30周年『古畑任三郎』豪華”犯人たち”の印象深い名ゼリフ

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2024年06月14日 09:10  クランクイン!

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(左上から時計回りで)明石家さんま、桃井かおり、鈴木保奈美、石黒賢  クランクイン!
 俳優の田村正和さんが主演し、三谷幸喜が脚本を手掛けた人気刑事ドラマシリーズ『古畑任三郎』。本作の放送スタート30周年を記念し、現在フジテレビ「ハッピーアワー」枠(毎週月曜〜金曜 第一部13時50分、第二部14時48分)で一挙放送中だ。毎回豪華ゲストが犯人役などを務めることが恒例だった同シリーズ。今回はそんなゲストたちの放った印象的なセリフの一部を紹介したい。(※以下、ネタバレを含みます。ご了承の上、お読みください)

【写真】『古畑任三郎』豪華すぎるゲスト”犯人”たち

■ さんま「あんた、司法試験受けなはれ」

 1996年放送の2ndシーズン、当時すでに大物芸人だった明石家さんまが出演したのは「しゃべりすぎた男」。邪魔になった交際相手を殺害し、偶然居合わせた古畑の部下・今泉にその罪をなすりつけ、あろうことかその弁護を買って出る弁護士・小清水を怪演した。

 自身のホームである法廷での弁論をきっかけに、古畑に自供に追い込まれた「しゃべりすぎた男」は、ラストシーンで古畑に「あんた、司法試験受けなはれ。できるだけ早くや」「決まってるやろ、僕の弁護ですよ。頼んまっせ」と吐き捨て、連行されていく。弁護する者が一転、弁護される者の側へ。2ndシーズンの開幕を告げる、あざやかに決まったオチだった。

■ 桃井かおり「痛い?」

 1994年放送の1stシーズン「さよなら、DJ」では、桃井かおりふんするラジオDJ・中浦たか子が、生放送の途中、恋人を奪った自身の付き人の殺害を決行。印象的なのは、殺害シーンだ。

 桃井に殴られ倒れる付き人。血を流しながら苦もんの表情を浮かべる被害者を、覗き込むように見下ろす桃井ふんする中浦は「痛い?」と尋ね、もう一度凶器を振り下ろすのだった。自分で殴っておいて「痛い?」はないだろ、という話だが、実はこれ、桃井のアドリブとしてファンの間でも有名。「痛い?」という短い一言であるが、犯人像、被害者との関係性、そして犯行に至った心情などが奥行きが一気に深まっていく、桃井の天才が発揮された瞬間と言えるだろう。

■ 澤村藤十郎「要は何が大事で何が大事でないかということです」

 シリーズファンの間で高い人気を誇る2ndシーズン「動機の鑑定」では、歌舞伎役者の澤村藤十郎が、古美術商・春風堂の主人を演じて印象深い言葉を放っている。歴史的価値のある”慶長の壺”の真作・贋作をめぐる事件で、春風堂は、自分を陥れるために作られた贋作ではなく、真作の方で共犯者を殴って殺害し、壺も砕け散ってしまう。なぜ殴ったのは贋作でなかったのか。このことに頭を悩ませた古畑は、春風堂が誤って真作の方で殴ったと推理するが春風堂はこれを否定する。

 「要は何が大事で何が大事でないかということです。なるほど、慶長の壺には確かに歴史があります。しかし裏を返せばただの古い壺です。それにひきかえていま1つは現代最高の陶芸家が焼いた壺です。私1人を陥れるために、私1人のために、川北百漢はあの壺を焼いたんです。それを考えれば、どちらを犠牲にするかは…物の価値というのはそういうものなんですよ」。古典落語のよくできたサゲ(オチ)のようなセリフに、さすがの古畑も脱帽、という表情を見せていたのが印象的だった。

スポーツ界のスーパースターもゲスト出演!

■ 石黒賢「本当のことを言うには、僕はうそをつきすぎていた」

 同じ三谷脚本の名作ドラマ『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)で正義感にあふれた主人公の外科医を演じた石黒賢。1stシーズン「殺人公開放送」では、自称霊能力者の青年を演じ、また別の魅力を放っている。自身の霊能力番組の生放送にむけて河原で”仕込み”をしていた黒田清(石黒)は、通りすがりの男性を誤って殺してしまい、生放送中にその死体を霊能力を使って”偶然見つける”、という手に打って出る。

 その番組の観覧席にたまたま居合わせた古畑に、殺人犯であることと、さらに超能力はインチキであったことを突き止められた黒田。10代の頃は本当に”力”があったと訴える彼は「でも…20歳を過ぎてから、だんだん感じなくなって。でも周りは許してくれない。僕が何か変わったことをしたり言ったりすることを待ってる。期待には答えないと」と切なげに笑う。古畑に「どうしてもっと早く本当のことを言わなかったんですか?」と問われ、「それどころじゃなかったから! …本当のことを言うには、僕はうそをつきすぎていたから…」とこぼす黒田=石黒の表情を見ていると、彼もある意味で”被害者”なのでは、と思えてくる。哀愁に満ちた余韻を残す回だった。

■ 鈴木保奈美「あなたに事件を担当してほしかったわ」

 1990年代、若手トップ女優の名をほしいままにしていた鈴木保奈美がゲスト出演した1996年の2ndのシーズン最終回「ニューヨークでの出来事」は、シリーズでも数少ない殺人の起きない、正確には犯人が無罪となり、「完全犯罪」として成立してしまったかつての殺人事件に古畑が挑む、という異色の回だ。渡米中の古畑が長距離バスで乗り合わせた女性、のり子・ケンドール(鈴木)は、かつて小説家の米国人夫を毒殺したが、逮捕を免れていた。古畑はのり子の話の中に仕掛けたトリックを見抜いた上で事件を”解決”するのだが、もちろん彼女を逮捕することはできない。

 ところが、完全犯罪を成し遂げてしまったのり子には、皮肉な運命が待っていたという。夫の死後に出版された小説は大ヒットし、自分は世間の笑い者になっているというのだ。「私、夫の不倫の本の印税で生き延びてるんです」「こんな罰があるかしら? こんなことなら、あなたに事件を担当してほしかったわ」と、古畑に悲しげに言い放つのだった。

■ イチロー「僕はうれしかった…。最高の対戦相手が現れたって」

 プロ野球界、いや、スポーツ界きってのスーパースター、イチローが「イチロー」役で出演し、しかも殺人を犯す展開で日本中を驚かせたのは、2006年新春に放送された『古畑任三郎』ファイナル第2夜「フェアな殺人者」。「イチロー」が、シリーズおなじみのキャラクター・向島(むこうじま)の異母兄弟だった、という設定以上にファンを驚かせたのは、卒なく演技をこなすイチローの姿だった。これまで数多のスポーツ選手がドラマ・映画で演技に挑戦し、悪い意味で視聴者に衝撃を与えてきた歴史があるが、イチローはスペシャルドラマのメインキャストとしてほぼ出ずっぱりながら、見事に田村さん演じる古畑と渡り合い、「イチロー」を熱演。「走・攻・守」のほかに”演技”もできるのかと多くのファンの度肝を抜いた。

 そんなイチローも、古畑との対決に敗れて逮捕されるが、わずかな手がかりで自身にまでたどり着いた古畑を称賛。「僕はうれしかった…。最高の対戦相手が現れたって」と、まるで名投手と対戦したかのような言葉を残して去っていった。(文:前田祐介)
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