画像提供:マイナビニュース 三菱自動車工業が「アウトランダー」のマイナーチェンジモデルに関するイベントを「女神の森」(山梨県北杜市)で開催すると聞いたので、てっきりプロトタイプの「試乗会」かと思っていたのだが、実際は撮影会およびオーディオ「試聴会」だった。何を聴かせたいのか。参加してきた。
高級カーオーディオ搭載モデルを振り返る
高級カーオーディオをメーカーの純正やオプションで用意し始めたのは、1980年代後半のバブル景気の頃にデビューしたクルマあたりではないだろうか。その頃、筆者がまず憧れたのが、超高級カセットデッキで有名な「ナカミチ」が作るカーオーディオを搭載したトヨタ自動車の初代「セルシオ」(1990年)とレクサス「LS400」だった。
クルマはもとより、自宅用のデッキとしても買えるわけのない代物ではあったけれども、とにかく、「どんな音がするんだろう」と思った記憶がある。ちなみに、ナカミチのオーディオ「CD-500」は現在、筆者が所有する2台のクルマに取り付けている。
マサチューセッツ工科大学のボーズ博士が設立した(この響きだけでやられた……)米国の音響メーカー「BOSE」も、筆者の好きなブランドだ。近年ではノイズキャンセリング技術が際立っているけれども、当時は長い管を使って重低音を出す「アコースティックウェイブガイド」が売りだった。
筆者もこの技術を採用したホームオーディオ「AWM」(Accoustic Wave Music System)を所有していたのだが、なんと、これを搭載するクルマもあったのだ。それは1991年にマツダが発売した13Bロータリー搭載スポーツカー「RX-7」(FD3S型)で、ウーハーユニットとして長さ2.7mものクネクネとした管(=アコースティックウェイブガイド)が車内に取り付けられていたという。
BOSEは現在も数多くの自動車メーカーが採用している。例えば日産自動車「ノートオーラ」のパーソナルプラスサウンドシステムは、シートのヘッドレスト内に各2個の6cmスピーカーを内蔵するユニークなシステムだ。アウトランダーの現行モデルも、BOSEの9スピーカープレミアムサウンドシステムを搭載している。
その他のメーカーでは、レクサスが米国のマークレビンソン、BMWとスバルは米国のハーマンカードン、アウディ、ベントレー、ランボルギーニは北欧デンマークのバング&オルフセン、メルセデス・ベンツはドイツのブルメスター、フォルクスワーゲンはドイツのディナウディオ、アストンマーティンは英国のリン、DSやルノーはフランスのフォーカル、ボルボは英国のバウアース&ウィルキンス(EX90が搭載するアビーロード・スタジオモードにはちょっと興味がある)を採用するなど、さまざまな組み合わせがある。
マイチェン版アウトランダーはヤマハ製オーディオを採用!
アウトランダーが搭載するプレミアムオーディオは、マイチェンを機に現行のBOSE製から日本のヤマハと共同開発したものに変更となる。8スピーカーの「ダイナミックサウンド・ヤマハ・プレミアム」とデュアルアンプ&12スピーカーの「ダイナミックサウンド・ヤマハ・アルティメット」の2グレード展開だ。
今回の試聴会は、従来のBOSE製と新規採用のヤマハ製2種類を同じ条件で順番に聴き比べてみるという趣向。聴いたのはDua Lipaの人気楽曲「Don't Start Now」とハービーハンコック&クリスティーナ・アギレラの「A Song for You」の2曲だった。1曲目の聴きどころは唸るファンキーな低音(Bass)、カッコいいベースライン、エキゾチックな歌声。2曲目は冒頭の水が流れるような高音、ソウルフルな歌声、ハービーが奏でるピアノによりステージが眼前に現れるかのような空間だ。
結論から言うと、BOSEは筆者にとって聞き慣れた音(筆者はBOSE党)であり、角が取れていて、長く聴き続けても耳に優しい音色だった。次のヤマハ・プレミアムは、BOSEの音を全体的に上に引き上げた感じで、それぞれの音がよりクリアに聞こえてくる。最後のヤマハ・アルティメットは、プレミアムの音にさらなる解像度と豊富な艶が加わり、空気が透き通ったという感じだ。
ヤマハと三菱が音をめぐって議論?
スピーカーやアンプなど、静的な部分を担当したヤマハ IMC事業本部 サウンドマイスターの中西崇主事によれば、「ツィーターではマグネットを大型化したり、駆動部を軽量化するためにアルミを主としたコイルにしたり、またウーハーでは駆動力と放熱性をアップするため径の太いコイルを採用したり」といった工夫を盛り込んでいるという。
走行中の音という動的な部分を担当した三菱自動車 インフォテイメント開発部の賀来馨主事は、「補強材と制振材を追加するとともに、サービスホール(作業穴)をふさぐなどして剛性を1.5倍にアップしたドアパネルを採用したことにより、走行中でも『いい音』をクリアに届けることができるようになった」と話す。
開発の初期段階では、別々の会社ということでそれぞれが遠慮気味だったというが、やはり「ヤマハが納得できる低音が出ていない」ということで意見を出し合い、上記の改良を行って、鉄板が共振するような濁った音が出るのを抑制することができたのだという。
アルティメットでは通常のイコライザーやバランサーだけでなく、ポップスやダンスミュージックに合う「Lively」、クラシックやジャズ、ブルースに合う「Signature」、ロックやヒップホップに合う「Powerful」、同乗者との会話を楽しむ時の「Relaxing」の4つのサウンドタイプが選べる。ほかにも、座席に合わせたリスニングポジションが簡単に選べるなどさまざまな調整が可能だ。
さらに、クルマはリスニングルームと違って移動体なので、外の音や風の音、雨の音やエアコンの音に対しては、単純にボリュームを上げるだけでなく、それらの周波数に対応した補正をクルマが自動で行うシステムになっているのだとか。
イベントの最後に行進曲「威風堂々」(アウトランダーのコンセプトも「威風堂々」)をジュゼッペ・シノーポリ指揮のフィルハーモニア管弦楽団バージョンで聴いてみると、フロントガラス前方の女神の森の芝生に、まるでオーケストラが降臨したかのような感覚に。なかなか楽しい試聴会だった。
原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)