未来のトップドライバー候補として、これから日本のモータースポーツ界を担う若手ドライバーにスポットを当てる『ネクスト・スター』。第5回は、2024年のFIA-F4に道上龍代表が率いるDrago CORSEから参戦する清水啓伸に話を聞いた。
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──まず、清水選手がモータースポーツを始めることになったきっかけは何だったのでしょうか?
清水啓伸(以下、清水):父親がスーパーGTを見るのが好きで、道上(龍)さん、本山(哲)さん、脇阪(寿一)さんたちがバトルをしていた時代のレースをよく見ていました。自分はそのころまだ小さかったので記憶はあまりないのですけど、子どもでも乗ることができるカートがあることを知りました。そこで、自分の出身である長崎県に、道上さんのお父さんが奈良県で手掛けているチームの系列チームがあったので、そこでカートに乗ろうとなったことがきっかけです。
──その後は清水選手が「カートをやりたい」と言ったことでキャリアがスタートしたのでしょうか?
清水:最初は……やらされていた、という感じです(苦笑)。僕は小さい頃にサッカーをしていたので『サッカーをしたいな〜』と思いながらカートに乗っていました。最初のころはカートに乗るときも、親から『乗りなよ』と言われてから乗ったりして、降りた後に2回目は乗らなかったです。
──その状況からプロレーサーになるにあたって、どのような心境な変化があったのですか?
清水:そのときも別にそこまで乗り気ではなかったのですが、小学校5年生のときにカートの練習をしていて、僕のタイムがレースに出ている人たちよりも速かったんです。それがきっかけで『レースって面白いな』と感じ始めて、自分から練習したいと思うようになりました。その後、小学校6年生で優勝したときにプロドライバーを目指すようになりました。
──清水選手は2021年ごろからフォーミュラレースに参戦するようになりましたが、2022年にはホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のフォーミュラクラスを受講していますね。そこで学んだことや印象に残っていることを教えて下さい。
清水:さまざまなプロドライバーと相談するなかで、いろいろな考え方があることを学びました。僕はその年くらいからフォーミュラカーに乗り始めたこともあり、フォーミュラマシンへの知識がなかったこともありましたけど、自分が今まで勝手に決めつけていた概念とは、全然違う常識を見せつけられました。いろいろな考え方があることを学ぶことができたので、ものすごく印象に残っていますし、現在にも活きています。
──2023年にはFIA-F4にステップアップしました。同じくDrago CORSEから参戦した1年目はどんなシーズンでしたか?
清水:大変なシーズンでした。もちろん優勝とチャンピオンを目指して参戦しましたが、いざ始まってみるとなかなかうまくいきませんでした。シーズンの最初は『やっぱり簡単にはいかないな』と思っていて、ここから良くなるだろうと思っていたところから、セッティングや自分のドライビングなどいろいろなものが噛み合わず、1年間なかなか結果を出すことができなかった年でした。
──2年目となる今季は第2戦で2位、第6戦では初優勝を挙げました。ここまでのシーズンはいかがですか?
清水:もちろん優勝するつもりではいましたけど、『本当に優勝できるのかな』という少しの不安もありました。開幕大会の富士では自信があったなか、今季からのニューマシンということでうまくアジャストできなかった部分もありました。次の鈴鹿大会では、正直マシンのセッティングをうまくできずに苦労していたなかで、何とか2戦とも5位で終えることができたので、かなりの自信をつけることができました。
『自分自身で何とかできる部分もある』ということに気づくことができたので、2ヵ月後の富士大会に向けていろいろな準備をしました。いざ迎えたレースウイークでは練習走行から調子が良かったのですが、第5戦では表彰台に立つことができずにすごく悔しい思いをしました。その反省を活かした第6戦では、レース展開を自分でうまく組み立てて優勝することができたので良かったです。
■「感動を与えられるようなドライバーになりたい」。大学生活も両立
──清水選手が思うFIA-F4の面白いところと難しいところを教えて下さい。
清水:面白いところは、上のカテゴリーにステップアップするとダウンフォースが増えることでバトルが難しくなるなか、FIA-F4は接近戦がしやすいですし、他のカテゴリーよりバトルが多いことです。また、チャンピオンクラスは若いドライバーがメインなので、レース中のミスが多く、展開がいろいろと起こりやすいところです。
一方で難しい部分は、少し噛み合わなくなると戻るのが難しいことですね。これはどのカテゴリーでも似た部分があると思いますが、FIA-F4では少しリズムを崩すと、そこから“元に戻しているつもり”でも戻らなかったりすることがあるので、そこは難しい部分だと感じています。
──FIA-F4は今季から新型車両『MCS 4-24』にマシンが変わりました。昨年も同じチームでFIA-F4に参戦した清水選手が感じる旧型と新型マシンの違いはありますか?
清水:マシン自体の総重量が重くなったのでタイヤへの負担がかなり大きくなったことと、ブレーキングも旧型マシンのほうが止まりやすかったですね。そういった部分の変化はものすごく大きく感じます。
──では、清水選手は将来どのようなレーシングドライバーになりたいかというビジョンはありますか?
清水:第6戦での優勝はレーサーとして2年ぶりくらいの優勝でした。ずっと応援してくれているファンの皆さんがいるなか、昨年は苦しいシーズンを送ってしまい、そこから優勝したときは僕ももちろん嬉しかったです。でも、それよりも嬉しかったのは、応援してくれている皆さんが喜んでいる姿を見られたことです。
もちろん走りで『速いな』と思わせたい部分もありますけど、レースを見ている人たちに感動してもらえるようなドライバー、例えば優勝したときに、ファンの皆さんに感動を与えられるようなドライバーになりたいと思っています。
──目標とするレーシングドライバーになるため、今の自分に必要なことはありますか?
清水:もちろん優勝するためのドライビングスキルはそうですけど、応援してくれるファンの皆さんとのコミュニケーション能力がもっと必要かなと思っています。僕はそこまで喋ることが得意ではありません。質問に答えることは得意なのですが、会話を広げたりすることは苦手です。そういった面で、レースを見たファンの方が自分のことを知ってくれたとき、いろいろなことを話せるように、もっとコミュニケーション能力が欲しいです。
──なるほど。そんな清水選手は今年から青山学院大学に入学したとのことで、大学1年生とレーサーの両立はいかがですか?
清水:どのレベルで両立ができているか、という部分にもよると思いますけど、自分としては何とか頑張っていると思います。もうレース会場に行くか大学に行くかをずっと続けている感じで、勉強で大変な部分もありますけど、特に問題なく両立できています。
また、大学が忙しいときはレースをすることが気分転換になっているときもあります(笑)。僕はサウナが好きなので、レースでサーキットに行ったときにサウナが近くにあれば行きますし、家にいるときも気が向いたらサウナに行っていますね。
──そうなのですね。そんな清水選手が今後参戦したいカテゴリーや、憧れているカテゴリーはありますか?
清水:やはり『F1ドライバーになりたい』という思いがあるので、フォーミュラで上のカテゴリーに行きたいです。スーパーフォーミュラ、もしチャンスがあれば海外のフォーミュラレースにも参戦したいと思っています。
──では最後に、今季のFIA-F4も終盤戦に突入していきますが、今後どのようにシーズンを進めていきたいですか?
清水:もちろん、ここからすべてのレースを勝ちたいくらいの気持ちではいます。ですが、そう簡単にいくシリーズではないので、まずはポイントを獲ることをいちばん大事にしたいと思っています。カート時代に『あそこでポイントを獲っていれば』ということが多かったので、確実に1ポイントでも多く得点することが、あとで大事になってくると思います。
また、優勝することのポイントの大きさをものすごく感じたので、チャンスがあれば確実に、そしてチャンスがなくても優勝するために、バトルやスタートでの位置取りなどをしっかりと準備して、自分の手で優勝するくらいの走りができるようにしたいです。
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「コミュニケーション能力が欲しい」とは言ったものの、インタビュー中は19歳とは思えないほどハキハキと受け答えをした清水。ここまでのレースキャリアをDrago CORSEとともに歩んできた彼の目標はF1ドライバーということで、カート時代に同チームに所属し、今では日本人唯一のF1ドライバーになった先輩、角田裕毅に続くことができるか。まずはFIA-F4での成績が重要になってくるだろう。
■プロフィール 清水啓伸(しみず・ひろのぶ)
2005年5月8日長崎県出身。小学3年生からカートを始め、2020〜2022年に全日本カート最高峰のOKクラスに参戦。2022年にはスーパーFJ日本一決定戦で優勝を飾り、同年のホンダレーシングスクール鈴鹿フォーミュラクラスで最終スカラシップ選考会に残る。2023年からDrago CORSEとともにFIA-F4に参戦を開始、2024年第6戦で初優勝を挙げ、現在ランキング3位につけている。