我闘雲舞は「プロレスに疲れた人に観に来てほしい」さくらえみが語る後楽園ホール大会と、対戦相手・駿河メイへの思い

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2024年08月27日 17:10  webスポルティーバ

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■『今こそ女子プロレス!』vol.20

さくらえみ インタビュー 後編

(前編:後楽園ホール開催目前! 我闘雲舞の代表、さくらえみが振り返るタイでの旗揚げから現在>>)

 8月31日、プロレスリング我闘雲舞(ガトームーブ)が8年ぶりに後楽園ホール大会を開催する。普段、最大収容人数60人の"世界で一番小さなプロレス会場"で試合をしている彼女たちにとって、客席数1,400の"格闘技の聖地"は、「いつか」と夢見ていた場所。並々ならぬ思いで、彼女たちは決戦の時を迎えようとしている。代表のさくらえみインタビュー後編では、後楽園ホール大会の見どころに迫る。

■スローガンは「小さいまま大きくなる」

――8年ぶりに後楽園ホール大会を開催しようと思ったきっかけは?

さくらえみ(以下、さくら):我闘雲舞の旗揚げから12年、チョコプロ(市ヶ谷で開催している「チョコレートプロレス」。YouTubeで配信している)を約400回やるなかで、アーカイブを置くようになったんです。それで興味を持った方が、「どの大会から見たらいいの?」となった時に、後楽園だったら行きやすいし、ローカルルールとかわからないものが少なそう。普遍的にある価値に、こちらから入っていくことが大事なのかなと思って、このメンバーで後楽園に行こうと思いました。

――8年前の我闘雲舞後楽園ホール大会を経験しているのは、所属選手では帯広さやか選手とさくらさんだけですね。

さくら:私と帯広も8年前のことは覚えてないので、全部手探りです。東京女子プロレスさんや、みちのくプロレスさんに参戦した時に、「こうなってるんだな」といろいろ学ばせていただきました。何時までに何をやる必要があるか、控室が何個あるのか、テーブルが何個あるのか、お客さんの導線、チケットの引き換えの場所など、そういった事務的なことですね。

――帯広選手はX(旧Twitter)で、「後楽園という言葉に臆病になる」とポストしていました。

さくら:私たちは普段、キャパ40人の会場でやっていて、しかも40人のうちの35人くらいが同じ人で回っていますからね。お客さんと"共犯意識"を持ちながらショーをやっている感じなので、それが通用しない場所でやるのは、やっぱり怖さがあるんだと思います。

――8年間、後楽園ホールで開催しなかったのはなぜですか?

さくら:やる体制じゃなかったというのもありますし、自信もなかった。でも、「今は必要ない」と思っていたものが、「今やらなきゃいけない」になった感じです。団体を大きくするためにやらなくちゃいけないことでした。

――普段、市ヶ谷の"世界一小さな会場"で試合をされていますが、やはり大きくしていきたい?

さくら:もちろんです。私たち、トップを獲りますよ。

――トップを獲るために、どういうことをしていきたいですか?

さくら:私たちが今考えているスローガンが、「小さいまま大きくなる」なんです。もともと我闘雲舞は、来てくれた人だけが楽しめる場所にしていたんです。毎回ちょっとずつ変化があり、同じことは二度とないこの日を一緒に過ごそうと。それが、YouTubeの活動を始めて、「観ている人の数が違うだけで、世界は一気に広がるんだな」と思ったんです。

 私たちにはたくさんお金があるわけじゃないし、会社を大きくすることはできないけど、このメンバーで大きくなっていくことはできる。日本を代表するような団体にはなれないかもしれないけど、「世界トップいくつ」に必ず入っている団体になることはできると思うんです。日本の先に世界があるんじゃなくて、私たちがいる場所が世界、という感覚ですね。

――どういう団体を目指していますか?

さくら:フルコースのディナーみたいなビッグマッチを観ると、少し疲れて「明日はゆっくりしよう」となりますよね。でも、私たちが目指しているのは"ご飯"みたいなプロレス。ご飯は毎日食べるじゃないですか。プロレスと言えば「非日常、エンターテイメント、煌びやか」みたいなのを全面に出すと思うんですけど、私たちは「すぐそこにあるプロレス」を目指しています。

■後楽園ホール大会で、駿河メイに味あわせたい"最初の苦しさ"

――後楽園で特に注目してほしい選手は?

さくら:四ツ葉ミヤという選手です。大型で運動経験もあって、本当に申し分ない選手なんですけど、どうしても優しい性格で、みんなとの調和を好んでしまうところがあるんです。でも奥底には「目立ちたい、売れたい、強くなりたい」という気持ちがきっとあると思っていて、それを打ち破るタイミングがないままここまで来た。それが後楽園で爆発するといいなと思っています。

 ミヤは本来このポジションにいる子じゃなくて、(団体の人気レスラーである)駿河メイと並ぶ、もしくはメイを超える存在になると思います。我闘雲舞はいい子しかいなくて、「みんなで手をつないで頑張ろう」みたいな空気があるんですけど、「誰かが前に出ないと、手をつなぐことすらできないんだよ」ということに気づき始めている人もいるかなと思います。

――メインイベントは、さくらえみvs 駿河メイ。師弟対決ですが、後楽園で闘うのはもちろん初めてですよね?

さくら:初めてだし、最後かなという気もしてるんです。闘わなきゃいけない相手が多すぎて、私とメイがやってる場合じゃない、というのもあるんですね。でも、今回はひとつの区切りとしてやるべきだとは思うので、これが最後だと思って全部出しきります。

――どういう試合を見せたいですか?

さくら:メイは「天才」と言われがちですけれど、彼女の一番大変なところは、身長148cmと体が小さいことだと思うんですよ。彼女は特別なんじゃなくて、地に足をつけてやっているんです。そのしんどさ、つらさが、この試合で全面に出ると思っています。私は体もデカいし強いので、メイの羽をもぐどころか、全部丸焼きにしちゃうくらいだから、苦しさが見えるはずです。

 もしかしたら、メイが味わう"最初の苦しさ"になるのかな。私はメイがデビューした時に「楽しいことだけでプロレス人生を完結させよう」と思って育ててきました。ただ今回は、苦しさを味わってもらう。そのあとは、また楽しくいけると思います。

――メイ選手は天才ではない?

さくら:天才ではないですね。そのへんにいるただの女の子です。ただ、「小さい、さくらえみ」とか、継承者とも言われるんですけど、全然違って、彼女は自由を作れる人なんです。ルールからはみ出たり、そこから新しいものを作ることが自由と言われがちですが、彼女には何もなくても自分らしく振舞える自由さがあると思います。

 ただ、メイもすごく悔しがってたんですけど、メイが活躍すればするほど、「駿河メイを育てたさくらえみはすごい」というのが永遠について回る。私はラッキーだし、「駿河メイさん、歯がゆうございますね」という感じです。

■我闘雲舞は"終着点で、沼"「プロレスに疲れた人に観に来てほしい」

――さくらさんはメイ選手以外にも、里歩選手、志田光選手、真琴選手など、素晴らしい選手をたくさん育てているイメージです。

さくら:それなんですよ! 実際に(私が)関わった期間は短くて、その後に彼女たちが出会った人や頑張った期間が素晴らしいことなのに、イメージだけが残るんです。今は全員が本当にプロレスの第一線で活躍してくれていて、「メンターはさくらえみ」みたいになっている。本当に私はラッキーですね。

――でもみなさん、さくらさんの影響を受けているのでは?

さくら:反面教師としても影響を受けているから、たぶんみんなは「さくらえみのようにはなりたくない」と思っているはずです。そうじゃない道を選んだ結果、成功している(笑)。私はあまり過去を大事にしないので、「新人ばっかり大事にして!」とよく言われますね。

――やはり新人は大事?

さくら:新人ということでもないですね。誰でも女子プロレスができるということで始めた「ダレジョ(誰でも女子プロレス)」が好きで、ずっと一緒にやらなくても、その日に会った人たちとの時間を大事にしたいんですよ。よく言えばですが。

 長州力さんの「足跡を消して歩いてる」という言葉がすごく好きなんです。私は長州さんのその生き方が大好き。長州さんが(スタン・)ハンセンさんと撮った写真をXにあげていて、「お互い顔に力強さがなくなりましたね。これでいんですよ」と書かれていたんですけど、本当に素晴らしいなと思って。その域までいきたいです。普通は、自分が残してきた過去の栄光に対して、そんなこと言えないですよね。

――言葉と言えば、さくらさん。言葉の魔術師だなと思います。

さくら:言葉の魔術師? 誰が? 私!?

――はい。私が初めてさくらさんの存在を知ったのは、飯伏幸太選手について「夢が人の形をしている」と表現した、という話を聞いた時なんです。

さくら:「さくらがこう言ってた」というのがひとり歩きして、勝手に広めてもらえたんですよ。だって具体的に出てくるのって、飯伏さんのことだけじゃないですか。それが、いっぱい言っているような雰囲気になっている。やっぱりイメージで得しています。

――いやいや、さくらさんの言葉は本当にすごいです。デビュー当時からですか?

さくら:発信する場は多かったですね。マイクアピールなんて、チャンピオンになって勝った時くらいしか回ってこないじゃないですか。でも、私は大会の前説をしていたので、毎回話す機会があった。今もYouTube配信をやっているので、たとえばそのなかで発した1万の言葉のうち、ひとつがフューチャーされている、という感じだと思います。よよよ!

――最後に、後楽園ホール大会をどんな人に届けたいですか?

さくら:いろんな団体がやっているので、後楽園で試合をすること自体は目新しくないと思うんですよ。でも「馬鹿みたいに、後楽園に情熱を傾けている私たちみたいな存在もいるよ」ということを伝えたいですね。我闘雲舞はこの大会から始まる。プロレスを好きになりたい、何か自分が追いかけられるものを探したいとか、きっかけを探している人たちに観に来てほしいです。きっと、みんなの人生のターニングポイントになる。あとは、プロレスに疲れた人も。我闘雲舞はプロレスの終着点で、沼なので。

――プロレスに疲れた人、ですか!

さくら:プロレスに疲れた人に、まだプロレスを見せようっていうんだから、とんだ業ですよね(笑)。でも、会場に来たら自分が主役になれると思います。だから「応援に来てください」という感じじゃないんですよね。

――主役になれる、と言うと?

さくら:自分が感じたものは、自分だけのもの。メイに対して思ったこと、私に対して思ったこと、客席に座って自分の人生と照らし合わせながら見たものは、全部自分だけのものなので「主役はあなた」ということです。お客さんもそこに座ることで、我闘雲舞のショーを一緒に作る。私たちはそんな大会ができる。後楽園大会を、一緒に作りましょう!

――楽しみにしています!

さくら:この記事を読んで会場に来てくれた人には、特典をあげたいですね。今日撮った生写真を一枚プレゼントします。

――合言葉は何にしますか?

さくら:「プロレスに疲れた」で!

――いいですね! ありがとうございました。

【プロフィール】
さくらえみ

1976年10月4日、千葉県君津市生まれ。1995年8月17日、IWA・JAPAN富山県高岡テクノドームでの対市来貴代子戦でデビュー。1999年6月、FMWに入団。2004年10月、我闘姑娘を旗揚げ。2006年6月、アイスリボンを旗揚げ。2009年、東京スポーツ新聞社制定・プロレス大賞「女子プロレス大賞」を受賞。2012年9月、バンコクで我闘雲舞を旗揚げ。2020年3月、配信特化型団体チョコレートプロレスを旗揚げ。2021年8月より、米国AEWに定期参戦中。現在、第5代スーパーアジア王座のベルトを持つ。156cm、68kg。X:@EmiSakura_gtmv @sakura_gtmv

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