子どもに中学受験をさせない「2つの決定的なデメリット」。東大卒の人気家庭教師に聞いた

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2024年06月08日 08:50  女子SPA!

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女子SPA!

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 こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。

 今、中学受験市場が熱い! というのは、多くの人が感じているかと思います。背景には、少子化による子ども1人当たりの教育費の上昇や、公立校への不信感などがあると言われています。

 こうした状況下で、近年では中学受験をきっかけとする教育虐待や家族関係の悪化も問題視されています。かくいう筆者も実は25年ほど前に、中学受験をきっかけに心を壊してしまった一人。親の意向によって受験のレールに乗ったものの、合格後の学校と合わず、2年後に私立中学校を自主退学したという経歴を持ちます。

 今回話を聞いたのは、家庭教師として25年以上のキャリアを持ち、“中高一貫マニア”を自称する受験アドバイザーで、年間300件のコンサル依頼が殺到する東大卒のフリーランス家庭教師・長谷川智也さん。

 中学受験市場の加熱の背景とは? 今、中学受験の現場で起きていることとは? 難関中学受験に挑む子どもとその親たちに日々向き合い、これまでに約2000人を指導してきたという長谷川さんに、そも実態を語ってもらいました。

◆加熱する中学受験市場の背景

 長谷川さんの家庭教師としてのキャリアをスタートさせたのは1999年。東京大学入学後に、学業と現在も続けるバンド活動の両立のために、家庭教師のアルバイトを始めたことがきっかけです。

 それから現在にわたり25年間以上、中学受験だけでなく高校や大学受験など、個別指導と受験カウンセリングを行っています。

 25年であれば、おそらく受験のブームも何回か目の当たりにしているかと思いますが、近年の加熱具合は、長谷川さんの目にはどう映っているのでしょうか。

「中学受験が当たり前になった背景の一つに、『ネット社会によって”真実”が明るみになってしまったこと』があると思います。『公立中学の状況はヤバい!』『結局学歴社会は終わっていない』といった情報が知られてしまったことで、『やっぱり学歴はあったほうがいいし、早いうちにお金をかけたほうが有利ではないか』といった判断をする家庭が増えたのではないでしょうか。

さらに、さまざまな報道や中学受験の実情を描いた漫画『二月の勝者-絶対合格の教室』(高瀬志著作/小学館)などメディアの力も加わり、勉強熱心でない子や、子どもに勉強習慣をつけたいだけの家庭も受験に挑戦するようになり、今の状況があると思います」

 長谷川さんはこの流れを、“アメリカ的な自由主義”と表現します。教育という分野はこの25年でとにかく自由化が進み、「いつどこで投資するかは個人の判断」という流れが加速したとか。その結果の、中学受験市場の加熱というわけです。

◆近年では塾が“世話焼き”をしない傾向

 熱く語る長谷川さんですが、そんな長谷川さんの元には、セカンドオピニオンとして塾の学習のフォローを求める親御さんが後を絶ちません。現在定期指導の定員はいっぱい(コンサルは受け付けている)とのことですが、そもそも長谷川さんが受験生に向き合い続けるようになった理由は、どこにあるのでしょう。

「もともと僕は、厳しい両親のもと勉強漬けの子ども時代を過ごしました。大学生になったら、やりたかったバンド活動と学問を両立したいとずっと考えており、効率的にお金を稼ぐ方法として、家庭教師を選択したのがキッカケです。そこから塾講師や予備校講師、教材作成など、いろんな形態で教育に関わりましたが、音楽の師である方のお子さんの勉強を見たことが、家庭教師業を本業にする転機になりました。

 ノートを見たり学習面の話を本人や保護者からじっくり聞く中で、相手の弱点や強化すべき部分を初対面の段階から見つけられ、受験までの学習計画をある程度、体系的にアドバイスできるようになったことを実感できたんです。そこから受験コンサルティングの顧客を募集し始め、すでに行っていた受験情報ブログからの集客もできるようになり、今の形に至ります」

 現在は定期での家庭教師業に加え、スポットでの受験相談なども多いと言います。長谷川さんを求める声は中学受験の加熱と並行し増えているそうですが、その理由は近年の塾の指導傾向の変化にもあるとか。

「最近は塾側のフォローがなくなり、“(大学受験の)予備校化”が進んでいます。世話焼きはほとんどせず、家庭のフォロー任せといった塾がトレンドになっています。しかし多くの家庭は共働きですから、フォローしきれなくなります。そうなると家庭教師が必要になっていきます。特に世話を焼かない傾向が強い塾である、『SAPIX』(首都圏・関西圏の中学受験の大手塾)に通う子のほとんどは、おそらく家庭教師をつけていると思いますよ」

 中学受験における塾代は平均184万円(※)という調査がありますが、それは塾(通常クラス)+塾(長期休暇の講習)+家庭教師、といったコンボ技の結果のようです。教育費が青天井になるのも頷けます。

※クレジットカード会社のモデル百貨(長崎県佐世保市)の調査より(受験をして中学生になった子どもを持つ全国の保護者500人を対象に、2024年1月24日〜2月1日に実施)

◆中学受験をするメリットとは?

 昔であれば受験しなかった家庭も次々と中学受験にチャレンジしているといいますが、そもそも中学受験をするメリットとはなんなのでしょうか。

「元も子もない話ですが、今は私立の中高一貫校で勉強したほうが、その後の大学受験で有利すぎる状況があるので、受験に向いてないだろうなという子でも頑張っておいたほうがいいと思います。これはハッキリ言って、日本の教育現場における大きな問題点です。

 私立の中高一貫校が取り入れる先取り教育に比べ、公立中学の学習内容が簡単すぎるんです。私立中学は公立中学が3年かけて学ぶ内容を1年ほどで履修し、難しい高校の勉強をゆっくりと学びます。こうした学習スピードの違いは大学受験に大きな影響を及ぼします。受験に向いてなさそうな子も、経済的に許すなら中学受験にチャレンジしたほうがいい理由はここにあります」

 長谷川さんが中高一貫校を推す理由は他にもあります。

「もう一つは、高校受験がないのでしっかりと学びに費やすことができる点です。例えば『渋谷教育学園渋谷中学高等学校』や『女子学院 中学校・高等学校』など、多くの中高一貫校では、高2の受験ギリギリまで、毎週理科の実験があるといいます。実験って学校側としては準備が大変なので、これは本当にすごいことだし、子どもたちにとって良い環境だと思います。

 あとは、私立中学校は努力してきた者同士が集まる場なので、友人のレベルも高くなりやすいです。以前『麻布学園 麻布中学校・高等学校』に行った教え子がいましたが、彼はスポーツに打ち込んでいたため、勉強がやや苦手でした。すると友達が『部活を休まれたら困るから』といった理由で、毎回勉強のフォローをしてくれたそうです。育ちの良さもあるかもしれませんが、本当に賢い子の多くは、困った人に手を差し伸べる優しさを持っているなと感じますね」

◆中学受験の未来予想図

 とはいえ、この加熱具合に親としてどうすべきかと悩んでいる人も多いのではないでしょうか。数年続く中学受験ブームを少し俯瞰し、今後、中学受験市場の動向はどうなっていくか、長谷川さんが考える未来予測図を教えてもらいました。

「今後の受験率は高まり続けるとは思いますが、若年人口は減っていますから、全体の受験人数は増えない状況になると思います。しかし、今後は“完成度の高い受験生”は増えていくことになります。

 現在もすでにそうですが、10年前ならトップ校に入れる500人くらいの完成度の高い子が、今は1500人くらいに増えています。その証拠に、昔は開成や麻布といった難関学校に楽勝で受かりそうな子が、ここ数年で落ちまくっています。こうした競争の激化は今後も進み、結果としてトップ校からレベルが落ちる学校にも、優秀な子がゴロゴロ入る状況になると思います」

 どんなに頑張っても、頑張る子が増えれば厳しい戦いとなる。他者との相対評価となるのは受験のつらいところですが、それをフォローする塾にも変化が起きそうだと長谷川さんは予想します。

「SAPIXの台頭により、予備校のようにハイレベルカリキュラムを早期におこなう塾が増えてきました。しかしネットによって、そのカリキュラムや攻略方法も手に入るようになり、優秀な子がどんどん増えています。

そうなると、『SAPIXに入れればトップ校に合格できる』といった神話は崩れ、今度は『フォローがなさすぎる状況は子どもにとって良い環境と言えるのか』といった価値観に振れると予想します。そうなってくると、さすがに世話を焼く塾が増えていくのではないでしょうか。でも、現代の子どもたちは怒られ慣れていませんから、怒らないことと手厚いフォローを両立させるのは、なかなか困難だとは思いますけどね」

 激化がとまらない中学受験市場。子どものための最善の選択はいったい、何なのか、多くの親が迷う気持ちが、少し分かったような気がします。

【長谷川智也】
ブログ名はジュクコ。1980年兵庫県明石市出身。高卒の両親のもとに育つもハードな中学受験を経験。白陵中学校・高等学校を経て、東京大学卒業後、大手塾に勤務、人気講師となる。2009年に独立してフリーランスの「プロ家庭教師」に。年間300件を超えるコンサル申し込みが殺到する。甲冑メタルバンド「Allegiance Reign」のベーシストとしても本気で活動中。ブログ「お受験ブルーズ」を運営。近著に『中学受験 奇跡を引き出す合格法則 予約殺到の東大卒スーパー家庭教師が教える』(講談社)など

<取材・文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】
水商売やプロ雀士、素人モデルなどで、のべ1万人以上の男性を接客。現在は雑食系恋愛ジャーナリストとして年間100本以上恋愛コラムを執筆中。Twitter:@utena0518

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