岸田首相 高齢者の定義「70歳引き上げ」で年金1300万円減!労災死増加の懸念も

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2024年06月06日 06:10  web女性自身

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現在、65歳以上となっている高齢者の定義。これを5歳引き上げようという提言が話題になっている。これが招くのは年金の大幅な減額と、高齢者の労災の続出だ。頼みの綱の賃上げも、不都合な真実が明らかになって――。



「高齢者の健康寿命も延びるなか、“高齢者”の定義を5歳引き上げるべき!」



岸田文雄首相(66)も出席した経済財政諮問会議で5月23日、経団連のトップたちから、そんなトンデモ提言が飛び出した。



現在、日本では65歳以上を“高齢者”と定義。WHO(世界保健機関)も65歳としているが、これを70歳に引き上げようというのだ。



こうした経団連トップたちからの提言に対し、岸田首相は、「誰もが活躍できる社会を実現しなければならない」と発言。経済財政運営の基本指針である「骨太の方針」に、盛り込む考えを示したという。



「“高齢者”の定義を引き上げようという背景には、年金受給開始年齢の引き上げや、社会保険料の納付期間を延長したいなどの思惑があるのでしょう」



そう推察するのは、鹿児島大学法文学部教授で社会保障に詳しい伊藤周平さん。



仮に高齢者の定義が引き上げられ、年金受給開始年齢も70歳になった場合、生涯に受給できる年金は大きく減る。



総務省「家計調査(2023年平均結果)」によると、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の年金受給額は月21万8441円、「65歳以上の単身無職世帯」の年金受給額は月11万8230円となっている。



5年間、受給期間が減るとなると、夫婦世帯では約1300万円、おひとりさま世帯では約700万円もの“もらえるはずだった年金”がもらえないことになるのだ。



「そうなると、65歳を過ぎても働かざるをえない高齢者がますます増えるでしょう。健康な方はまだしも、持病を抱えている高齢者は、一層厳しい状況に追い込まれてしまいます」(伊藤さん)



これまでも政府は、年金受給開始年齢の先送りと合わせて、高齢者の雇用拡大を進めてきた。



実際に、この10年で高齢者の就業率は右肩上がりだ。総務省の「労働力調査」によると、2012年には約58%だった60〜64歳の就業率は、2022年には約73%に。65〜69歳では約37%から約51%に、70〜74歳でも約23%から約34%に上昇している。



「健康寿命が延びたこともありますが、2000年に法改正され、それまで60歳だった年金の受給開始年齢が、2013年度から65歳へと段階的に引き上げられたことが関係しているでしょう(女性は2018年度から引き上げ)」(伊藤さん)



65歳以上の高齢者の就業者数は19年連続で増加し、2022年には過去最多の912万人にのぼった。健康な高齢者が“生きがい”のために働くならよいのだが、気がかりなデータも……。



「高齢者の就業率増加とともに、高齢者の“労災死”も増加しています」



そう警鐘を鳴らすのは、高齢者の労働問題に詳しい弁護士の尾林芳匡さんだ。厚生労働省の「労働災害統計」によると、昨年はやや減少しているものの60歳以上の労災死は近年増え続け、2021年に過去最多の368人を記録。



全年齢の労災死のうち約4割が60歳以上という結果になっている(表参照)。全年齢で60歳以上の労働者が占める割合は2割程度なのにもかかわらずだ。



「今後、年金受給開始年齢が65歳から70歳に引き上げられたら、さらに高齢者の労災死が増えることが懸念されます」(尾林さん)





■けがをしても労災申請できない高齢者



その場合、高齢者の労災死はどれくらい増えるのか、伊藤さんのアドバイスのもと、本誌が試算を行った。本誌の推計によると、2022年の60歳以上の就労者数は約1460万人。2030年の60歳以上の就労者数は推計約2810万人と、約1.9倍となる。労災に対する適切な対策をとらなければ、2030年における60歳以上の労災死は約700人(2022年は360人)が予想される。



過去に前出の尾林さんが相談を受けた高齢者の労災死の事例では、こんな悲惨なものがあった。



「年金だけでは心もとないからと、深夜のガソリンスタンドで働いていた73歳の男性が、〈連続勤務で体調が悪いので今日は休みたい〉と、スマホから勤務先にメッセージを送信しようとした矢先に心筋梗塞で亡くなったという事例がありました」



その男性は、持病や年齢を考え、「労働時間は週30時間未満」などと勤務契約を結んでいたが、契約は守られていなかったという。



「深夜の勤務自体大変なのに、亡くなる寸前には、猛暑のなか連続6日勤務までしていました。しかし、そんな状況下で亡くなっても、現役世代と比べると労働時間が短いため、労災と認められることは容易ではありません。こうしたケースは少なくないんです」



つまり、報告されている高齢者の労災での死者数は、氷山の一角という可能性があるというのだ。



「そもそも、高齢者の就業要件は厳しく、環境のよい室内で安全にできるような仕事は、なかなか見つからないのです」(尾林さん)



熊本大学法学部教授で労働法が専門の紺屋博昭さんも、「高齢者の雇用環境はブラックそのもの」と、こう続ける。



「各都道府県には、“シルバー人材センター”が設置されていますが、これは高齢者の雇用安定に関する法律のもとにつくられたにもかかわらず、高齢者の雇用安定にはつながっていません。



生活費を稼ぐほどの賃金が得られないばかりか、高齢者はセンターから紹介された仕事を“請け負う”かたちになっていて、就業先と雇用関係を結ばないため、けがをしても労災申請すらできません。“けがと弁当は自分持ち”というブラックな状況です」



こうした悲惨な状況を改善するためには、どうしたらよいのか。



「事前に高齢者への配慮がある勤務先か確認する、また契約内容と異なる労働環境で働かされた場合、すぐに辞める、または弁護士やユニオンに相談するなど、なんらかのアクションを起こすことをおすすめします」(尾林さん)



死なないための“知恵”と“お金”を今から蓄えておこう。

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