『トムス／童夢85C・85C-L』トヨタ、ル・マン24時間制覇への一歩を踏み出す【忘れがたき銘車たち】

　モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、1985年ル・マン24時間レースなどを戦ったグループCカーの『トムス／童夢85C・85C-L』です。

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　2018年にTS050 HYBRIDでル・マン24時間レースを初めて制覇し、その後、2021年にはハイパーカーのGR010 HYBRIDへとマシンを変えてもなお連勝記録を更新し続け、2022年まで“ル・マン5連覇”という偉業を成し遂げたトヨタ。

　2023年こそライバルであるフェラーリに勝利を奪われてしまったが、2024年も2年ぶりのル・マン制覇を狙って、FIA世界耐久選手権でGR010 HYBRIDを戦わせ続けている。

　そんなトヨタのル・マン挑戦の歴史のはじまりは、いまから39年前の1985年に遡る。そのときのマシンがトムス／童夢85C・85C-LというグループCカーだった。

　1982年、この年のちに隆盛するグループCという車両規定が正式施行された。この規定に沿ったマシンをトヨタの有力プライベーターであったトムスとレーシングコンストラクターである童夢がタッグを組んで開発。

　そのとき誕生したのがトムス童夢セリカCという車両だった。このセリカCは、当時発売されていたトヨタ・セリカのフォルムをしているということを条件に当時、トムスの舘信秀がトヨタから予算を得て童夢が製作したマシンで、グループCカーでありながら市販車風のボディを纏っていた異色な1台だった。

　翌年にはトムス83Cというマシンがデビュー。83CはコスワースDFLというエンジンを積む童夢RC83とモノコックを共有する1台で、83Cにはトヨタから供給されたグループC向けに最適化された4T-GT改という2.1リッターのエンジンを搭載。ここからトヨタのグループC活動が本格化していった。

　1984年になるとトムス／童夢84Cというマシンを新たに導入。この84Cは童夢が当時のグループCカーのトレンドであったポルシェ956の写真を参考に設計した車両で、トムス車、童夢車ともにトヨタの4T-GT改の搭載を前提に初めて作られたグループCカーであった。

　つまりこのとき初めて、トヨタエンジン専用のCカーが誕生したのだ。

　85C／85C-Lとはこの84Cを改良した発展型のモデルだ。85C／85C-Lは基本的な作りは84Cを踏襲しているが、モノコックの剛性を高めるためにフロアなどの材料が変更されていたほか、補強が加えられている。また空力面でもわずかにデザインが改められていた。

　85Cは1985年のシーズン途中から全日本選手権へとデビュー。そして初めてル・マン24時間レースへの参戦も果たすことになった。これがトヨタのル・マン挑戦史の本格的なはじまりとされる。

　このル・マンに向けてリヤカウルを後方へと延長して、リヤウイングをカウル一体型のものに改めたマシンを投入した。これが85C-Lと呼ばれるロングテールボディのモデルだった。

　85C-Lは童夢車、トムス車の2台が投入され、1985年のル・マンを戦った。ただ童夢車は85C-Lのボディが思ったほどの効果を発揮しなかったこともあり、全日本選手権を戦った85Cのボディで決勝を戦っている。

　その決勝レースでは童夢車はリタイアに終わったものの、トムスの85C-Lは中嶋悟、関谷正徳、星野薫という3名のドライブで、総合12位で完走を果たす。優勝したヨーストのポルシェ956からは44周遅れだったが、この結果を足がかりにトヨタの長きに渡るル・マンへの挑戦が始まっていくのだった。

　ちなみに、このトムスの85C-L。レース後はさまざまな人々の手に渡り、海外でボロボロの状態で放置されていたのだが、それを見つけた熱意ある日本のエンスージアスト、国江仙嗣さんが復元させ、2022年のル・マンクラシックへと参戦。

　当時のドライバーである関谷正徳と中嶋悟の子息でトヨタのル・マン初優勝を達成したひとり、中嶋一貴が搭乗し、監督を舘が務めるという体制でクラス優勝を達成。ポディウム登壇を果たしている。