「花子さんの肛門に指を入れて」宮川大助に聞いた、闘病中の妻の容体と過酷な“老老介護”のリアル

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2024年12月01日 06:00  週刊女性PRIME

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写真/宮川花子X(生駒のえりざべーと@fukkatuERZABEAT)より

 

 日本を代表する夫婦漫才の第一人者、宮川大助・花子さん。昨年からほぼ寝たきりになってしまった花子さんを大助さんが自宅で介護している。花子さんが便秘のときには指を直腸に入れる摘便も行い、「いいうんちが出るよう、歌を歌いながらやっています」と楽しそうに語る。自身も腰痛を抱えながら夫婦2人で暮らすことにこだわるその理由とは―。

ひとりの人間としてお手伝い

 血液のがん「多発性骨髄腫」で闘病中の妻・花子さんを支える、宮川大助さん。花子さんは放射線治療のために入院し、ようやく自宅療養が可能となり退院したばかりだ。

花子が戻ってきてホッとしています。家にいないとさびしいですよ。健康なときはわかりませんでしたが、こういうときに『嫁はんは自分の身体の一部なんやな』と感じます」(大助さん、以下同)

 昨年末から右足が動かなくなり、ほぼ寝たきり状態となった花子さんを、24時間つきっきりで介護。そんな大助さんの日常のひとつになっているのが、排泄の介助だ。

抗がん剤の影響で便の状態が不安定で、いつ出るかわからないんですね。朝早く起こされることもあるし、夜遅くに始末が必要なことも。下痢のときはポタポタと垂れてくるし、便秘のときは踏ん張っても出にくいから、肛門に指を入れて、便をかき出してあげるんです。そりゃもちろん手袋をはめてますよ

 便の状態は、花子さんの体調がわかる貴重なバロメーター。「ちゃんとした便が出たときは最高にうれしい」と話す。寝るときは、自力でトイレに行けない花子さんのために、尿道カテーテルを挿入してから介護ベッドの隣で就寝するのが日課だ。

男なら女性のパンツの中を見るなんて誰でも興奮しますが(笑)、もうそんな感情はありません。ひとりの人間として、嫁はんの生活をお手伝いさせてもらっとります

 やるべきことは身体的介護だけではない。食事の用意から掃除、庭の草取りまで、家事全般のすべてを担う。

朝昼晩の食事は僕が準備します。特別な料理はしないので娘が冷凍ごはんやおかずを作っておいてくれたり、花子のお姉さんが畑でとれた新鮮な野菜を持ってきてくれたりするので、助かります。車いすに乗せて、2人で向かい合って食事をするときが、いちばん幸せな時間だね

 約6年にも及ぶ高齢者同士の老老介護で最も神経を使う瞬間が、花子さんを抱えて移動させるとき。しかし、大助さんは過去に腰部脊柱管狭窄症で手術を経験。今も慢性腰痛を抱える。

移動するとき、嫁はんの呼吸が整うまで同じ体勢で待っているんですが、僕も腰が痛くてしんどい……。だから病院の先生に相談して、今度はヘルニアを治す手術を受けることに。1か月くらい入院して調子が良くなれば、もっとラクに移動の介助ができる。そしたら嫁はんを車に乗せて買い物に行って、外の空気を吸わせてやりたいんですよ

 夫が、妻の介護や慣れない家事を一手に引き受けるとなると、戸惑う男性も多い。しかし大助さんは、花子さんが病に倒れたとき、すぐに「自分が面倒をみる」と決意。

嫁はんが僕より先に病気になっただけ。周りから『大ちゃんえらいな』って言われますけど、僕は当たり前のことだと思ってるし、負担だと感じたことは全然ないんです

僕たちは2人で1人なんだと感じています」

 大助さんは花子さんが病気になってから気づいたことがたくさんある。

昔は自分がネタを作ってるんだというプライドがあって、『一家の大黒柱は僕や』という自負がありました。でも違った。本当の大黒柱は嫁はんだったんですね。女の人が病気になったら家の中が一気に暗くなる。仕事も減って、僕たちは2人で1人なんだと感じています

 以前は花子さんのことを、妻というより「相方という存在だった」と話す大助さん。これまでを振り返り、後悔していることもある。

漫才漬けの生活で、嫁はんのストレスも大きかったはずなのに、あまり気にかけてあげられなかった。花子を傷だらけにしてしまった、なんでもっと大事にせえへんかったんや……という後悔が今でもあります。だから今は一生懸命尽くしたいし、嫁はんのためにも、僕が健康でいないと。『嫁はんは元気なうちに大事にせい』と、世の中の男性のみなさんに伝えたいですね

 これまで8か所の腫瘍転移や救急搬送など、数々の窮地を乗り越えてきた花子さんが、大助さんに弱音を吐いたことがあったという。

前に『生きるってつらいな……』と言うたことがあるんです。首を絞められるような思いでした。僕があまりにも悲しい顔をしたのでしょう。嫁はんはそれ以来、同じ言葉を言わんようになりました

 つらく、苦しい闘病や介護を乗り越えてこられたのは、花子さんの前で「マイナスなことは言わない」というマイルールのおかげ。

『今度の舞台、楽しみやな』とか、未来の夢や希望を語るようにしています。大阪の人ですから、もちろんタイガースが負けても『勝ったで』と言うてね。『嘘つけ! DeNAに負けとるがな』ってすぐバレますけど

 オムツを取り替えるときも、「今日も花ちゃんのオムツの交換〜♪」と歌う。

そしたら嫁はんがゲラゲラ笑って、“プー”って屁をこいたりして(笑)。『ええかげんにせぇ!』って言うて、明るく暮らしています

 病気をきっかけに生活が激変した一方で、2人で落ち着いて過ごせる時間が増え、夫婦の絆が深まった。

今は第2の恋愛期間。漫才師としてバンバン笑いをとっていたころとは違う、今を必死に生きる嫁はんに、2度目の恋をしているんです。僕にとって嫁はんは、かけがえのない“宝物”。漫才の相方という存在を超えた、“人生の相方”なんですよ。僕は、嫁はんから徳をもらっています

 花子さんの体調をみながら単独ライブの開催やテレビ出演、講演会など2人で仕事もこなす。今年4月には、5年ぶりに「なんばグランド花月」の舞台に立った。

漫才はセンターマイクの前で立ってやるものだと思っていたので、座って漫才をすることに最初は違和感がありました。嫁はんは車いす、僕は椅子に座るのですが、今では『これが本当の“座・MANZAI”です』なんていうボケも入れたりして。ネタ合わせをする体力はないので、『こんな感じ』程度で軽く打ち合わせして、ほぼぶっつけ本番で舞台に出ていきます

 それでも、闘病ネタで毎回爆笑をとる花子さんのしゃべりは衰えず、以前と変わらず頭の回転も速い。大助・花子を見ようと、舞台袖にはいつも若手芸人が集まる。漫才の舞台に立つことが、何よりの特効薬に違いない。

「望むことはただひとつ、嫁はんの健康だけ」

花子さんは舞台に出ると、しゃきっとして、元気になる。病人とは思えません。お客さんから『花ちゃん頑張れー!』って声援をもらい、スタンディングオベーションが起きることも。それが僕らのエネルギーになっています。だから嫁はんを舞台に立たせてあげたいんですよ

 結婚してまもなく50年─。大助さんの理想は、花子さんが元気になったあとに、先に死ぬことだ。

僕の生命保険で親子でハワイ旅行でも行ってもらいたい。海に向かって『お父さんのおかげでハワイに来られました〜』って叫んでもらえたら、ザッブ〜ンって波を一発返すから(笑)。この先、僕が望むことはただひとつ。嫁はんの健康だけですねん

取材・文/釼持陽子

宮川大助・花子●夫婦漫才の第一人者。2018年、体調不良から花子が「余命半年」と宣告され、その後の検査で「多発性骨髄腫」が判明。現在もがん闘病中。著書に『なにわ介護男子』(主婦の友社)ほか。12月21日には、地元・奈良県生駒市で「大助花子のクリスマス2024」を開催予定。

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