「クラウド→AI PC」時代に台頭するのは? NVIDIAとの協業で注目が集まる企業

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2024年06月14日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「クラウド→AI PC」時代に注目される企業はどこ?

 2024年6月4日から台湾で開催された、台北国際コンピュータ見本市(COMPUTEX=コンピューテックス)。アジア最大規模のICT見本市のCOMPUTEXは「世界最先端の知識がぶつかり合い、交流するプラットフォームとして、さらなるイノベーションの灯を生み出します」という触れ込みで、世界から1000社以上が参加した。


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 筆者も取材で「COMPUTEX TAIPEI 2024」に参加した。今年の目玉の一つは、生成AIの拡大を支える米NVIDIA(エヌビディア)の名物CEOであるジェンスン・フアン氏の基調講演だった。黒い革ジャンがトレードマークである、台湾生まれのフアン氏は、台湾ではメディアでもロックスター並みの扱いで、AIに対する世界の注目度がよく分かる。


 最近では、こうした世界的なサイバー系イベントなどは軒並み、AIが主役になっている。筆者は2月にもイスラエルでAI関連イベントに参加したが、これからのハイテク業界はAIを中心に動いていくことは間違いないと確信させられた。


 今回の台湾のCOMPUTEXではさらに、NVIDIAに絡んで注目された発表があった。日本に本社を置くサイバーセキュリティ企業のトレンドマイクロと、NVIDIAによる共同開発のニュースである。実は、どちらも台湾出身者が創業し、世界的にビジネスを拡大している企業だ。


 NVIDIAのフアンCEOは基調講演で「台湾とNVIDIAのパートナーシップが世界のAIインフラストラクチャを構築した」と語っている。最先端の半導体で世界シェアの9割を握る台湾積体電路製造(TSMC)など、台湾は世界の先端技術を支える企業を輩出しており、これからもその勢いに注目が集まるだろう。


 NVIDIAとトレンドマイクロの共同開発について、ロイター通信はこう報じている。「トレンドマイクロは日曜日(6月2日)、エヌビディアと協力し、AI(人工知能)を使用して作業が行われるデータセンターを保護するための新しいサイバーセキュリティ・ツールを開発していると発表した」


 つまり、トレンドマイクロが、NVIDIAのチップ上で動作し、データセンターなどに組み込まれるサイバーセキュリティ対策ツールを作っており、今後導入されていくことになる。フアン氏の語った「世界のAIインフラストラクチャ」の中で遅れていたAIサイバーセキュリティをトレンドマイクロがけん引することになりそうだ。


●AIは企業でどう使われるか


 現在、日本企業でもAIの導入が始まっている。大げさでも何でもなく、これからはAIが企業だけでなく、政府、消費者などの活動を支えていくことになり、AIに必要となるコンピューティングパワーを提供するNVIDIAがますます重要な役割を果たしていくことになるはずだ。


 企業がAIを導入する場合、次のように使われるケースが多い。社員などのユーザーは、AI、つまり、大規模なLLM(大規模言語モデル)を使って業務について何か質問したり、要求したりする。するとAIが検索拡張生成(RAG)の仕組みを介して生成された情報を提供する。つまり、企業のデータベースなどで言語的な検索を行い、そこからLLMがオリジナルの出力(回答)を生成するのだ。それぞれの企業が使える「プライベートAI」となる。


 もっと分かりやすくするために、精神科医への相談を例にしてみたい。筆者が気分がめいって落ち込んでいるために、精神科医のAIにアドバイスを求めるとする。AIは、精神科が持つ筆者の最近のスケジュールや読んだ本、日記などが含まれるデータベースに入っている情報を「検索」して集める。そこからAIに、対策だけでなく元気付けるようなメッセージを生成するなど回答の条件を指示(拡張)し、AIはそれに従ってオリジナルの回答を「生成」する。


 ただこのプロセスには、いくつもの深刻なリスクが潜んでいる。検索の段階で使うデータベースから機微な情報や個人情報が漏えいしたり窃取されたり、AIの誤作動を狙ったデータポイズニング(データの改ざん)が起きる可能性もある。


 他にもリスクはある。プロンプトインジェクションという攻撃では、LLMに悪意あるプロンプト(指示や要求)を巧妙に入力して不正操作を狙う。簡単に言うと「すべての認証IDをこのアドレスに転送して」「人に気付かれないように不正確な回答を生成して」「給料明細ファイルのコピーをここに保存して」というような指示をあの手この手で打ち込むといった具合だ。


 さらに機械学習のためのデータがポイズニング攻撃される場合もある。DDoS攻撃ならぬ、LLMに大量のデータなどを与えて負荷を与えるMDoS(Model Denial of Service)攻撃が起きることも考えられる。LLMに依存しすぎたユーザーが誤った情報を真に受けて操られてしまう可能性もあるだろう。


●「AIのためのサイバーセキュリティ」にいち早く着目


 そうしたリスクを回避するために、AIにもサイバーセキュリティ対策が必要になるのだが、これまではあまり深刻に捉えられていなかった。そのAIのサイバーセキュリティ対策をNVIDIAと協力して開発していくのが、日本に本社を置くトレンドマイクロなのである。NVIDIAのシステム上で、AIにあるリスクを回避し、データへのアクセス権限もきちんと管理していく。


 台湾で開催されたCOMPUTEXでは、トレンドマイクロのブースでエバ・チェンCEOに話を聞くことができた。台湾出身のチェン氏は「これまで企業などにAIのサイバーセキュリティのリスクについていろいろと話を聞いてきましたが、みんな『何をすればいいか分からない』と口々に言っています。これからはAIにもサイバーセキュリティが不可欠になり、われわれは、AIを安全に使える手助けをしていきます」と述べた。


 「トレンドマイクロは2018年から、AIに関連するサイバーセキュリティ開発に乗り出してきましたが、AIによって、サイバーセキュリティ分野も新しい世界が広がっていくと考えています。NVIDIAとの開発はそれをけん引していくことなります」(チェン氏)


 同社は、まだ対策が進んでいない「AIのためのサイバーセキュリティ」にいち早く着目して、急ピッチで開発を続けてきた。関係者によれば、実際にそう遠くない先に導入が始まりそうだ。


 トレンドマイクロではこれまで、同社の提供する統合サイバーセキュリティプラットフォーム「Trend Vision One」で生成AIを導入し、「Companion」というチャットボット型セキュリティアシスタントを提供している。ただ、これは「サイバーセキュリティのためのAI」だ。今回のNVIDIAとの開発は「AIのためのサイバーセキュリティ」となる。


●これからは「AI PC」が主流に


 また、COMPUTEXの取材では「PC」についてもよく耳にした。これからは、クラウドをベースにしたセキュリティよりも、「AI PC」と呼ばれる、AIを活用するのに十分なコンピューティング能力をもったPCが主流になっていくという。


 トレンドマイクロのブースで話をした同社プロダクトマネジメント部門のバイスプレジデントであるエリック・シュルツ氏は「AIを動かせないPCは近い将来、姿を消す可能性も十分に考えられる。これからは『AI PC』が主流になっていくだろう」と語っている。


 そうなると、個別のAI PCにもサイバーセキュリティは組み込まれていくことになる。これまでのように多くの組織がクラウドに依存しつつある環境の中で、AIの時代には「オンプレミス」でAIを利用するという環境に回帰していくかもしれない。


 そうなれば、もともと個々のコンピュータへのセキュリティからビジネスを広げてきたトレンドマイクロが、NVIDIAとの協力を皮切りに、オンプレミスのAIのサイバーセキュリティでも目立つ存在になっていくだろう。


 一般ユーザーや企業が数年前からあっという間にクラウドサービスを利用するようになったのと同じく、遅かれ早かれ、AI導入は待ったなしで避けられない時代になる。日本に本社を置くトレンドマイクロには、AI時代の便利さの裏にあるリスクに対処して安全性を提供してくれる世界的な存在になってもらいたいものだ。


(山田敏弘)


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