肥満治療薬の仕組み なぜ一口食べる前から満腹を感じる? 「食前満腹感」を引き起こす脳の仕組みを解明

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2024年07月09日 08:21  ITmedia NEWS

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肥満治療薬の仕組み なぜ一口食べる前から満腹を感じる?

 韓国のソウル大学校や米UT サウスウェスタン・メディカル・センターなどに所属する研究者らが発表した論文「GLP-1 increases preingestive satiation via hypothalamic circuits in mice and humans」は、肥満治療薬が食事を一口も口にしていないのに満腹感を引き起こす不思議な現象の背後にあるメカニズムを特定した研究報告である。


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 この研究は、論文著者が肥満治療のために「リラグルチド」を服用した際の経験がきっかけとなった。食べ物を見たり匂いを嗅いだりしただけで強い満腹感を覚えたのだ。


 研究チームは肥満患者を対象に実験を行った。リラグルチドを服用した患者は、食事前から満腹感を感じ、韓国風フライドチキンを見るとその感覚がさらに強まり、食べた後にも満腹感が増加した。一方、薬を服用していない患者は、フライドチキンを見ると空腹感が増し、食べた後にようやく満腹感を得た。


 この現象の責任領域を特定するため、視床下部背内側核(DMH)に注目した。この領域のニューロンには、GLP-1受容体があり、GLP-1がこの脳部位に直接作用する。


 マウスを用いた実験で、DMH領域の神経細胞を刺激すると食事中のマウスが即座に食べるのを止めることが分かった。この領域の神経を慢性的に活性化すると摂食量が減少し、逆に抑制すると増加した。


 さらに詳細な分析により、DMH内に2つの異なる神経細胞群が存在することが判明。1つは食事を探し始めてから食べ始めるまで一貫して活動する群で、もう1つは食事中のみ活動する群だ。これらの発見は、食前満腹感と食後満腹感という2種類の満腹感が存在するという一般的な感覚と一致している。


 研究チームは、肥満治療薬がこの脳領域に直接作用することも示した。リラグルチドを投与したマウスは、投与していないマウスと比べて食事の前後でDMH領域の神経活動が高かった。また、DMHのGLP-1受容体を除去したマウスでは、リラグルチドの食欲抑制効果が弱まった。


 今回の発見は、肥満だけでなく、摂食障害など他の食行動関連疾患の理解と治療にも貢献する可能性がある。


 Source and Image Credits: Kyu Sik Kim et al. ,GLP-1 increases preingestive satiation via hypothalamic circuits in mice and humans.Science0,eadj2537DOI:10.1126/science.adj2537


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2


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