松井大輔が「稀代のドリブラー」を語り尽くす 三笘薫は「陸上選手のように走る。追いつくのは至難の業」

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2024年08月14日 07:20  webスポルティーバ

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【新連載】
松井大輔「稀代のドリブラー完全解剖」
第1回:三笘薫

 現在イングランド・プレミアリーグの「ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオン」でプレーする日本代表の三笘薫(27歳)。彼の代名詞とされるのが、ドリブルだ。

 筑波大学卒業後に加入した川崎フロンターレ時代から異次元の突破力を誇っていた三笘だが、2021年からヨーロッパに活躍の場を移してからも進化を続け、今では世界最高峰のプレミアリーグでも「屈指のドリブラー」として知られるようになっている。日本人フットボーラーとしては、おそらく史上最高のレベルに達していると言っていいだろう。

 しかも、そのドリブルはほかの選手とは一線を画したスタイルで、あえて表現するなら"三笘流ドリブル"。周囲の選手とは異なるスタイルで、次々と対峙する相手を抜き去っていく。

 なぜ三笘のドリブルは、無類の突破力を発揮できるのか。なぜ対峙する相手は、三笘を止めることができないのか。

 現役時代は「稀代の天才ドリブラー」として名を馳せ、現在は横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールのコーチとして「対人強化クラス」を担当する元日本代表の松井大輔氏が、"三笘流ドリブル"を徹底解説してくれた。

   ※   ※   ※   ※   ※

「最大の強みとなっているのが、左サイドでボールを持った時に自分で仕掛け、高い確率で縦に抜くことができる、ということです。相手との距離があればスピードで抜き去り、距離が近ければ自分の間合いに持ち込んで抜き切ることもできる。

 それが前提になっているので、対峙する相手はまず、縦を警戒します。ただ、縦のコースを切られたら、今度は中央側のコースにドリブルしてシュートに持ち込むことができる。そのどちらも精度が高いので、相手は止めるのが難しい。どちらかひとつではダメで、その両方がハイレベルであることが、彼の突破力のベースとなっています」

 では、実際に三笘はどのようなドリブルテクニックを使っているのか。その独特なスタイルについて、テクニカルな部分を具体的に説明してくれた。

【最大の特徴は「後ろ足でボールを持つ」】

「彼が縦に抜く時は、主に2パターンあると思います。ひとつは相手との距離が遠いシチュエーションで、持ち味の速さとストライドの大きさを生かして、大きくボールを蹴って抜き去るテクニックです。

 僕は足が速くなかったので、技や緩急で相手の逆を取るというスタイルのドリブルをしていました。ですが、彼が見せるそのドリブルは、足が速い選手の多くがよく見せるスタイルなので、それほど珍しくはありません。

 注目すべきは、もうひとつの『縦突破のかたち』ですね。

 一般的なドリブルは、ボールを自分の前に置いた状態から仕掛けて突破を試みますが、彼の場合は違います。たとえば、左サイドで自分と近い距離の相手と対峙した時、ボールを持つ右足の位置は左足よりも後ろ側。つまり、後ろ足でボールを持つ、というのが最大の特徴となっています。

 それによって、自分の間合いで仕掛ける時、右足でボールを持ち出すと、それがそのまま前進するための第一歩目になるので、対峙する相手はその一歩で置き去りにされてしまいます。しかも、彼は初速が速いうえにストライドも大きいので、タイミングさえ間違えなければかなり高い確率で相手をはがすことができます。

 さらに細かく言うと、ボールを持ち出す時は、右のアウトフロント(足先部分の外側)でボールタッチしているのが、このテクニックの重要なポイントになっています。

 僕の横浜FC時代のチームメイトにレアンドロ・ドミンゲスというブラジル人選手がいましたが、実は彼も後ろ足でボールを持ち出すテクニックを使っていました。当時はもうベテランの域に達していたので、スピード自体はそれほど感じませんでしたが、ドリブルで相手をはがす時はそのテクニックの影響ですごく速く見えました。

 ただ、レアンドロ・ドミンゲスがボールを持ち出す時はインフロントかインサイドでしたが、三笘君の場合はアウトフロントなので、一歩を踏み出したあとの走りが陸上の短距離走の選手のようなフォームになっていて、より初速を速くすることができる。もともと足の速い選手が、ボールを持ち出した瞬間から陸上選手のように走るので、対峙する相手にとっては、反転してから追いつくのは、もはや至難の業です」

【ある程度のレベルで真似はできるが...】

 松井氏の分析によれば、いわゆる"三笘流ドリブル"の神髄は、後ろ足でボールを持ち、前進の第一歩から短距離走のようなフォームで走るためにアウトフロントでボールタッチしてボールを持ち出す。三笘のドリブルテクニックに隠された最大のポイントが、そこに潜んでいるという。

 逆に言えば、それさえ実践すれば、誰もが"三笘流ドリブル"をマスターできる可能性があるということなのだろうか。

「彼とは直接話したこともありますし、本も読ませてもらいましたが、僕自身がすごいと感じたのは、彼自身が学生時代からドリブルを研究して、理詰めで自分流のドリブルを確立したということです。先ほど話したボールの持ち方や持ち出し方は、その典型例です。

 そういう意味で、理論として確立されているので、そのとおりにやれば、ある程度のレベルで真似はできると思います。実際、僕がやっている『対人強化クラス』でも、子どものうちにそのドリブルを身につけられるような指導もしています。

 ただし、三笘君の域に達するには、それだけでは難しいでしょうね。

 彼の縦突破をよく見ると、たとえば前に持ち出す時のボールタッチの精度が異常なほど正確で、しかも持ち出す方向や場所が完璧なんです。これなら絶対に相手が届かない、そして自分が次のプレーに移りやすい、という持ち出し方になっている。

 かなり計算し尽くされていると感じますし、アウトフロントであの正確なボールタッチを試合で繰り返せるということは、相当な反復トレーニングをしないと、あのレベルには達しないと思います。

 それと、これはドリブラーに共通することですが、やっぱり実戦でトライアンドエラーを繰り返すことが、スキルアップのためには欠かせません。その成功と失敗の繰り返しがあって、はじめて自分流のドリブルテクニックが完成していくんです」

 松井氏の解説を聞くにつけ、おそらくプレミアリーグという世界最高峰の舞台で日々切磋琢磨する三笘のドリブルテクニックは、今後もまだ進化を続けていくはず。日本史上最高のドリブラーのテクニックから、今シーズンも目が離せない。

(第2回につづく)


【profile】
松井大輔(まつい・だいすけ)
1981年5月11日生まれ、京都府京都市出身。2000年に鹿児島実業高から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に加入。その後、ル・マン→サンテティエンヌ→グルノーブル→トム・トムスク→グルノーブル→ディジョン→スラヴィア・ソフィア→レヒア・グダニスク→ジュビロ磐田→オドラ・オポーレ→横浜FC→サイゴンFC→Y.S.C.C.横浜でプレーし、2024年2月に現役引退を発表。現在はFリーグ理事長、横浜FCスクールコーチ、浦和レッズアカデミーロールモデルコーチを務めている。日本代表31試合1得点。2004年アテネ五輪、2010年南アフリカW杯出場。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。

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  • ピエール・リトバルスキーさん。すばしっこさと「サッカー脚」と呼ばれるO脚で、ボールを奪うにはファウルしか。なんて方も。日本来る前は髪長くなかった?
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