新しい「iPad Pro」を手にして分かったeSIMのメリットと課題 iPhoneのeSIMオンリーは時期尚早か

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2024年06月14日 11:31  ITmedia Mobile

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物理SIMが使える「12.9型iPad Pro(第4世代)」

 とにかくディスプレイが大きく、薄いタブレットがほしい。そんな理由から新しい「13型iPad Pro(M4)」を購入した。これまで筆者は「12.9型iPad Pro(第4世代)」で原稿を書き続けたが、キーボード(Magic Keyboard)と組み合わせると、1kgを超える重量になり、肩への負担を感じていた。別モデルの買い替えを検討していた矢先に、新型iPad Pro発表のニュースが飛び込んできた。


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 新型iPad Proは、Appleが5月8日(日本時間)に発表したタブレットで、フルモデルチェンジと呼べるほど全面的に機能を刷新している。有機EL(OLED)を2枚重ねた「タンデムOLED」を採用し、薄型かつ軽量になったことや、ディスプレイの制御などを実行するためのM4チップを搭載するなど、これまで以上に注目ポイントが多い。詳細は既に記事を掲載しているので、そちらにご覧いただきたいが、筆者が注目したのはiPadで使えていた物理SIMに対応しなくなったことだ。


 購入後に初期設定をする際、SIMもいつものように差し替えれば済む、と思ったそのときだった。新型iPad ProにSIMスロットがなく、SIMの移行がいつもの差し替えだけで済まない、と実感した。


 もちろん、新型iPad Proで物理SIMが使えないことを知ってはいたが、いざ目の当たりにすると、旧世代iPad Proとのギャップがあり過ぎて戸惑う。そう、新型iPad ProはeSIMにしか対応しない。eSIMは、物理SIMのように差し替えなくても、ネットワーク経由で契約者情報(プロファイル)を書き換えたり、プランを変更したりできるのが特徴だ。


 物理SIMに対応しないiPad Proで、これまで通りモバイルデータ通信サービスを利用するには、物理SIMからeSIMへの移行作業が必要となる。


●物理SIMからeSIMへはどのように移行するのか 新型iPad Proで手順を確認


 ここからは、肝心の手順について確認しながら、eSIMオンリーになったiPad Proで実感したeSIMのメリットと課題をお伝えしたい。なお、今回は、筆者が使っているauの「タブレットプラン3」(月間データ容量3GBで1100円/月)を例に、手続きの手順を見ていく。


 簡単な概要は「SIM(SIMカード/eSIM) :機種の変更/eSIM再発行のお手続き」というページに記載がある。手数料は「現在契約中の回線種別(4G/5G/5G SA)のまま手続きする場合」が無料となる一方で、「現在契約中の回線種別と異なる回線種別へ変更する場合」が3850円(税込み)となる。受付時間は1時〜2時、7時〜23時。システムメンテナンスなどを除く時間帯なら手続きが可能だ。


 これまで筆者が使っていたiPad Pro(第4世代)の12.9型はLTE対応なので、「au Nano ICカード 04/04 LE」のSIMを挿入できる。そして、今回、新たに購入したiPad Proの13型は5G SAと5G NSAという通信規格に対応し、物理SIMではなくeSIMのみを利用できる。この情報はSIM(SIMカード/eSIM)の中の「動作確認端末一覧」にて確認できるので、事前に調べておくとよい。


My auで行う場合


 My auから手続きを行う場合は、My auにログインした後、「eSIM再発行手続きサイト」から再発行後に利用する端末の「契約回線種別」を選択し、「次へ」をタップする。次に希望する料金プランと通話オプションを選択し、「同意して次に進む」をタップする。次の画面で契約内容を確認した後、「eSIM再発行を申し込む」をタップすると、再発行手続きが完了する。


 この後、KDDIが発行したプロファイルを新しいiPad Proにダウンロードし、開通作業を完了させる必要がある。プロファイルはeSIMに対応したサービスを利用するための契約回線、電話番号といった加入者情報が書き込まれたもので、これを端末側にダウンロードしなければ通信ができない。そのため、ほとんどのキャリアがこのプロファイルをインストールするためのQRコードを用意しているが、スマートフォン以外のデバイスがなければQRコードを表示して、それをスマートフォンで読み込むことができない。


auショップで行う場合


 eSIMの手続きに不安を覚えるなどの理由でためらう人は、面倒だがauショップへ出向けば、サポートを受けられる。


 まずは店舗へ出向き、店舗スタッフに「iPad Proで使うeSIMを発行したい」と伝える。店舗では重要事項の説明を受け、契約前の確認事項を店頭のタブレットで確認してから、eSIMの発行手続きへ推移する。


 My auと大きく異なるのは、利用者自身でMy auから手続きせず、店舗スタッフが利用者情報を確認した上で、プロファイルを発行すること。店舗スタッフは契約者本人かどうかや利用する端末の確認を対面で行うため、店頭での手続きを希望する際は本人確認書類と利用予定のeSIM対応端末を持参しよう。


 店舗スタッフがプロファイルを発行したら、利用者自身が持参したeSIM対応端末を店舗スタッフの指示に従い操作する。プロファイルを読み込ませる手順はMy auの場合と同じだ。


 「モバイルデータ通信」→「新規プランを追加」→「QRコードを使用」の順に進み、店舗スタッフが店頭のタブレットで提示したQRコードを利用予定の端末のカメラで読み込む。すると、画面が切り替わるので、「続ける」をタップ。しばらく待つと、「モバイル通信設定完了」と表示されるので、最後に「完了」をタップする。


AppleのeSIMクイック転送


 SIMカードからeSIMへの変更は、上記よりも簡単に行う方法がある。Appleの「eSIMクイック転送」だ。auのWebサイトには「対象のお客さま:現在お持ちのiPhone・iPadで、SIMカードを利用していたが、eSIMに変更したい」と記載されている。SIMカードからeSIMへの変更時にも、このeSIMクイック転送が可能だ。


 eSIMクイック転送は、「手続きのためにショップへ出向かずに済む」こと、「eSIM用のプロファイルをダウンロードせずに済む」ことが大きなメリットだが、古い端末と新しい端末が両方とも手元にある状態で、転送しなければならないため、例えば、古い端末の売却を購入前に済ませ、その売却額を元手にして、新しい端末を購入する人にとっては、eSIMクイック転送の恩恵を受けられない。


●日本向けのiPhoneもeSIMに一本化か 手軽さの裏に課題も


 ここまでの内容を踏まえて分かったメリットは、SIMカードを紛失せずに済むこと、そして、Apple製品同士でOSなどの条件を満たせば、eSIMクイック転送を利用し、店頭へ出向いたり、本人確認をしたりせずに移行できることだ。


 SIMカードは基本的に抜き差しだけで移行が済むが、SIMカードを採用する端末によっては、SIMピンがなければトレイを開閉できない。iPadも同様だ。SIMカードは頻繁に差し替えないことから、SIMピンを常に持ち歩いている人は少ないだろう。その点、eSIMならSIMピンの有無に関係なく、古い端末から新しい端末へ移行できる。


 とはいえ、iPad Proでより実感したeSIMの課題は、大きく分けて2つある。


 1つは、場合によっては移行が面倒であること。先述のように、eSIM→eSIM、SIMカード→eSIMへの移行は、Appleや通信事業者が指定する条件を満たさなければならないケースがある。また、iOS/iPadOSのeSIMクイック転送を利用できるのはiPhoneとiPadに限られ、AndroidやWindowsなど他のOSのデバイスでは利用できない。逆も同じだ。


 もう1つはセキュリティの甘さを突かれる可能性があること。楽天モバイルが4月23日に「【重要】身に覚えのないeSIMの再発行にご注意ください」と題し、eSIMにまつわる注意喚起を行った。ユーザー自身が気付かない間にeSIMを再発行され、楽天モバイルの回線を乗っ取られてしまった事例があったのだ。


 悪意のある第三者が携帯電話などの利用者本人になりすまし、SIMカードやeSIMの情報を盗み取る犯罪は「SIMスワップ」や「SIMハイジャック」などと呼ばれることがあり、近年、世界各国で問題視されている。KDDIの高橋誠社長は5月10日の決算会見で、「ネットで再発行できる手続きに関して、KDDIではeKYCと2段階認証を導入しており、ある程度、強固なものになっている」と説明し、ここ最近では各社トップがeSIMに言及する場面が増えている。


 総務省は、キャリア間の乗り換えを促進させるため、料金プラン変更のしやすさだけでなく、eSIMの普及にも力を入れてきた。乗り換えのハードルを取り払うことを目的に、eSIMの普及が期待されていた感はあったが、一部の事業者で手軽に発行できる点が裏目に出て、不正発行につながっている、というのが現状だ。


 iPad ProがeSIMオンリーの仕様になったことから、次期iPhoneもeSIMに一本化されかねないが、現状の手続きの煩雑さや、乗っ取り対策の問題も鑑みると、時期早々ではないか、とiPad Proで改めて実感した。


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