悩みがあっても「労組はちょっと怖い」? フリーランス新団体が発足「問題解決の受け皿になりたい」

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2024年08月16日 10:20  弁護士ドットコム

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フリーランス保護のための法令「フリーランス新法」が11月に施行される。フリーランスと一口に言っても取引先との契約形態や、業界によって、働き方はさまざまで実態はよく分かっていないところも多い。


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そうしたフリーランスの働き方の実態を調査し、政策提言につなげようと2024年4月にフリーランスの団体「一般社団法人 日本フリーランスリーグ」が設立された。団体のアドバイザーには棗(なつめ)一郎弁護士ら労働系弁護士も名を連ねる。理事長の西野ゆかりさんに既存の団体との違いや、活動内容について聞いた。(ライター・国分瑠衣子)



●「労組はちょっと怖いイメージが…」と言われたことも

――西野さんは、日本労働組合総連合会(連合)でフリーランスの支援をしてきました。なぜあらためてフリーランスリーグを立ち上げたのでしょうか。



「フリーランスが抱える多くの問題を解決していくときに、労働組合から離れた立場で取り組む必要もあると思ったからです。私は2023年9月まで連合で、フリーランスの課題を解決する『Wor-Qサポートセンター』(以下Wor-Q)の運営を担っていました。それまでも長く労働組合の活動に携わり、労働法の下での労働者の人たちの声を聞いてきました」



「労働法のような拠り所のない、フリーランスの人たちから報酬支払いの遅延や、一方的な仕事内容の変更、不当に低い報酬などの問題を聞いて、初めてこんな実態があるのかと驚きました。業界によって課題が異なり、簡単ではない問題です。Wor-Qでは弁護士への相談サポートや、当事者や業界団体の担当者たちでつくるアドバイザリーボードの設置などでフリーランスを支援しました」



「連合という労働組合の中でフリーランス支援を行うことは、発注する会社側と交渉しやすくなるなど、意義があることだと思います。一方で、フリーランスの人たちから『労働組合は敷居が高い』とか『労働組合はちょっと怖い』という反応があったのも事実です。『連合です』と業界団体に話を聞きに行くと、断られたこともありました」



●課題を抱えるフリーランスの受け皿が必要

――フリーランスを巡る議論の何が問題だと思いますか。



「フリーランスといっても幅が広いのに、業種間を超えた横断的な調査が少なく、フリーランスの正しい実態が伝わっていないと感じます。



フリーランスの団体として自律的なキャリアを目指す『フリーランス協会』があります。自律性の高いフリーランスとして活躍ができることは素晴らしいことだと思っています。ただ、こうした組織のほかにも、課題を抱えるフリーランスの受け皿となる団体が必要です」



「ピラミッドの形に例えると、ピラミッドの上にいる人は、報酬も仕事も満足度が高く、自律的な働き方ができる人です。そうした人は一定数いますが、課題を抱えたフリーランスも少なくなく、こうした人たちの声を世の中に届けていく必要があると強く感じています」



「フリーランスの課題として、労働者性があるのに個人事業主として扱われる『偽装フリーランス』問題や、専門性は高いのに発注者と対等ではなく、契約が不利になることや、セーフティーネットの脆弱性などがあります」



●韓国では国がフリーランスの契約書用意 生産性も向上

――フリーランスリーグには、文化・芸術・芸能関係の団体が加盟しています。どんな活動をしていきますか。



「フリーランスが多い業界の団体や、個人に実態調査をして、調査結果を基に政策提言します。第一弾として、2024年4月から5月にかけて、漫画家とイラストレーターに著作権などのアンケートをしました。



調査では、回答者570人のうち5人に1人が『イラストなどを無断で二次利用されたことがある』と答え、取引先と著作権を巡るトラブルがあることが分かっています」



「著作権については約6割が『著作者に権利がある』と回答しましたが、契約先に著作権を全て譲渡する人は約2割と、契約先が有利になる契約も一定数ありました。日本の漫画・アニメ産業は世界的にも人気で、市場も拡大していますが、出版社やアニメ制作会社と契約を結ぶ、フリーランスの保護は脆弱だと思います。



韓国では文化、芸能、芸術分野のフリーランス向けに、国が80種類を超える標準契約書を用意し、フリーランスを保護しています。契約書の中では原則、著作物はフリーランス側に向けて保護されています。



出版社などメディア側が発注して創作した著作物でも、二次利用は有償で、一定期間がすぎた場合はフリーランスに著作権が戻ります。国によるフリーランス保護により、韓国はフリーランス一人当たりの売り上げは過去15年間で約2倍になり、韓国映画など産業としても成長しています」



「日本でも文化や芸能、芸術関係はフリーランスで働く人が多い分野です。調べただけでも100近い団体があるので、コンタクトをとって訪問しています。団体の協力を得ながら、 韓国の事例をもとに、契約の仕方を国際標準にアップデートさせたい。このほかフリーランスの労働時間や、収入、権利、安全衛生の問題を中心に調査します」



――調査のほかには、どんな活動を行っていきますか。



「フリーランスの自立や組織化の支援、発注側である事業者の啓発や教育支援を行います。 人材紹介会社の調査では日本の副業・兼業を含む広義のフリーランスは約1500万人とも言われています。多くの団体や個人の課題を聞き取り、発注側とフリーランスが対等な関係を築けるようにしたいと考えています」


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