「Xperia 1 VI」は“普通のスマホ”に見えるが「戦略は全く変わっていない」 ソニーに聞く変化の理由

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2024年06月10日 12:01  ITmedia Mobile

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ディスプレイのアスペクト比や解像度が変わったことが注目を集めている「Xperia 1 VI」

 ソニーは、同社のフラグシップモデルとなる「Xperia 1 VI」を投入する。ドコモ、au、ソフトバンクが取り扱うキャリア版が6月7日に発売され、ソニー自身が販売を行うオープンマーケット版も用意。ミッドレンジモデルの「Xperia 10 VI」も発売する。いずれもXperia 1シリーズ、10シリーズの最新モデルという位置付けだが、特にXperia 1 VIは、その特徴が大きく変わったことが話題を集めた。


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 アスペクト比が19.5:9になったディスプレイは、その変化の1つだ。Xperia 1は、初代モデルからシネマスコープサイズに近い21:9のディスプレイで映画を全画面表示できることを売りにしてきたからだ。解像度も4KからフルHD+に変更されている。また、「Xperia 1 II」以降搭載してきた「Photography Pro」も廃し、カメラアプリを刷新。「Cinema Pro」や「Video Pro」も統合し、カメラのユーザーインタフェースを大きくリニューアルした。


 2019年に登場した「Xperia 1」は、「好きを極める人」をターゲットに明確化し、カメラや音楽、映像表示といったソニーの持つ技術をふんだんに盛り込むのがそのコンセプトだった。21:9のディスプレイやPhotography Proも、こうした考えに基づいて採用されたものだ。これらを大きくリニューアルしたXperia 1 VIは、ターゲットやコンセプトを変えてしまったのか。その疑問を、Xperiaの開発を率いるモバイルコミュニケーションズ事業部 事業部長の大島正昭氏と、プロダクトプランナーの八木隆典氏にぶつけた。


●21:9のアスペクト比に課題 カメラUIの改善を求める声も


―― Xperia 1以降の特徴だった21:9のディスプレイが19.5:9になったのには驚きました。戦略やコンセプトが変わったのでしょうか。


大島氏 比率変更のことはよく聞かれますが、全然そんなことはありません。Xperia 1シリーズはクリエイターの声を聞きながら作っている中で、今の視聴環境やクリエーション環境として、こちらの比率の方が創作活動に適しているという判断です。戦略自体は全く変わっていません。


―― より広い層を狙うために、とがった部分を少し丸めたということではないんですね。


大島氏 より広い層をという意味だと、どちらかといえばXperia 10 VIにがんばってもらいたいですね。「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」というコンセプトは、そのままです。


―― クリエーションの環境が変わったということでしょうか。その変化をもう少し具体的に教えてください。


八木氏 ディスプレイのアスペクト比に関しては、これまでの21:9に課題も見えてきていました。静止画や動画、視聴のところでいうと、SNSが普及していく中で、そこに向けた動画制作やSNSでの視聴がより重要になっています。その多くは16:9を前提にしていますが、サービスによっては1:1のものもあります。そういった比率のコンテンツを、まずはしっかり描写したいという声が大きくありました。21:9だと、小さく表示されるだけでなく、SNSによっては全画面表示をベースにしているため、左右が見切れてしまうこともあったからです。


 (SNS上での)クリエイターの創作活動は、プロの方も含めてどんどん増えていますが、やはりコンテンツは大事にしていきたい。また、スマホは撮影するときもライブビューを大きく表示できるのがメリットというコメントもいただいていました。こちらも、21:9より19.5:9の方が、より大きくなります。クリエイターの方に、より撮影していただきやすいディスプレイになっていると思います。


―― なるほど。そういう意味だと、Photography Proも右側に設定項目が並ぶため、ライブビューが小さくなっていました。一方で、もとのコンセプトは「α」の操作感を再現するということだったと思います。この点は、大丈夫なのでしょうか。


大島氏 αもずっと今のUI(ユーザーインタフェース)だったわけではなく、2020年に変えています。XperiaのカメラUIには、もっと分かりやすくしてほしいという声がありました。それこそ、トップクリエイターの方からもそういった声をいただいています。αと同じようにという考え方があったのはその通りですが、トップクリエイターの方々がもっと簡単に、直感的に使えることを優先すると、今のような形がフィットするのではないでしょうか。


 結果として使いやすくなったので、いろいろな人に使ってもらえると思われたとしたら、すごくうれしいことです。ただ、好みが分かれるのは理解しています。カメラは趣味性が高いものなので。


八木氏 ただし、できることはそこまで変えていません。設定項目の並び方は違えど、同じような項目は踏襲しています。逆に、Photography Proは動画にそのまま適用するのが難しいUIでしたが、最新のカメラアプリは動画になっても近いUIで撮影することができます。αの撮影UIや撮影体験を、できるだけスマホに合わせて最適化したのが今回のUIです。


―― なるほど。αそのままではなく、スマホに最適化したということですね。実際に発表してみて、反響はいかがでしたか。


大島氏 まだ発売前なので実数としての反響はありませんが、体験会をやった中でも、最初はディスプレイ比率やUIが変わったことで、Xperiaらしさがなくなったのではと思って来られる方がいました。一方で、体験した方には、“正統進化”だと感じていただけています。その意味では、変化をポジティブに受け止めていただけました。


八木氏 こういった意図で変更したと伝えると、理解してもらえます。SNSのコメントなども拝見していましたが、最初は賛否両論ありつつも、ポジティブに捉えていただけることは増えていると思います。


●ディスプレイの解像度も変更 QHDではなくフルHDにした理由は?


―― もう1つ、ディスプレイに関しては解像度が下がっています。その理由も教えてください。


八木氏 今回、ディスプレイの解像度は変更しましたが、視聴体験はより良いものになるよう、「Powered by BRABIA」という形でAIを活用し、フラグシップのBRAVIAを再現することを試みています。体験会でもデモを通じて、よくなっている、安心したというコメントをいただけています。


 解像度変更のメリットとして大きいのが、電池の持ちです。Xperia 1シリーズで最長と言っていますが、実質的にはXperia史上最長で、動画の連続再生時間は36時間になっています。前モデルとの比較でいうと倍以上で、ここはかなりよくなっています。他社モデルも含めて比較しても、一般的な端末の中ではトップクラスで、熱の影響なども含めてかなりポジティブに働いています。


 その上で、なぜQHDにしなかったのかという話はあると思いますが、これまでも視聴体験はコンテンツファーストで考えてきました。コンテンツ目線で次の解像度は何かと考えると、やはりフルHDになる。QHDのコンテンツは世の中にほとんどないからです。


―― 確かに、QHDのディスプレイを搭載している端末も、多くは通常時、フルHDに解像度を落としています。メリットが体感しづらいなら、数字だけを追わずにフルHDにというのは理解できます。逆の話になりますが、デザイン的はXperia 1 Vを踏襲している部分も比較的多いかと思います。今回のコンセプトを教えてください。


八木氏 ディスプレイ比率は変わった(結果として見た目が変わった)ことはありますが、それ以外だと、カメラ窓の色を背面のカラーに合わせる形で色を変えています。よりカメラ窓が強調され、三眼であることが伝わるようになりました。また、レンズ部分はすり鉢のようになり、傷つきにくくなっているのと同時に、光が当たるとキラっと光るようになっています。他にも、シャッターキーが前モデルより大型化し、より撮影がしやすくなっています。


●「好評」のシャッターキーを継承、カメラはソフトウェアを改善


―― シャッターキーがあるのも、Xperiaの特徴ですね。やはり、この部分は好評でしょうか。同じく、ハイエンドモデルではほとんど搭載されなくなってしまった3.5mmのイヤフォンジャックも引き続き採用されています。


八木氏 シャッターキーはご好評をいただけている部分で、体験会で使われている方のお話を聞くと、そこはキープしてほしい、撮影の楽しさにつながるといった声があります。ボタン1つで操作感が変わる部分で、よりカメラ的な撮影ができるのは大きなポイントです。


 オーディオジャックについても、音楽をとことんこだわる人は有線で遅延なく、環境に左右されないで聞きたい。Bluetoothだとどうしても環境によってビットレートが調整されてしまうこともあるので、最高の音楽を楽しむためのパーツとしてイヤフォンジャックはどうしても必要です。クリエイターの方でも、音楽を作るときの確認でBluetoothヘッドフォンを使う方がいるかというと、いないですからね。


―― 確かに、Bluetoothは都内の混雑しているような場所だと、音が途切れてしまうこともあります。ゲームでの音ズレが気になる人もいるようです。


大島氏 そうですね。途切れないようにするにはどうしてもビットレートを下げる必要があり、最高音質のまま途切れずというところにはまだ技術的な課題があります。


―― 踏襲した部分という観点では、広角カメラのセンサーは先代に続きExmor T for mobileです。やはり、あの性能だとすぐに変えるということにはならないのでしょうか。


八木氏 ただし、よりノイズ感を減らしたり、ダイナミックレンジを広げたりといった、ソフトウェアの改善は入っているので、進化させることはできたと思っています。


―― ソフトウェア的な対応ということは、Xperia 1 Vにそれを適用することもできるのでしょうか。


八木氏 現時点では課題があります。実は今回、カメラのアプリケーションだけでなく、ベースの部分も変えています。


大島氏 (UIのレイヤーだけでなく)深い部分までチューニングをしたということです。


―― ということは、Xperia 1 VIで対応した切り出しの2倍ズームもXperia Vに適用するのが難しいのでしょうか。


大島氏 はい。センサーの方式は同じなのですが、細かいところのチューニングが全然違うので、これをXperia 1 Vに入れようとするとゼロから考え直さなければなりません。実は「Xperia 5 V」を出す際にセンサーのチューニングをしていて、その新しいものがXperia 1 VIに入っています。


八木氏 48メガの真ん中だけを取りあえず切り出したらいいと思われるかもしれませんし、実際にそうしているメーカーもあるのかもしれませんが、それをした際に、色味や画角に差が出ないような調整にはこだわってきました。クロップであっても違和感がないように切り替えられることは意識しながら作っています。


●マクロ撮影のプレゼンスが上がっている


―― 今回は、望遠の焦点距離が変わったのと同時に、テレマクロにも対応しました。これはどういう意図があるのでしょうか。


大島氏 テレマクロもそうですが、それも含めたマクロ撮影がジャンルとしてプレゼンスが上がってきているところです。動画だとスローモーションの表現がそうですが、今までにない体験ができることはクリエイターが新しいことにチャレンジするためのキーになっています。2倍のテレマクロは、普通のカメラでやるのはすごく大変ですが、今回はそれを実現できました。


―― フォーカスがマニュアルですが、オートフォーカスを入れるのは難しかったのでしょうか。


大島氏 今は難しいですね。2倍でそれをやろうとすると、ピントを合わせる場所がすぐに変わってしまうので。


八木氏 オートフォーカスでやるより、自分でピントを合わせて近寄っていった方が被写体に最大まで寄れます。使っていく楽しさも大事にしています。


大島氏 ちなみに、ワイド側のマクロにはそのままオートフォーカスが効きます。


●生成AI活用はGoogleとすみ分けを図っていく考え


―― Xperia 1 VIでは、ベイパーチャンバーも搭載することになりました。やはり、チップセットの性能が上がり、放熱の要件が厳しくなったのでしょうか。


八木氏 Snapdragonの状況に限らず、特に動画において長時間撮影できたり、ゲームで発熱したりしないことが求められたからです。


大島氏 どちらかといえば、ユーザーの要求として長く使いたいというものがありました。ディスプレイに可変のリフレッシュレートを入れましたが、熱対策も1つのキーワードになります。意外だったのが、ゲーマーなーの人たちがすごく食いついてきたところです。もちろん、意識はしていましたが、ここまで反応がいいとは思いませんでした。


―― 各社とも、最近ではAIや生成AIを全面に打ち出すようになってきました。Xperiaもオートフォーカスや色再現などにAIを使っていますが、編集機能などが弱いと思います。レコーダーの文字起こしなどもできません。この点はどうお考えでしょうか。


大島氏 カメラに関わらずですが、意識しているのはリアルタイムクリエーションにAIを使っていくことです。目立っているのはカメラのインプットの部分です。一方の編集はポスト処理ですが、ポスト処理がリアルタイムになってきたときに視野に入れたいと考えています。


八木氏 Powered by BRAVIAのディスプレイにもAIを使っていますが、Googleが得意とするところと、弊社が得意とするところでは違いもあり、すみ分けができています。両社で同じものを作っても……というところはあるので、GoogleがAndroidに得意のAIを展開していく中で一緒にいい体験を作っていければと考えています。


●Xperia 10 VIのアスペクト比はなぜ21:9を継承しているのか


―― 同時に発表されたXperia 10 VIについてもうかがいたいのですが、こちらのディスプレイは21:9のままです。これは今後、19.5:9に寄せていく方向なのでしょうか。


八木氏 Xperia 1 VIに関してはクリエーションも含めて比率を変えていくという方針で、Xperia 10シリーズも視聴環境に関してはそれに近いところはあります。ただ、それ以上にXperia 10シリーズはハンドフィットの部分が好評でした。端末によるニーズの違いもあるので、今年に関してはXperia 1 VIと差を出しています。ただ、21:9が絶対というわけではありません。まずは1回、21:9を残して市場の反応を見てから、今後そろえていくかどうかは考えていきたいですね。


―― ミッドレンジモデルは、各社が端末を投入して競争がかなり激しくなっています。その中で、Xperia 10 VIはどういったところを強みにしていくおつもりでしょうか。


八木氏 まずは電池の持ちと軽さのところです。2日間、しっかり電池が持つというのは、各社ができているかというとそうではありません。また、一般的に、中国メーカーのミッドレンジモデルはもっと重い。そこは明確に差があるところだと思っています。ここに、ソニーとしての撮影や視聴体験といった味付けをしてながらどこまでお伝えしていけるかですね。


●取材を終えて:Xperia 1 VIの変化に納得、生成AI活用は今後に期待


 ディスプレイ比率やカメラUIが一見すると“普通のスマホ”のようになったXperia 1 VIだが、その狙いはターゲットを広げるためではなかった。象徴にもなっていた機能が一気に変わったため、コンセプトを刷新したのかと思いきや、話を聞いていると、時代に合わせたアップデートに近い印象も受けた。クリエイターの意見を反映させ、機能を研ぎ澄ましていた結果が、この比率であり、このカメラUIだったというわけだ。


 Xperia 1の登場から間もなく5年がたとうとしている中、これまで集まったユーザーの声を集約した結果がXperia 1 VIだったといえる。一方で、AIの活用に関しては、話を聞いても少々ふに落ちない部分があったのも事実。ハイエンドのスマホは高い処理能力を持つだけに、カメラと相性のいい映像編集などの機能にはもっと力を入れていくべきなのではと感じた。今後の開発に期待したい。


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