我が子が言い出したら“要注意なワード”。依頼殺到の東大卒家庭教師に聞いた

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2024年06月12日 09:10  女子SPA!

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女子SPA!

※イメージです
 こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。

 近年、加熱する中学受験。子どもの幸せのために受験をさせているつもりが、気がつくと子どもの心身に過度な負荷をかけてしまうケースもあります。親はその予兆はどう汲み取り、ケアしていったらいいのでしょう。

 前回の記事では受験に失敗する親のタイプを、25年以上のキャリアを持ち、年間300件のコンサル依頼が殺到するフリーランス家庭教師の長谷智也さんに教えてもらいました。今回も25年以上中学受験の現場を見てきた長谷川さんに、子どもから発せられる“SOS”について話を聞きました。

◆「大丈夫!」を気軽に使う子は大丈夫ではない

「ここ数年はコロナ禍の影響もあり、受験によるストレスで心身のバランスを崩すお子さんが増えています。コロナ禍によって遊びや友達との交流が制限され、それに受験のストレスが加わり不登校となり、しんどさから抜け出せないケースも少なく無いと思います」

 そう話す長谷川さんですが、受験といったチャレンジに向きあう最中に、子どものSOSサインを拾うことはできないのでしょうか。教えていただくと、心身の不調の一歩手前として、子どもの発言の変化について教えてくれました。

「子どもが急に調子の良いことばかりを口にし始めるときは、注意が必要です。『俺は東大に行くんだ!』とか、何を聞いても『大丈夫っす!』と軽く返してくる時は要注意です。これは一見ポジティブな反応に見えますが、僕から見ると素直さがない状態であり、プレッシャーからの逃避行動に見えます」

長谷川さんいわく、結果が出る子の特徴の1つは、素直さが必要不可欠なのだといいます。周りからの声を『大丈夫』の一言で一蹴している状態は、相手の発言を拒絶し、逃避をしている状態なのでです。

「少し変則的な返しとしては、何かアドバイスをしても『いや、僕は……』と自分のやり方や主張に固執しすぎる場合も、素直さがない状態と言えます。こうしたアドバイスを頭ごなしに否定したり、もしくは返事だけよくて、アドバイスに従えていない場合などもあります」

 素直さがないことは、一見すると大した影響はないように思うかも知れません。しかし、じわじわとその悪い態度は、テストや人生に影響をもたらすのだそう。

「僕が過去に受け持った子の事例をご紹介します。調子が良く、自分の弱点に向き合わないため、回答を見返すなどの慎重さがない。結果として単純な計算ミスなどのケアレスミスで点を落としやすいのですが、この状態を続けていたある子は、塾のクラス分けテストで些細なミスで2問落として12点減点。一度に2クラス落ちてしまいました。

計算ミスは頑張れば確実に防げるのに、そこを軽視して『大丈夫っす』と言い続ける。こういう子に限って、3回くらい同じミスを繰り返し、それでも直せないことが多いです。“ミスも実力のうち”と言いますが、自分の問題と向き合わないと、その後の結果にじわじわと影響が出てくるので、親御さんには注意して見ていただきたいです」

◆もっとも心配なことは「不登校」と「起立性調節障害」

 子どものSOSサインはいろんな形で出るものですが、「心身の不調は放っておくと本当に危険」と長谷川さんは警鐘を鳴らします。その中でも、「不登校」「起立性調節障害」はとても増えており、予兆として、遅刻や欠席が増えたら注意深く見てフォローして欲しいと言います。

「僕が見てきたケースですが、子どもが月に10回くらい遅刻をし始めたら、言葉にできないストレスが溜まり始めている証拠ではないかと思っています。あくまでも経験則ですが、遅刻が増え登校を嫌がる状態を放置すると、ストレスの根本原因が解消されず、先程挙げたような、さらなる不調にも繋がるケースがいくつかありました。

また、遅刻などの兆候が見えた段階で、親が最寄り駅まで一緒に行ってあげたり、送迎してあげるだけで良い方へ向かうケースもありましたから、親の寄り添う力は本当に重要だと感じています。

過去に見てきた生徒には、受験勉強のストレスから不登校になり、そこから引きこもり生活が大学生になるまで続いた子もいました。こうなると、例え学力を個別で身につけられたとしても、朝起きられないので社会人になるのが難しくなります。お子さんからSOSのサインを感じたら、早期に心と向き合うことを親御さんは意識していただけたらと思います」

 不登校についてはいろいろな考え方があり、絶対的な正解はありません。ただ長谷川さんは「学力はいくらでも追いつける」と不安な親御さんに力説します。それよりも、体とメンタルが健全かどうかを何より意識してほしいのだそうです。

◆壊れてしまった自分を振り返る機会に

 子どものSOSの話は、背筋がゾクッとした人も多かったのではないでしょうか。筆者は長谷川さんの話しを聞きながら、自分の中学受験から入学後を振り返り「自分は壊れてしまったんだな」と、改めて感じる瞬間がありました。

 事例として、皆さんに1つ紹介させてください。

 私は親の意向により、4年生から中学受験塾に通い勉強を開始しました。しかし母親は、送迎や生活態度へのダメ出しといった親としての役割はこなすものの、塾も学校の勉強もノータッチ。テストの点数を聞かれたことは一度もありませんでした。父親は激務のため教育に関して普段は一切関与しないのに、受験校は勝手に決めるという、両親揃って無関心と過干渉のミックス型でした。

 行きたかった学校も親に反対され受験させてもらえず、勉強してもしなくても関心は向けられない。そんな状況は、最後まで受験の意味や必要性を見いだすことができず、習い事を全部やめたことへの不満や、自分の人生への諦めといった感覚へと繋がっていました。

 そうして小学校6年生になったある日、毎朝なぜか起きられなくなり、その日から連日遅刻をするようになりました。学校は好きなのになぜか毎日起きられない。でも登校拒否をすると親に怒られるという不安もあり、遅刻魔のままとりあえず卒業に至ります。これを長谷川さんの話しになぞらえると、ストレスで壊れかけていたのだと、30年近くたってようやく受け止めることができました。

 そんな私の受験結果はというと、親の希望通りの学校に入ったものの、校風と性格が一切合わず、学校とも親とも連日揉めまくり、2年で退学となりました。しかし話はそこで終わりません。公立校に戻っても周りと馴染めず、親との関係も修復できず、どこにも精神的な居場所がない状態は続きます。仕方なく保健室登校を続け、何とか卒業・進学をしましたが、学生生活はこうした苦労が続きました。

 私のケースは、学校選びや子どもとの向き合い方、進学先との相性など、複数の失敗要因があり、おそらくここまで選択を間違える親御さんはそういなとは思います。当事者として恥ずかしさもあり、親がすべて悪いと言うつもりはありません。ただ1つの事例として見たとき、親が本当に子どものためを思って選択した受験だったのであれば、こんな残念な結末はないでしょう。

 私自身親になり、過去を反面教師にする気持ちは日々強くあります。それと同時に、当事者になると冷静に見られなくなるという事実があることも知っています。これら要素を踏まえ、目の前の子どもの教育について、引き続き最善を考えていきたいなと思ったのでした。

【長谷川智也】
ブログ名はジュクコ。1980年兵庫県明石市出身。高卒の両親のもとに育つもハードな中学受験を経験。白陵中学校・高等学校を経て、東京大学卒業後、大手塾に勤務、人気講師となる。2009年に独立してフリーランスの「プロ家庭教師」に。年間300件を超えるコンサル申し込みが殺到する。甲冑メタルバンド「Allegiance Reign」のベーシストとしても本気で活動中。ブログ「お受験ブルーズ」を運営。近著に『中学受験 奇跡を引き出す合格法則 予約殺到の東大卒スーパー家庭教師が教える』(講談社)など。

<取材・文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518

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