トヨタのスーパーGT連覇のカギは「アレジの息子」 泣かず飛ばずのどん底を乗り越えてついに才能が開花!

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2024年06月06日 17:10  webスポルティーバ

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 4月に開幕を迎えた2024年のスーパーGTシリーズ。トヨタ・日産・ホンダの国内3メーカーの参戦するGT500クラスは、今シーズンも三つ巴の様相を呈している。

 ライバルとの僅差の争いから抜き出るため、3メーカーは今季もマシン開発に余念がない。ホンダはシビックTYPE R-GTを新たに投入してリベンジを誓い、日産勢はZをベースにした車両の空力パーツを改良して王座奪還に燃えている。

 そんななか、前半3戦が終了してランキングで一歩リードしているのがトヨタ陣営だ。

 昨年のチャンピオンチームau TOM'S GR Supra(ナンバー36・坪井翔/山下健太)が好調で、第1戦・岡山でポール・トゥ・ウィンを果たすと、第2戦・富士で4位、第3戦・鈴鹿でも5位入賞を果たした。

 スーパーGTでは成績に応じて車体に重りが積まれる「サクセスウェイト」というルールがあり、36号車はライバルと比べるとかなり重いウェイトを背負っている。しかしそれでも、着実に追い上げて上位入賞を続けるという驚異の強さを見せている。

 その36号車の強さが輝く一方、影を潜める存在となっていたのが、同じTOM'Sが手がけるDeloitte TOM'S GR Supra(ナンバー37・笹原右京/ジュリアーノ・アレジ)だ。

 かつては平川亮/ニック・キャシディが2017年にチャンピオンを獲得するなど、常にランキング上位で争ってきた37号車。しかし2022年にサッシャ・フェネストラズ/宮田莉朋が第4戦・富士を制して以降、勝利から遠ざかっていた。

 2023年からは再起を図るべく、マシンのカラーリングを一新。ドライバーもホンダから移籍してきた笹原右京と、若手のフランス人ジュリアーノ・アレジに変更した。ジュリアーノはジャン・アレジの息子として、デビュー当初から常に世間の視線を集めるドライバーだ。

【「アレジの息子」に向けられた世間の目】

 ヨーロッパでレース経験を積み、父が在籍したフェラーリの育成ドライバーにも選ばれたジュリアーノ・アレジは、F1の登竜門でもあるFIA F2までステップアップした。しかし、そこでは結果を残すことができず、2021年から活動の場を日本に移した。

 急遽代役で参戦したスーパーフォーミュラでは、さまざまなラッキーも重なり2戦目にして初優勝を記録。「アレジの息子」に向けられた世間の期待は、いやがおうにも高まった。

 しかしその後は、上位に進出できないレースが続く。2022年からはスーパーGTにGT500クラスで参戦するも、ほとんど表彰台に届かない苦しい日々が続いた。

 結果が出ないと、もちろんドライバーへの風当たりは強くなる。特にアレジは来日直後のインパクトが大きかった分、その後の苦戦が悪目立ちした。2023年のスーパーフォーミュラのシーズン途中にドライバー交代を宣告され、レギュラーの座を失ってしまうことになる。

 アレジはサーキットで会えば、いつも笑顔を振る舞うナイスガイ。しかし、次第にその笑顔も消えていった印象があった。アレジが当時を振り返る。

「うまくいかない時、ドライバーのせいにするのは簡単だけど、それ以外にもさまざまな原因があったりします。僕たちはクルマをできるだけ速く乗りこなすのが仕事だから、それがうまくいかなくて実力を見せられない時間が続いた時は、正直フラストレーションが溜まりました。当時を振り返ると本当に大変な時期で、ストレスで髪の毛が抜けていないのがミラクルなくらい、本当につらかったです」

 昨年からコンビを組み、ともに苦しい時期を歩んできた笹原も、アレジについてこう語る。

「ジュリアーノのフラストレーションが溜まって、めちゃくちゃ怒っている時もありましたけど、『自分たちを信じられなくなったら終わりだからね』と話していました。『とにかく耐え続けてひとつひとつ解決していこう。そうすれば絶対に何かすごいことが起こるから』と言い続けていました」

【コースオフ寸前の攻めた走りで初のPP獲得】

 その言葉どおり、自分を信じ、耐え続けていたら、アレジに転機が訪れた。

 親交のあるGT300ドライバー片岡龍也が携わるROOKIE Racingからスーパー耐久シリーズに参戦することになると、開幕戦からいきなり見違えるような快走を見せたのか。

 特に圧巻だったのは、スーパーGT第3戦の前週に行なわれた富士24時間レース。夜中で雨が降っているのにスリックタイヤで走らなければいけない時間帯をアレジが担当すると、難しいコンディションのなか、見事にマシンを乗りこなして総合優勝を飾った。

 この経験が、大きな自信になったことは間違いない。37号車を率いるミハエル・クルム監督は、富士24時間レースでのアレジの走りを賞賛した。

「夜中に雨が降ってきたけどスリックタイヤで走らないといけないし、スピードの異なるほかのクラスの車両も追い抜きながら走らなければいけない。そういうところで結果を残せたのは、ドライバーとして自信になります。今年のジュリアーノは開幕戦からいいパフォーマンスを出していたので、ずっと期待していました」

 自信を持って臨んだスーパーGT第3戦(6月1日・2日/鈴鹿サーキット)。まず予選Q2でコースオフ寸前の攻めた走りで初のポールポジションを獲得すると、決勝ではトップを死守した笹原からバトンを受け取って着実な走りを披露。先行するENEOS X PRIME GR Supra(ナンバー14・大嶋和也/福住仁嶺)がペナルティで後退したことにより再びトップに立つと、アレジは最後までミスのない走りで後続を寄せつけず、悲願のスーパーGT初優勝を飾った。

「本当に、チームに『ありがとう!』と言いたいです!」

 マシンを降りたアレジは、ずっと出せなかった喜びの感情を一気に爆発させた。そして表彰台の中央でトロフィーを掲げながら、いつしか消えていた満面の笑みを見せてくれた。

【アレジは「強い37号車」を復活させられるか】

 この勝利でアレジと笹原は、計27ポイントでランキング3番手に浮上。チャンピオン争いでも注視すべき順位に食い込んできた。だが、かつての「速くて強い37号車」の姿を取り戻すべく、TEAM TOM'Sの山田淳総監督はふたりにさらなる進化を求めている。

「ここからがスタートだと思っています。この優勝を経て、どう変わっていくのかを見届けるのが楽しみ。特にジュリアーノは最終スティントもライバルと同じようなペースで走れていたので、自信になったと思います」

 苦難の道を歩んできたジュリアーノ・アレジの勝利は、スーパーGT連覇に邁進するトヨタ陣営の士気を高めたに違いない。

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