「何が楽しいのかわからない」との声も
「オリンピックって、そんなに楽しいですか」真顔でそう言うリカさん(39歳)。職場の話題は五輪一色になっており、リカさんは入っていけないという。とはいえ、彼女はスポーツが嫌いなわけではない。
「推しのバスケチームがあるので観戦にはよく行くんです。スケボーやダンスも見るのは好きです。ただ、オリンピックの、あの『国を背負ってる感じ』が嫌なんですよね。
そもそも選手たちは自分の好きな競技を命懸けで頑張っているだけで、別に国を背負う必要なんてない。日本が勝ったシーンばかり流すのもうんざりだし、見ている人たちの『感動した』合戦も、ああ、うざいと思っちゃう(笑)」
ところが夫は大の五輪好き。4年に1度のお祭りなんだから、あれこれ言わずに楽しめばいいんだよと言われると、それがまた「ムカつく」そうだ。
「世界にはいろいろなことがあって、まったく平和じゃないのに、何が平和の祭典だよと思うんですよ。政治と切り離してというけど、一方で悲惨なニュースが入ってくるわけだから、人間って愚かだなと思います」
スポーツに勝敗はつきもの、情を絡ませるのが嫌
スポーツに勝者と敗者がいるのは当然のこと。そこに「必要のない情」をからませる報道も、彼女が五輪観戦が面倒だと思う要因だという。
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ただ、職場ではみんな楽しそうに話しているから、よけいな口は挟むまいと決めている。リカさんの仕事は週末が休みではないので、開会式の翌日などは盛り上がっていたが、リカさんはあえて話の輪に入らなかった。
「見てないの?と聞かれたので、うん、寝ちゃったからと答えておきました。試合後のダイジェストなども含めて全然見ていない。夫は週末が休みなので、深夜にリアルタイムで見ていたようです」
リカさんが結婚したのは2年前。夫と一緒に五輪観戦するのは初めてで、「ふたりの温度差に驚いている」という。家庭不和にはなっていないが、あらためて「お互いに趣味も思考も違う」ことは感じている。
五輪観戦が大好きな夫にドン引き
「私もスポーツは好きだけど、オリンピックの雰囲気はあまり好きじゃないんですよね。でも夫は大好き。今の時期は帰宅すると五輪観戦ばかり。録画したものも必死で見ている」ケイコさん(43歳)はうんざりしたような表情でそう言う。今、家庭内は微妙な雰囲気に包まれている。ことの発端は開会式だった。
あとから家族で、開会式の模様を録画を見たのだが、「フランスらしいといえばフランスらしい。やっぱりこの国は革命で市民自らが自由をつかみとったからね」とケイコさんが言ったことに夫がかみついたのだ。
「夫は趣味の悪い開会式だと、文句を言っていました。私、かつてフランスに2年ほど留学していたことがあるんです。だから彼らがどれだけ自由を尊んでいるかはわかっているつもり」
開会式の話題から夫のフキハラ炸裂
「ところが夫は、開会式のことではなく、なぜか私の留学経験にケチをつけた。『ああ、どうせきみはフランスに住んでいたって自慢したがるんだろ』って。そういう話はしていないでしょと口論になってしまって。
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開催地のパリにからんで夫のコンプレックスが炸裂したのだろう。その後も開会式の話で、夫はぐちぐちと文句を言ったあげく、「オレはフランスが好きじゃないな」と言い出した。
行ったこともないくせにと思いながら夫の顔を見ると、夫は「どうせオレは留学経験がないよ」と吐き捨てるように言った。
「誰もそんなことで責めてないのに、なんでひとりでひねくれてるわけ?と私もつい語気が荒くなって……」
ふたりとも、子どもたちに聞こえてはまずいと口をつぐんだ。ケイコさんは夫の心の狭さに驚くばかり。夫もなにやら不機嫌なままで、ひとりで相変わらずせっせと五輪を見ているが、子どもたちは別の部屋のテレビを見ている。
「リビングのテレビを見ているのは夫だけ。こっちで見ろよとも言わなくなったし、パリ五輪の話題も家族間では出なくなっています。意外なところに地雷があった。五輪が終わるまで、こんなフキハラに耐えないといけないんでしょうかね」
思わぬ不和にケイコさんは疲れたような表情になった。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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