有沙瞳、元宝塚娘役が老舗演歌系プロダクションから再出発 こだわり続けたい歌への思い

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2024年06月08日 14:10  クランクイン!

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クランクイン!

有沙瞳  クランクイン! 写真:高野広美
 昨年宝塚歌劇団を卒業した、元星組娘役の有沙瞳。退団後、田川寿美、水森かおりら大物演歌歌手をはじめ、中村玉緒、グッチ裕三らそうそうたる顔ぶれが所属する老舗・長良プロダクションで活動をスタートさせた。7月には念願の初ディナーショーの開催を控える有沙に、宝塚時代の思い出や卒業後の活動、さらには現在の事務所に籍を置くことに決めた理由などを聞いた。

【写真】キュートな笑顔を見せる有沙瞳、インタビュー撮り下ろしショット

◆毎日学びや充実があった宝塚での11年

――退団から10ヵ月ほど経ちます。宝塚での11年はどんな時間でしたか?

有沙:そんなに長くいたという感覚がないんです。でも、毎日いろいろな学びがあり充実した11年でした。それはスタッフさんや組子といった、人と関わることから生まれたものだったんだなと、卒業して1人になり、会おうと思わないと人に会わない日々の中で改めて思います。ずっと仕事の同志としてそばにいてくれる仲間が自分を高めてくれていたんだなと実感しています。

――個人的に、初めて「有沙瞳、恐ろしい子!」と思ったのが、2014年の『伯爵令嬢』での敵役・アンナでした。あれは、研3くらいだったんですよね?

有沙:そうでした(笑)。生田大和先生が演出の作品で、はじめは、自分が思っていた娘役ではできない役といいますか、ドスが効いていて(笑)、本当に苦労しました。お稽古場で綺麗な格好をしていると全然できなくて、裸足や汚い格好でその感覚をわからせようと思ったり…。あの役に挑戦できたからこそ、後に見えるものもありましたし、逆に、あの印象が強すぎて次に違う役をしても、お客様の中にあるイメージを裏切ることに苦労もしました。

――『銀二貫』のような作品もありますが、はっきりしたキャラクターを演じられることが多かったですね。

有沙:やっぱり見に来てくださる方に、どんなメッセージでもいいんですけど、作品や自分の役を通して何かを感じて帰っていただけたらという思いがあります。演じる役も、物語の中で周りの人からの影響で苦しんだり元気になったり成長や進化をしているので、2時間半の中でその役が生きている役作りをしたいと思っていました。そういう姿をお見せすることで、どんな生き方をしていても、最後は立ち向かって生きていくさまに、お客様は共感してくださるのかなと。皆さんに「見てよかった」、「明日からも頑張ろう」と思っていただけたら、見に来ていただいた価値があるといいますか、私が演じる意味があるのかなってコロナ禍以降考えるようになりました。

――なるほど。確かに有沙さんのお芝居はどんなキャラクターを演じられても、存在感のあるものが多かったです。

有沙:11年の宝塚人生では何回か卒業を考えた時もありました。私は変化や刺激が欲しい人なので(笑)、ずっと雪組にいたらこんなに長くは続けていなかったと思います。組替えは、同じ職業だけれどもこんなにも世界が違うのかって思うくらい、雪と星では全然違いました。「雪の人だったらこういうお芝居をするのに、星の人はこういうお芝居をするんだ!」とか、同じ日本物であっても提示の仕方が違ったり、すごく面白かったです。そう思った時に、組替えをして星組で、有沙瞳として、どう娘役として生きていたいんだろうというのを、『ドクトル・ジバゴ』以降ですかね、考えるようになって…。その時に、七変化といいますか、「今度はこんな役をするの!?」と思われるような、カメレオンみたいな娘役、役者でいたいって思いました。

◆『1789』マリー・アントワネットでの退団は「娘役として辞められてうれしかった」


――やはり組替えは大きかったんですね。ほかにターニングポイントを挙げるとすると…。

有沙:いっぱいあるんですけど、今度ひとこさん(永久輝せあ)がやられる『ドン・ジュアン』が印象に残っています。芝居がほとんどなくて、歌でストーリーをつなげていく作品はほぼ初めての挑戦。役としてお芝居で歌う、ただ歌うだけじゃなくて物語をつなげていくというのはやりたかったことでしたが、難しさもやりがいもありました。

考えてみると、生田先生の作品がターニングポイントになることが多いですね。『THE SCARLET PIMPERNEL』の新人公演も、『鎌足-夢のまほろば、大和し美し-』もです。『ディミトリ〜曙光に散る、紫の花〜』は卒業を決めていたタイミングの作品でしたが、演じたバテシバは、ギオルギ様を愛しているから旅立ちますという役どころ。みんなは知らないけれど、私もまもなくここから旅立つという思いを抱えながら演じていたので、先生からの当て書きなのかな?と思ったりもしました。

――先ほど、何度か卒業を考えられたというお話がありました。

有沙:『龍の宮物語』を演じられたことによって、有沙瞳の宝塚の作品を1つ残せたって思えたんですよね。星組に組替えになってすごくお世話になっていた瀬央ゆりあさんの2回目の主演作ということもありましたし、指田珠子先生のデビュー作ということで、どうにかこの作品を残したいという思いが強くあったんです。初日が明けて、お客様からうれしいお言葉を頂いて、肩の荷が下りたわけじゃないですけど、1つ使命を果たせたという思いがあり、その後はけっこう退団を考えていて、そうした時にコロナ禍があって…。

『ロミオとジュリエット』の乳母役も最初はすごく嫌で、これまですごく上級生の方や男役さんが演じられていて、私で大丈夫なの?という思いがありました。でも、役柄的にもジュリエットのそばにずっといるし、大劇場で1人で歌わせていただいたのは、あの時が初めてだったんです。怖かったですけど、お客様や空間が味方だと思えた瞬間があり、1人で頑張らなくていいんだなと思えたのがすごく大きかったです。そこで吹っ切れて、もう一度女優として生きていきたいと思いました。唯一無二の有沙瞳を残して卒業したいと思えたのは、乳母役のおかげです。

――卒業を決めるときには鐘が鳴るとも聞きますが、有沙さんはいかがでしたか?

有沙:私は池田泉州銀行さんのイメージガールを務めさせていただいていたので、早めにお伝えしなければいけなかったんですね。なので結構前に決めてはいたんですけど、実は退団公演がどの作品になるのかは知らなかったんです。誕生日が8月なので、みんなで誕生日を過ごしたいなと思って、スケジュールを見た時に、この次から私いないかもって思ったんですよね。そこで鐘が鳴っていたのかもしれないです。これ以降、私いる感じがしない、ここかなって思ったら『1789』でマリー・アントワネットを演じさせていただけて…。

――とても素敵なアントワネットでした。

有沙:今まで頑張ってきてよかったなと思いました。実は私、『THE SCARLET PIMPERNEL』の新人公演で着させていただいた以外、輪っかのドレスを着ていないんです。マリー・アントワネットではずっと素敵なドレスを着ていられたので、娘役として辞められてうれしいなって思いました。

『王家に捧ぐ歌』でのアムネリスもそうでしたけど、すてきなお役をいっぱい演じさせていただけて。礼(真琴)さんともう1度歌いたいと思っていたら『赤と黒』でご一緒させていただけました。組替えして間もない『阿弖流為-ATERUI-』でお世話になったのですが、あの頃は楽しむよりも星組に馴染むのに精一杯で、借りてきた猫状態でした(笑)。『赤と黒』で礼さんとご一緒でき、すべてをすっきり終えられた気がしたんですよね。後悔も何もなくやりきって辞められました。

◆長良プロダクションでの再出発を選んだ理由は?


――ご卒業から約10ヵ月。ここまではあっという間でしたか?

有沙:在団していたのがもっと前な感じがします。ありがたいことに、美容に関する雑誌のお仕事や、ディナーショーのゲストやミュージカルにも出させていただき、やりたかったことを1つずつさせていただいているので、充実しています。

――長良プロダクションさんへの所属が発表され、宝塚ファンは驚きました。

有沙:(笑)。子どものころから演歌を習っていて、演歌が好きなんです。所属の決め手はもちろん演歌だったんですけど、初めの頃は、やりきったので宝塚を卒業したら舞台に立ちたいって思っていなかったんです。でも歌は続けていきたいという思いが一番にあったのと、モデルや映像のお仕事などいろんなことに挑戦してみたいという思いがありました。事務所の方にお話を聞かせていただいた時に、自分のやりたいことをさせていただけそうだなと思い、1人ずつを大切にしてくれて、それぞれの良さをちゃんと伸ばしてくださるというか、背中を押してくださるような感じがしたので、長良さんにお世話になることになりました。

――これから、演歌を歌われる有沙さんの姿もたくさん見られそうですね。

有沙:演歌はやっぱり日本人の根本の良さというか、心情、情、人らしさを歌うものですから、コロナ以降人とつながることが少なくなって、画面越しが多くなったりしてしまいましたが、やっぱり人と関わることで感じることや生まれることって絶対にあると思うんです。なので有沙瞳は、人とつながって、共有することの素晴らしさを永遠に伝えていきたいと思っています。

――ちなみに十八番は?

有沙:王道ですけど、『天城越え』が大好きです。2月にあった事務所の60周年のイベントで、先輩歌手の皆さんと同じステージに立たせていただいたのですが、全員有名というかスターさんばかり。でもここに所属させていただいたからには、宝塚の有沙瞳をもっと大きな存在にして、輝く存在になっていきたい、先輩方みたいに立派になっていきたいと改めて思いました。

そのステージでは事務所の大切な曲である『君こそわが命』と、ありのままの私をお届けしたいという気持ちを込めて『レット・イット・ゴー』を歌わせていただきました。私のことをご存知ないお客様の前で歌うのは緊張もしましたが、あの時いただいた温かい拍手は忘れられません。

◆夢だったディナーショー 大切に思っている宝塚時代の歌も披露


――7月には初めてのディナーショーが開催されます。

有沙:そうなんです! 夢がかないました!! 卒業して約1年ということもあって、宝塚の歌を歌いたいと思っています。お客様は曲名を聞いただけで、感動してくださるんじゃないかな? 私の中で宝塚はふるさとなので大切にしていきたいという思いがあり、卒業してからは軽々しく歌いたくないと、在団中に歌っていた曲はこれまでのライブでも歌っていないんです。でも今回は初めてのディナーショーですから、しっかり歌わせていただこうと思っています。

ディナーショーは、在団中に天寿光希さんのミュージック・パフォーマンスに出させていただいたことがありまして、いつか自分もやってみたいという思いがありました。卒業後に同期の飛龍つかさのディナーショーに出演し、飛龍の生き生きとした姿を見たので、今から7月がとても楽しみです。演歌ですか? 歌うかな〜?(笑) 今回は畏れ多いのですが、スーパーゲストとして天寿光希さんにもご出演いただけることになりました。素晴らしいショーをお届けできるよう、精一杯頑張りたいと思います。

――退団後初ミュージカルの『CROSS ROAD』も千穐楽を迎えられ、今後はどんな有沙瞳を見せてくれますか?

有沙:これからも有沙瞳は変わらず、さらにいろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。舞台だったら「こういう役もやるの!?」って思っていただける役に挑戦していきたいですし、先日ラジオドラマに出させていただき、セリフだけでお客様に伝えるということがすごく勉強になり、声だけで感情を表現することの面白さを知ったので、これからも挑戦していきたいと思います。7月には初めての朗読劇『若草物語』で、同期の綾凰華、星南のぞみと共演できることも本当に楽しみです。まだまだ可能性ややりたいことがいっぱいなので、縛りなくいろいろなことにトライしていきたいです!

(取材・文:高梨ヒカル 写真:高野広美)

 有沙瞳ディナーショー『M-amour』は、7月15日東京・第一ホテル東京、7月20日兵庫・宝塚ホテルにて開催。

 Classic Movie Reading Vol.3『若草物語』は、7月6日〜7日東京・銀座 博品館劇場で上演。
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