『トイ・ストーリー3』大人も楽しめる感動作、これで終われば完璧な三部作だったが…

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2024年09月20日 15:11  日刊サイゾー

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『トイ・ストーリー4』のパネル(写真/Getty Imagesより)

 おもちゃの世界を通して、人間社会の実相を描いてみせたのが、ピクサー・アニメーション・スタジオ制作のCGアニメ『トイ・ストーリー』シリーズです。第1作『トイ・ストーリー』(1995年)では、自分は唯一無二の存在だと思い込んでいたアクション人形のバズ・ライトイヤーが、工場で大量生産された商品のひとつに過ぎないと知り、ショックを受けます。家族のもとを離れ、社会人デビューした際に、誰もが似たような体験を味わったのではないでしょうか。

 大人が観ても充分に楽しめる『トイ・ストーリー』シリーズの中でも、『トイ・ストーリー3』(2010年)は感動作として有名です。日本国内だけでも興収108億円の大ヒットを記録しました。9月20日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では、『トイ・ストーリー3』を放映します。『となりのトトロ』(88年)のトトロがゲスト出演し、マーゴット・ロビー主演作『バービー』(23年)として実写化されるバービー人形の活躍も見ものです。

 SF映画『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(80年)など、名作映画のパロディがふんだんに盛り込まれた前作『トイ・ストーリー2』(99年)から、約10年。カウボーイ人形のウッディ、スペースレンジャーのバズ・ライトイヤーたちは、おもちゃなのでそのままの姿ですが、彼らの持ち主であるアンディ少年は、17歳の若者に成長しています。大学進学に伴い、実家を離れることも決まっています。おもちゃで遊ぶことはすっかりなくなりました。

 おもちゃたちは自分らがこれからどうなるか心配でなりません。不用品として処分されるのか、それとも屋根裏部屋へと追いやられるのか。いずれにしろ、子どものイマジネーションの世界で一緒に遊ぶことを生きがいとしている彼らにとっては、寂しい未来しか待っていません。

 結局、アンディのお気に入りのウッディだけは大学に連れて行かれることになり、バズやカウガール人形のジェシーたちは、屋根裏部屋送りとなります。運がよければ、アンディに子どもができた際に、また遊んでもらえるはずです。そう納得するしかありません。

 ところが、アンディの母親の勘違いで、バズたちは廃棄物扱いされてしまいます。ウッディも窮地に陥った仲間たちを見捨てられず、共に近所の保育園・サニーサイドへ逃げ延びることを選びます。ここなら、子どもたちと永遠に遊び続けることができるはず。おもちゃたちにとっての「理想の楽園」のように感じる、バズたちでした。

 ところが、サニーサイドのおもちゃの世界は、ピンク色の熊のぬいぐるみ・ロッツォが独裁支配する、恐ろしい管理社会だったのです。新入りのバズやジェシーたちは、おもちゃの扱い方をまだ知らない乱暴な子どもたちのクラスを請け負わされ、ボロボロになっていきます。理想郷とはほど遠い、生き地獄のような場所でした。

 これまではアンディの自宅で、平和に暮らしてきたおもちゃたちですが、外の世界を知り、さまざまな体験をします。ロッツォが支配するサニーサイドは、北朝鮮のような独裁社会を思わせます。サニーサイドから脱出するウッディたちは、ゴミ焼却所で地獄の業火で焼かれる恐怖にも遭遇します。このシーンは、第二次世界大戦中の強制収容所を思わせるものがあります。

 ウッディは西部開拓期に活躍したカウボーイをモデルにした正義感溢れる人形ですが、西部開拓期は米国人が誇るフロンティア精神を象徴した時代である一方、ネイティブアメリカンを迫害し、彼らの土地を奪い取っていった暴力に満ちた時代でもありました。そんな歴史は知らないウッディですが、ごく数日の間に、独裁政治や強制収容所といった近現代史における「人類の負の歴史」に次々と直面することになります。人間を模して作られた人形やぬいぐるみたちは、人間と同じように受難の歴史も背負うことになるのです。

 見た目は変わらないウッディですが、以前とは異なる存在となっていきます。単なるおもちゃではなく、故郷を離れるアンディを厳粛に送り出す父性的な一面を備えたキャラクターとなっていきます。物語の最後は、子別れ・親別れのシーンと言っていいでしょう。おもちゃは子どもたちのイマジネーションを育む、大切な存在であることを改めて感じさせます。

いつまでも童心を持ち続けたピクサー創業者たち

 ピクサーを創設したのは、Macやiphoneを開発したスティーヴ・ジョブズです。自身が設立したアップル社を追い出されたジョブズは、やはりディズニー社を辞めさせられたアニメーターのジョン・ラセターらの優れた才能を見込み、世界初のフルCGアニメ『トイ・ストーリー』を完成させ、大ヒットさせたわけです。

 ジョン・ラセターが製作総指揮を務めた『トイ・ストーリー3』の大ヒットを見届け、スティーヴ・ジョブズは、2011年にすい臓がんで亡くなっています。56歳でした。ラセターやジョブズらの老いることのない童心や飽くなき探求心が、『トイ・ストーリー』という大人気シリーズを生み出したのです。

 2006年にディズニー社に買収され、ピクサーの会社規模はぐんと大きくなりました。しかし、ディズニーの筆頭株主となっていたジョブズは亡くなり、ジョン・ラセターは「Me Too運動」の煽りを受けて、ディズニーからもピクサーからも去ることになりました。

微妙な評価だった『トイ・ストーリー4』

 三部作完結編を公開時には謳っていた『トイ・ストーリー3』でしたが、ウッディたちがさらなる冒険に繰り出す『トイ・ストーリー4』(19年)が公開されています。興行的には成功した『トイ・ストーリー4』ですが、せっかく『トイ・ストーリー3』が感動的なフィナーレだったのに……という不満の声も上がっています。ウッディらがおもちゃの自立を求めて旅立つという物語は、当初のシリーズとは別物になった感がするのも確かです。

 9月27日(金)の『金ロー』は、スピンオフ作品『バズ・ライトイヤー』(22年)が放映され、2026年には『トイ・ストーリー5』が公開されることが決まっています。人気シリーズの宿命といえばそれまでですが、ウッディやバズたちはお客が呼べる間は、ディズニーから搾取され続ける運命にあるようです。

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