「復讐という名の料理は、冷えてから食べたほうがおいしい」のだそうですよ。鳳凰(藤ヶ谷太輔)さんが言ってました。調べてみたらフランスの古いことわざだそうで、映画『ゴッドファーザー』(72)にも「復讐という名のスープは冷めたころが一番うまい」というセリフがあるんだそうです。覚えてないけど。
ともあれ、そういう言い回しが実によく似合うノワールドラマ『潜入兄妹 特殊詐欺匿名捜査官』(日本テレビ系)も第8話。いよいよ、登場人物のみなさんの復讐と裏切りが複雑に絡まり合ってまいりました。
振り返りましょう。
■ユキ、声でかい!
巨大詐欺組織「幻獣」のボスである鳳凰に父親を殺され、復讐のために組織に潜入したキイチ(竜星涼)とユキ(八木莉可子)の潜入兄妹。一般人に迷惑をかけない形で組織の仕事で実績を残し、兄妹そろって幹部として迎えられることになりました。
「幻獣」は目下、九頭竜という人物が率いる組織と敵対中。この九頭竜は幻獣の生みの親である初代・九頭竜(川瀬良太)を殺し、その名前と初代の持っていた「閻魔帳」と呼ばれるハードディスクを奪った二代目なのだそうです。
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潜入兄妹の潜入の目的はあくまで父を殺した鳳凰への復讐でしたが、兄妹を潜入させた当局側には別の目的がありました。兄妹を潜入させ、幻獣と九頭竜、2つの組織を一網打尽にすること。その目的を知ったキイチは県警の入間刑事に潜入を辞めると宣言しますが、入間刑事の同僚である吉野(長尾純子)が「2人が潜入捜査官だと幻獣に流す!」とか言い出します。こっわ。そんなことされたら、キイチもユキも即刻、幻獣に殺されてしまいます。人の命を何だと思ってるんだ、吉野。最高。
そういうわけで引き続き潜入を続けることになった兄妹。今回の仕事は、九頭竜の部下である信濃(篠田麻里子だった!)を拉致すること。信濃の身柄を抑え、叩いて吐かせるというシンプルな作戦です。
ユキが幻獣幹部・白虎(黒谷友香)に化けて囮になり、信濃をおびき寄せて攫う計画を立てたキイチたち。しかし、そこは何事も上手くいかないのが『潜入兄妹』というドラマです。逆にいろいろバレて、キイチはなぜかいきなり現場に現れた別の幹部・朱雀(白石聖)とともに信濃に拉致されてしまいます。
これまで、どんなピンチが訪れても「兄ちゃん!」と叫べば助けてくれた兄・キイチが攫われ、動転した妹・ユキ。入間刑事に電話して「今すぐ助けを送って! (場所は)わからない! 私たち潜入捜査官はただの捨て駒だったってこと!?」と丁寧に自らの立場を説明しながら大声で絶叫しているところをハコメンバーである賢太(伊藤あさひ)に聞かれてしまうのでした。
取り乱すユキと、兄妹の秘密を知ってしまって立ち尽くすしかない賢太。その背後に、あの“始末屋”櫛田(フェルナンデス直行)が悠々と近づいてきて、次回へ。来週はお休みだってさ。最悪だ……!
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■ここからが本番ぽい
今回で、あらかじめ設計されたドラマの人物配置の謎を解く準備がおおむね整ったように思います。その復讐と裏切りの構図を、今一度整理しておきましょう。
まず、潜入兄妹は潜入捜査官であるからして、ハナから幻獣を裏切っている。そして、兄妹を潜入させた神奈川県警も、潜入の目的を「幻獣の壊滅だけだ」と偽っていたので、兄妹を裏切っていたことになる。
兄弟が潜入捜査官であることを知っているのは、幻獣側ではハコメンの賢太だけ。その賢太は組織を抜けたいと思っていて、キイチだけが賢太の気持ちを知っている。
なお美は幻獣を裏切って九頭竜側の信濃とコンタクトを取っていたことがバレており、処分保留の状態。鳳凰は、九頭竜を片付けたらなお美も始末するつもりでいる。そのなお美は信濃のことも裏切っていて、九頭竜側からも消される可能性が高い。
ハコメンのギャル・若菜(岡井みおん)はハコを裏切って勝手に幹部と連絡を取っていて、ユキはそのことを知っている。若菜から連絡を受けた朱雀は何かを企んでいて、拉致現場に現れたのには何らかの目的がある。わざと九頭竜一派に拉致された可能性もある。
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ハコメンの泰造さん(徳井優)は体調が悪そうで、ちょっと吐血している。
櫛田はユキと警察がつながっていることを知っているが、それを幻獣幹部には隠している。
あと、ずっとなんか知らんけど最初のほうからオレンジパーカーの男が各現場で見切れている。
毎回、ぎゅうぎゅうにジェットコースターサスペンスを詰め込みながら、気づいてみればなかなか複雑な構図が完成していました。あと2話かな、とにかく徹底して香港ノワールの美学を追求してきたドラマだけに、どんな結末に導くのかとっても楽しみです。復讐という名ののスープは、煮えたぎっている。
(文=どらまっ子AKIちゃん)