●ユーザーの制作環境アンケート調査 iPadでイラストやマンガを描いたら、やっぱり冊子に印刷してみたいですよね。同人誌印刷の現場でも、スマートフォン/タブレットからの利用が大きく増えているのだそうです。今回は同人誌・グッズ印刷サービス「おたクラブ」を運営する大阪印刷株式会社にご協力いただき、スマートフォン/タブレットからの冊子印刷について、制作・入稿時の注意点などをうかがいました。
お話をうかがったのは、同社で冊子商品のデータ処理およびお問合せ対応を担当するDTP課の今村さんです。
○半分近くがスマートフォン/タブレットを使用
——今村さん、よろしくお願いします。今村さんはDTPご担当として日々お客様からの入稿データに触れていらっしゃるわけですが、近年何か目立った変化や傾向はありますか?
大阪印刷 今村 雛(以下、今村) よろしくお願いします。以前はPCで制作されたデータが大半でしたが、最近はやはりスマートフォンやタブレットからの入稿が増えていますね。また、当社はこれまで売上の多くが冊子印刷でしたが、この数年でグッズの売り上げが大きく伸びて、現在は半々くらいになっています。
——やはり、スマートフォン・タブレットで制作する方が増えているのですね。今回はこの取材のために、御社のXアカウントでアンケートを取ってくださったそうですね。
今村 当社でもスマートフォン/タブレット(以下、スマートデバイス)からのご注文が増えていることはわかっていましたが、お客様の制作環境までは詳しく確認したことがなかったので、この機会に質問してみることにしました。
——ご回答くださったみなさま、ありがとうございました。ではさっそく回答を確認してみましょう。まず制作環境についての質問です。
○冊子印刷、どのデバイスで制作していますか?
——最多は「PCのみ」となりましたが、スマートデバイスのみをお使いの方もそれに迫る勢いです。
今村 そうですね、予想していた以上に多かった印象です。今回は冊子印刷についてお聞きしましたが、グッズ印刷でもスマートデバイスから入稿される方が多くいらっしゃいます。
——次に、使用アプリケーションについての質問です。
○フルデジタル(タブレットまたはスマホのみ)とお答えいただいた方、どのようなアプリケーションをご利用でしょうか?
——アプリケーションついては、デバイスを問わず圧倒的にクリスタが強いですね。
今村 入稿の時点ではPNG/PSD形式でデータをお送りいただくので、使用アプリケーションが何かはあまり関係なくなってしまうのですが、改めてシェアの大きさを実感しました。
——最後に、小説の冊子制作についても質問していただきました。こちらはMicrosoft Wordが多かったですね。
○冊子印刷で小説を書かれる方、どのようなアプリケーションをご利用でしょうか?
今村 はい、当社では最新バージョンのMicroSoft Wordの使用を推奨しています。Word以外でも最終的にPDFに出力していただければ入稿できますが、特にMacのQuartzやフリーソフトをお使いの場合は文字化けなどのエラーが発生しやすいためを避けるためにWordで執筆し、Wordの書き出し機能でPDFに出力していただくのが安全です。●冊子印刷のデータ入稿にありがちなトラブルは? ○印刷会社提供のテンプレートを使うべき?
——スマートデバイスを使ってマンガを冊子印刷する際にありがちなトラブルは、何かありますか?
今村 特にスマートデバイスだから起きる、というトラブルはありませんね。
——そうなんですか! みなさん、もうデバイス関係なく同じように作業していらっしゃるのですね。では、全般的に見てよくあるトラブルというといかがですか?
今村 多いのは原稿サイズの間違いです。入稿時点でサイズを間違って選んでしまった場合もありますし、正しいテンプレートをご選択頂いていてもダウンロードしたテンプレートの読み込み・アプリからの書き出しでサイズが変わってしまった、などが原因だと考えられます。当社サイトでサイズ別の本文用テンプレートを配布しているので、そちらお使いいただき、読み込み・書き出しでは解像度などの設定にご注意いただくとよいかと思います。アプリにデフォルトで入っている汎用の原稿用紙テンプレート等でも問題なくご入稿いただけますが、表紙だけは必ず当社が配布するテンプレートをご使用いいただくようお願いしています。
——冊子の仕様に合わせたテンプレートを使う必要があるからですね。
今村 はい。冊子印刷は、紙の種類(厚み)とページ数によって「背幅」が変わります。当社ホームページに背幅を計算するツールをご用意していますので、そこで背幅を確認し、適した背幅の表紙テンプレートファイルをダウンロードしてお使いください。当社は、入稿の際に表紙ファイルのピクセル数を機械的にチェックしており、ご注文の仕様と合わない場合はファイルをアップロードできない仕組みになっています。
——そうやってトラブルを防いでいるわけですね。
今村 そうなんです。それと、もう一つ大事なのが、裁ち落とし位置の問題です。当社では原稿ファイルの中央を基準に指定ピクセル数で上下左右を裁ち落としているので、トンボは使わないのです。他にもいろいろな印刷会社・アプリが「表紙用テンプレート」を提供していますが、トンボの外側に社名や注意書きがあったりして、描画エリアの配置が中央でない場合があります。そうすると、当社のやり方では裁ち落としの位置が合わなくなってしまうのです。
——なるほど、御社のテンプレートにトンボがないのはそういう理由だったのですね。紙原稿の時代を知る者としてはちょっと驚いてしまいました。
○“塗り足し”領域に塗り足すのは背景色?
——携帯端末用の表紙テンプレートを開くと、透明な画面に色違いのガイド線と説明書きが表示されていますね。
今村 はい。まず、青い線が仕上がりサイズです。ただし絵柄は青い線の外側にある“塗り足し”の領域まで書き込んでください。時々、塗り足しは背景色だけで、絵柄が青い線で終わっているケースがあるのですが、絵柄も塗り足しまで描いていただきたいです。
——“塗り足し”は背景だけ塗って足す領域ではなく、絵柄まで含めた“描き足し”領域と考えた方がいいのですね。
今村 そうですね。それと、タイトル文字や絵柄の大事な部分は、赤い枠の内側に入れていただくと安全です。書き終わったらテンプレートのガイド線レイヤーは削除して、その他のレイヤーをすべて統合して入稿してください。余計なレイヤーが残っていると、入稿時のチェックにエラーが出て、アップロードできません。
——ここも機械的にチェックされるのですね。本文用テンプレートの方はいかがですか?
今村 本文ページも同様に、裁ち切りのコマは塗り足しの一番端まで書き込んでください。大事な絵柄や文字は内側の「安全圏」に納めましょう。また、本文ページは綴じ位置にも注意が必要です。背綴じ冊子の場合、「ノド」に近い部分は見えにくくなってしまうので、安全圏であってもギリギリまで絵柄や文字を入れるのは避けていただいたほうがいいですね。
——スマートデバイスで1ページずつ描いていると見落としやすいポイントかもしれませんね。この場合、見開きページはどうしたらいいですか?
今村 当社は見開きの状態ではご入稿いただけないので、見開きで描いた場合は左右に分けて別々にデータを作成して頂く形になります。具体的には、安全圏の外側から塗り足しにかけて、無線綴じ冊子の場合は、「ノド」の部分に絵柄が一部重なるよう「かぶせ」部分を設けててください。詳しいやり方は 当社Webサイト「冊子商品のデータの作り方」のページでもご案内していますので、参考にしてください。
——CLIP STUDIO PAINT EXなら、見開きで描画したページをかぶせ幅指定で個別のページに書き出す機能がありますね。
○冊子の“仕様”を固めておこう
——冊子印刷の注文・入稿の際に、間違いやすいポイントはありますか?
今村 多いのはページ数の間違いですね。当社では、本文の前にカラー口絵を追加する場合、ご注文フォームの「本文のページ数」にはカラー口絵を含めたページ数を入力する形になっています。カラー口絵をご注文の際はご注意いただきたいです。
今村 それと、右綴じか左綴じかによって、表紙/裏表紙の位置が逆になるので、この点もご注意いただきたいですね。
——テンプレートは同じでも、オモテ表紙になる方が違ってくるわけですね。注文時に間違えないよう、あらかじめ自分で作りたい冊子の仕様を書き出して、注意点をまとめておくのがよさそうですね。
今村 はい。最後に、納期のご確認も忘れずにお願いします。当社の場合、通常の納期に比べてイベントへの直接搬入ではプラス4日かかります。また、大型イベント前などでは短納期のご注文の受付を停止する場合もあるのでご注意ください。ぜひ早めのご注文・ご入稿にご協力をお願いいたします! 納期に関しましてはWebサイトの各商品ページ下部に「納期計算カレンダー」をご用意しておりますので、そちらをご確認ください。
——ありがとうございました。
では、最後にここまでのポイントをまとめてご紹介します。●冊子印刷原稿制作時のチェックポイント ○テンプレートを使う際はここに注意しよう
笠井美史乃 かさいよしの アプリ、サービス、マーケティングなど、IT・ビジネス分野で取材・執筆・編集を行う。マイナビニュースでは2013年開始の連載「iPhone 基本の『き』」をはじめ、iPhone・iPad・Apple WatchなどAppleデバイスのハウツーやレビューを担当。雑誌「Web Designing」「Mac Fan」、その他企業オウンドメディアなどで執筆中。 この著者の記事一覧はこちら(笠井美史乃)