Q. 女子が応援団長になるのは難しいでしょうか? 体格的に不利ですか?
Q. 「高1・女子です。いつか運動会で応援団長をしてみたいのですが、毎年、応援団長になるのは男子ばかりです。性別の制限などはないのに、女子応援団長を実際に見たこともありません。確かに男子の方が体も大きく、見た目も迫力があると思います。女子の体格では難しいのでしょうか?」A. 不利なのは体格というより「声質」です。大変ですが、努力でカバーできます
男性と女性では確かに体格が違いますが、「応援団長」の役割を考えたときに影響するのは、体格というよりも、実は「声質」ではないかと思います。応援団長は、広い運動場全体に、応援する声をしっかりと届けなければなりません。そのためには男性の低い声の方が、有利な点があるのです。分かりやすく解説しましょう。そもそも声を含む「音」は、空気の振動によって生じる「音波」の一種です。音(声)の特性は、波の振幅と波長によって決まります。音波の「振幅」は、音の大きさに反映され、一方の「波長」は、音の高低に反映されます。具体的には、波長が短いほど、音は高く聞こえます。
高い音は、波長が短く、細かい音波です。空気中のさまざまな分子にぶつかりやすく、真っすぐに進みにくいため、音源の近くで「散乱しやすい」性質があります。パトカーや消防車のサイレンや、火災報知機のベルなど、危険を知らせるための音に高い音が利用されるのは、響きやすいからです。
赤ちゃんや子どもの泣き声が甲高く周りに響くのも、「異変が起きている」「助けが必要だ」と、周囲に察知してもらうために適しているからです。
これとは反対に、低い音は、波長が長く緩やかな音波です。音源の近くで「散乱しにくい」性質のため、危険を知らせる音としては適していません。一方で、空気中の分子を回避して、真っすぐに進みやすいため、「遠くまで届きやすい」という性質があります。
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広い場所で応援するとき、「高い声」と「低い声」で比べると、「低い声」の方が遠くまで届きやすいのです。「応援団長」に男性が多かったのは、さまざまな理由や伝統などの背景もあったのだろうと思いますが、科学的な視点で見ると「男性の低い声」の方が適していると言えます。
ただし近年は、女性の応援団長も登場しています。2017年には東京六大学で初の女性団長が誕生しました。一般に女性の高い声は、音波の特性上はどうしても散乱してしまい、遠くまで届けるのは大変です。しかし、声質での不利な面は、発声の工夫でカバーすることも可能です。
できる限りおなかから、声を大きく出す練習が有効です。コツだけでなく、体力も必要なので大変だと思いますが、練習で得た応援の声は、しっかりと届くことでしょう。応援団長にチャレンジしたいという女性の気持ちを、私は心から応援したいと思います。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
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