発表をしたい」


NECの取り組みから探る「ユーザー企業がDXを成功に導く3つの要件」


 NEC社長兼CEOの森田隆之氏は、同社が2024年5月30日に同社が開いたDX事業の強化についての記者説明会でこう切り出した。発表したのは、同社がこれまでDXの事業基盤としてきた「NEC Digital Platform」を進化させ、価値創造モデルとして新たにブランド化した「BluStellar」(ブルーステラ)だ。本稿では、NECのこの新たな取り組みのポイントを探るとともに、そこから企業がDXを成功に導く要件について考察する。


●NECがSIerから「Value Driver」に転身する理由


 森田氏はBluStellarについて、次のように説明した(図1)。


 「当社が持つテクノロジーや人材、視点の全てを結集し、お客さまのビジネス変革を進め、未来へと導く価値創造モデルをブランド化した。お客さまの経営アジェンダを起点として、価値創造に向けた構想から実装までエンドツーエンドのビジネスモデルによって、お客さまと社会のDX人材を成功に導いていく。このビジネスモデルを支えるのは、テクノロジーおよび組織と人材だ」


 「テクノロジーにおいては、当社が強みとするAIやセキュリティをはじめ、これまで蓄積してきた知見やノウハウを集結し、お客さまのDXに最適なオファリングを提供する。そして、DXを強力に推進する原動力は組織と人材だ。当社の1万人のDX人材がナレッジをフルに活用し、課題解決に向けてお客さまに伴走する。また、お客さまおよびパートナー企業との共創プログラムを通じてテクノロジーを活用した顧客接点や業務の改革といった具体的な企業活動を強力に推進する」


 同氏はBluStellarを推進する全社横断組織を2024年4月に新設したことも明らかにした。2023年度にNECグループ全体を横断するDX事業推進組織として「デジタルプラットフォームビジネスユニット」(現在約3万4000人)を設け、今回この中に「BluStellar事業推進組織」を400人体制で立ち上げた。さらに、各事業部門にBluStellarのアンバサダーも配置し、幅広い事業領域に対応する構えだ(図2)。


 森田氏に続いてBluStellarの説明に立ったNEC CDO(最高デジタル責任者)の吉崎敏文氏は、「新ブランドを機に、当社はシステムインテグレーター(以下、SIer)から『Value Driver』へ転身する」と明言した。同氏によると、「システムを受託開発するSIerからBluStellarによってAIを活用した自動化、自律化、標準化を進め、社会価値創造をリードするValue Driverに進化する」とのことだ。


 その変化を表した図3では「System Value Driver」と表記されているが、これはSIerと対比させた形で見せているからだろう。システムのほかにサービスも対象となることから、同社としてはValue Driverという言葉を前面に出していく構えのようだ。


 DXの進展に伴い、SIerは自らを「ITサービス事業者」と呼ぶケースが増えているが、単に事業者として分類しただけのイメージが拭えない。主力事業はSIerと変わらないのにユーザーのDXパートナーになれるのかという議論は今も続いている。2022年7月4日掲載の本連載記事「“日本の”ITサービスベンダーをパートナーに選んで大丈夫?――NEC社長に聞いてみた」で、タイトル通り森田氏にその点をズバリ聞いてみたところ、同氏はNEC Digital Platformの意義を強調していた。今回のBluStellarおよびValue Driverは、その進化形の話である。


 ちなみに、BluStellarの名称の由来は、イタリア語の「Blu」(「青」の意味)と「Stella」(「星」の意味)からなる。青い星は一般に「シリウス」を指す。これをして、「NECはValue Driverとして夜空で最も明るく輝く星のように、人々と社会が進むべき目印となる星になる」との想いを込めたとしている。また、語末に「r」をつけることで、さらに強く、主役のような意味合いを付け足しているとのことだ。


●BluStellarはDX推進ユーザーにとって映し鏡に


 吉崎氏は新ブランドであるBluStellarの重点戦略について次の3つを挙げ、その内容を以下のように説明した。


 1つ目は、「AIをフル活用したビジネスプロセス変革」だ。構想策定からサービスデリバリー、運用・保守まで、全てのプロセスにAIを活用することで、従来型のSIから進化し、顧客価値の最大化を図る。コンサルティングサービスにおいては、データサイエンスの知見を活用して顧客の構想策定を実施するAIコンサルタント約100人を配備して戦略コンサルタントを強化するとともに、経営アジェンダの解決にデータサイエンスを融合させることで、スピーディーな実装を目指す。また、AI活用によるプロセスの高度化は、デリバリースピードと生産性を高め、顧客への迅速な価値提供を実現する(図4)。


 2つ目は、「AIとセキュリティをキーとした先端テクノロジーの集約」だ。NECは業務プロセスの変革を実現するAIと安全・安心な社会基盤の運用に欠かせないセキュリティをキーテクノロジーと捉え、125年の歴史で培われた先端テクノロジーをBluStellarに集約し、高度なサービスへと変換して顧客に提供する。研究開発とビジネスの連携を強化することで、市場投入スピードを加速する(図5)。


 3つ目は、「オープンなエコシステムによる共創」だ。共創を通じた新たな市場価値創出に向けて、グローバルハイパースケーラーとの戦略協業や共創パートナープログラムなど、約400社のパートナーとビジネスを強化・拡大する。グローバルハイパースケーラーとの戦略協業においては、2025年に向けて社内にDX人材を1万2000人とすることを目指し、さらに人材を育成する。社内ノウハウを基にしたDX人材育成プログラムを提供する約420社、約3万人以上の顧客とともにデジタル浸透を進める(図6、図7)。


 その上で、吉崎氏は「当社は2019年にDX専任組織を立ち上げ、他社に先駆けてDXオファリングを提供開始した。その後、戦略コンサルティングのアプローチやグローバルアライアンスを推進するとともに、NEC Digital PlatformやDXを推進する全社横断組織を整備してきた。BluStellarはそうしたこれまでの当社のDXに向けた取り組みの集大成をブランド化し、新たなステージへと前進する決意を示したものだ」と力を込めた。


 「集大成」という言葉が気になった筆者は会見の質疑応答で、「BluStellarにおいて拡充すべき点はもうないのか。あるとしたら何か」と聞いた。これに対し、森田氏は次のように答えた。


 「フレームワークは出来上がったが、中身の進め方としてどうメリハリをつけていくかがこれからのポイントだ。その大きな要素となるのはスピード感だ。グローバルで競争力のあるテクノロジーをしっかりと育てる一方で、オープンなエコシステムにおいてそれぞれの強みを生かしたパートナー連携がこれから非常に大事になる。その意味では競合他社とも共存できるし、競合がパートナーになるかもしれない。DX市場はそれだけ大きいということだ」


 この森田氏のコメントはベンダーにとどまらず、DXに取り組むユーザーにも当てはまるだろう。


 最後に、今回の話から、企業(ユーザー)がDXを成功に導く要件を3つ挙げたい。


 1つ目は、AIをフル活用したビジネスプロセス変革だ。BluStellarの重点戦略の1つ目に挙がっていたもので、今後の経営改革においてこの取り組みが最も効果的なのではないか。


 2つ目は、オープンなエコシステムによる共創だ。これもBluStellarの重点戦略の3つ目に挙がっていたもので、企業は今後、社内のDXにとどまらず、自らのビジネスにおいてもDXを進める必要に迫られることを見越しての取り組みだ。自らの将来像をどれだけ想像できているかが問われることになる。


 3つ目は、全社横断組織によるDX推進だ。森田氏が図2を示しながら話した内容がポイントだ。企業にとってDXの推進は全社的な取り組みでなければならない。この点は本連載でも繰り返して指摘してきたことだが、まだまだその認識が十分に広がったとは言い難いので、改めて強調しておきたい。


 こうしてみると、今回のNECの話は、DXに取り組む企業にとっても「映し鏡」となるところがいろいろとありそうだ。


著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。


このニュースに関するつぶやき

  • 『バリュードライバー』←またNECが変なことを言い出したぞ。かつてNECは『ベストオブブリード』と言い出して、自社技術を捨ててから会社が傾いた。要は「他人のふんどしで相撲を取る」ってことだろう。
    • イイネ!11
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