名古屋めしという言葉が広まる以前から、名古屋を代表するご当地グルメだったきしめんですが、名古屋めしブームが巻き起こった2000年代以降は皮肉にも存在感が薄れがちでした。
他の名古屋めしと比べて見た目のインパクトに欠け、うどん店のメニューの中では味噌煮込みうどんという強力な一品があるため選択肢としての優先順位が下がってしまうのです。「きしめん離れ」なんて言葉が地元メディアでしばしば使われるようにもなってしまっていました。
幅広きしめんのインパクトで再び光が
しかし、近年はそんな低迷期を脱し、人気復調の兆しが。危機感を抱いた業界団体がPRに積極的に取り組んだことも需要アップにつながりましたが、個々の飲食店から生まれた“新しいトレンド”もきしめんに再び光を当てるきっかけとなりました。それが「幅広きしめん」です。
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きしめんは「幅4.5mm以上」が規準のひとつですが、これは食品表示基準(消費者庁)が乾麺を対象に定めたもの。生麺や飲食店で出されるきしめんに幅の規定はありません。それでもおおむね幅1cm程度が目安なのですが、その2倍以上の幅2〜4cmもある麺が「幅広きしめん」と呼ばれています。
なかでもとりわけ幅広なのが「芳乃家」(名古屋市昭和区)のきしめん。その麺の幅たるや実に5cmはあるでしょうか。厚みもあって、箸で持ち上げるとまるで一反もめんのような迫力です。
食感はもっちもちで、つるつるすするというより、むしゃむしゃという噛み応えと合わせて楽しむ感覚。麺の表面積が大きい分、つゆの乗りもよくなるため、つゆにもこだわりが。老舗醸造元のたまり醤油を使い、この地域特有の“ムロアジの力強いダシ”で、麺にも負けない存在感を発揮しています。
ミシュラン掲載店にカフェ風新鋭店も
『ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版』(日本ミシュランタイヤ)でミシュランプレートにも選ばれた名店「Higashiyama Nikoten」(名古屋市千種区、ミシュラン掲載時の店名は「千年(ちとせ)ニコ天」)の麺は約2.5cmの幅がありながら、透き通るほど薄いのが特徴的。
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続いて紹介するのは、幅広きしめんのムーブメントを広く知らしめた「星が丘製麺所」(名古屋市千種区、東区)です。2021年にオープンした同店はきしめん店らしからぬカフェのようなおしゃれな空間、そしてインパクトのある幅広きしめんで一躍大ヒット店に。
これまできしめんに見向きもしなかった若者層を獲得したことで、きしめん新時代の到来を可視化させました。
冷たいきしめんの「きしころスタンプラリー」もファンを拡大
幅広きしめんと共にきしめんの人気回復をけん引してきたのが「きしころスタンプラリー」です(※)。きしころとは冷たいきしめんのこと。
きしめんというと駅ホームの立ち食いのように花かつおが湯気でゆらゆら揺れる熱々のものを思い浮かべる人も多いでしょうが、冷やすと麺がしまって舌の上を滑る独特の食感をよりダイレクトに楽しめます。
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もちろんスタンプラリー参加店の中にも、先の「芳乃家」「星が丘製麺所」をはじめ幅広きしめんを出す店は何軒もあり、幅広きしめんときしころ、きしめん人気を高めてきたふたつのトレンドを合わせて楽しむこともできます。
文字通り“幅広く”魅力が広がっているきしめん。麺の幅に着目して食べ歩けば、きしめんの新たなおいしさに出会えるはずです!
<参考>
※第10回 きしころ スタンプラリー(2024年7月1日〜8月31日開催)
大竹 敏之プロフィール
愛知県常滑市出身。大学卒業後、名古屋の出版社に勤務し、その後フリーライターとして独立。雑誌や新聞、Webメディアなどに名古屋の情報を発信する。著書は『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)『名古屋の喫茶店 完全版』(リベラル社)など多数。(文:大竹 敏之(名古屋ガイド))