アウトドアチェアのベストセラー、Helinox『チェアワン』と夏フェスの悩ましい関係

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2024年06月08日 08:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
Helinoxの『チェアワン』という組み立て式アウトドアチェアをご存知だろうか。


なんていうのもわざとらしく感じるほど有名なチェアで、アウトドア好きにとっては「何を今さら」な話だろう。

とにかくこの10年余り売れに売れているベストセラーモデルだから、その名は知らずとも、写真を見て「ああ、アレね」と思った人も少なくないと思う。

○■2012年に発売するや一世を風靡した画期的モデル



Helinox『チェアワン』が市場に初登場したのは、2012年のこと。

非常に軽い(わずか890g)のにめちゃ頑丈(耐荷重145kg)で、コンパクトに収納できて(最大長35cm)持ち運びに便利。

そのうえデザインがカッコよく、座り心地も快適なことから、あっという間に人気商品となった。

発売するや口コミで評判が広がり、世界中のキャンパーやハイカーからロックフェス参加者などまで、幅広い層に支持されるようになったのである。



Helinox社は、1988年に創業した世界有数のテント用アルミポールメーカーDAC(Dongah Aluminum Corporation)社を母体とし、2009年に立ち上げられた会社。

軽量かつ頑丈なことで定評のあるDACのアルミポールを、幅広く活用して商品開発する使命を担ったブランドである。


そのHelinox社が持てる技術の粋を集めて開発した『チェアワン』は、その実用性とデザインが評価され、2013年には国際的なデザイン賞であるレッドドット・デザイン・アウォードや、国際スポーツ用品・ファッション総合見本市のISPOアウォードなどを受賞。

ブランドのフラッグシップモデルになっていく。



僕の私物『チェアワン』は、確か2014年か2015年に買ったものだ。



その頃、ガチなアウトドアシーンだけではなく、家族連れがくつろぐ近所の公園から夏フェス会場、編集者という職業の僕の仕事場である撮影現場に至るまで、本当にどこへ行っても『チェアワン』を見かけることが多かった。

アウトドアアイテムながら、アウトドア志向の人だけにとどまらぬ勢いの広がり方をしていたのが印象的で、“スマッシュヒット”とはこういうことかと思ったものだ。



当時の僕は、長年愛用する別のメーカーのアウトドアチェアを持っており、『チェアワン』を買う必要は、当初こそあまり感じていなかった。

でも、ここまで流行っているのであれば、自称“新しいもの好き” の沽券に関わると思い、やや出遅れ感があったが入手。

そして実際に使ってみると、目からウロコが落ちた。

座り心地や使い勝手の良さはもちろん、所有欲を満たすような感覚も強く、人気の理由がよくわかったのだ。



それ以来約10年にわたってガンガン使っているけど、いまだまったくガタはきていないから、『チェアワン』は耐久性にも優れていることを、個人的に保証したいと思う。

○■コンパクトサイズながら抜群の座り心地



マイ『チェアワン』は普段、専用の収納袋に入れて、常に車のトランクにぶち込んでいる。

公式スペックによると、収納時のサイズは幅35×奥行き10×高さ12cm。

非常にコンパクトなので、限りあるスペースの車内に常備していても、まったく邪魔と感じたことはない。


そして使えそうなシチュエーションを見つけると、車からヒョイと持ち出しておもむろに組み立てる。


組み立ては簡単至極で、慣れれば30秒くらいでできる。

展開時のサイズは、幅52.5×奥行き50×高さ65cm(座面高35cm)だ。


組み立ててもやはりコンパクトなサイズだが、買う前はこの"小ささ"が少し気になっていた。

もうちょっと大きくないと、座った際のリラックス感が得られないのではないかと思ったのだ。

しかし実際に使ってみると、座り心地は抜群だった。

シート部分はアルミポールのフレームに吊り下げたハンモック状なので、座ると腰が包み込まれるような感覚が得られる。

背もたれに体重を預けても、しっかりとした安定感があるのだ。



ちなみに、それでもやっぱりチェアは大きくゆったりしたほうがいいという人のために、僕は持っていないが、『チェアワン』の背もたれを長くした『チェアトゥー』というモデルもある。

ほかにも『チェアワン』をさらに軽量コンパクト化した『チェアゼロ』や、『チェアトゥー』よりもさらに広い座面を持つ『サバンナチェア』などなど、Helinoxは『チェアワン』を起点としたシリーズを多数展開しているので、自分の体格や好みに合わせて選ぶといいのだろう。


僕はといえば、体格は小柄なほうだし、野外でチェアに長時間座る機会はさほど多くなかったりするので、軽量コンパクトで携帯性に優れ、十分満足できる座り心地の『チェアワン』がやっぱりマイベストだと思っている。


○■なぜフジロックで使用禁止になったのか



僕が2014年だったか2015年だったかに(うろ覚えですみません)『チェアワン』を購入しようと思い立った直接の動機は、その年に参加予定だった夏フェス、具体的に言うとフジロックフェスティバルに持っていきたかったからだ。

フジロック経験者には激しく同意してもらえると思うが、3日間にわたる長丁場の野外フェスを、心ゆくまで楽しむための大きなポイントは、"良いチェアを持っていくこと"である。



見たいバンドを追っていくつものステージを巡るフェスは体力勝負で、休憩時に体を預けてリラックスできるチェアを持っていなければ、疲れ果ててライブを楽しむどころではなくなってしまうのだ。

フジロックには初期から参加していた僕は、『チェアワン』以前、某メーカーの大きめな折りたたみ式アウトドアチェアを持参していた。

そのチェアも座り心地は良く重宝していたのだが、なにぶんにもサイズがでかく、たたんで肩に背負って運ぶのがちょっと大変だった。



誰もが同じようなことを感じていたようで、僕が購入した頃から、『チェアワン』はフジロック会場で大増殖していった。



しかし現在、フジロックへの『チェアワン』持ち込みは禁止されている。

2020年から公式に、Helinox『チェアワン』に代表される"組立式アウトドアチェア"の持ち込み禁止がアナウンスされた。

理由は、「折りたたまずに持ち運ぶ人が多く、フレームの突起部が他の来場者にぶつかり大変危険」ということだった。



確かに、禁止になる前から会場では『チェアワン』の使用法が問題視され、主催者側から注意喚起がされていた。

『チェアワン』はあまりにも軽くてコンパクトなため、いちいち折りたたまず、展開したまま頭にかぶって移動する人が多かったのだ。

座面を頭にかぶって歩くと、アルミポールの脚部が後ろを歩く人に向かって突き出る形になり、確かに危険だった。


こればかりは使用者側のマナーの問題であり、優秀すぎるチェアを作ってしまったためにバンされたHelinoxとしては、内心忸怩たる思いがあるだろう。

今年2024年に行われるフジロックのHPにも、組み立て式アウトドアチェアの持ち込み禁止は相変わらずしっかりと書かれているので、いまだこの問題は解決していないようだ。



Helinoxの商品ラインナップを見ると、そうしたことへの対応なのか、突き出す脚部のない『インクラインフェスティバルチェア』という商品もあるが、組み立て式であることには変わりなく、これも持ち込み禁止になるのかな?

フジロック以外のフェスだったらOKなのだろうか?



現在進行形の問題なので、ここではっきりしたことは書けないが、夏フェスとチェアの関係は、なかなか悩ましい局面が続いているようだ。



それはまあさておき、Helinox『チェアワン』はやっぱり素晴らしいアイテムなので、僕は正しい使い方でこれからも愛用していきたいと思う。



フジロックでも使いたいんだけどなあ……。


文・写真/佐藤誠二朗



佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000〜2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。新刊『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』発売。
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