錦織圭に次ぐ若さで坂本怜がプロ初優勝 18歳の「ビビラー」が超攻撃スタイルへと豹変したわけ

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2024年12月04日 07:30  webスポルティーバ

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「観客のみなさま、応援ありがとうございます。そして、おめでとうございます。歴史が変わる瞬間を目撃できたと思います」

 三重・四日市の青空の下、真っ青なテニスコートに敷かれたレッドカーペットの上で、坂本怜はマイクを手にそう言った。

 この地で開かれた「四日市チャレンジャー」は、ATPツアーの下部大会郡に相当する。大会参加者は69位の西岡良仁を筆頭に、100位〜300位の選手たちがボリューム層。トップ100やツアー定着を狙う文字どおり"チャレンジャー" =挑戦者たちが、しのぎを削る場だ。

 特にシーズン終盤のこの時期は、来年1月の全豪オープン本戦や予選出場圏内を目指し、誰もが目の色を変えて戦う。

 その過酷なトーナメントを、今年9月にプロ転向したばかりの坂本怜が制した。18歳6カ月でのATPチャレンジャー優勝は、日本人選手としては錦織圭に次ぐ若さ。「子どもの頃、錦織選手をテレビで見た衝撃」に突き動かされ米国IMGアカデミーに渡った若者が、憧れの先輩の背を大きなストライドで追っている。

『男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ』とは古めかしい文言ではあるが、ここ最近の坂本の急成長は、この慣用句を想起させる。それは単に戦績のみならず、プレースタイルの劇的な変化にもよるものだ。

 現在の坂本は、195cmの長身を生かした攻撃力がトレードマーク。ただ、16歳の頃まではどちらかといえば、守備的な選手だった。

 本人も「意外とシコいのが、坂本怜の嫌らしいところでして」と、自身をユーモラスに言い表したことがある。「シコい」とはテニスの俗語で、「しつこい、ミスがなく粘り強い」などの意。ジュニアの世界で坂本が結果を残せていたのも、そのような手堅さゆえだった。

 そんな彼のプレーに革新が訪れたのは1年前。兵庫県開催のATPチャレンジャー予選の初戦で、内山靖崇に1-6、2-6の完敗を喫した時だった。

 この試合での坂本は、持ち味の守備力をいともたやすく内山に粉砕され、大きなショックを受けたという。

【「ビビラー」であり「イケイケ系」】

「守っていては、勝てないどころか試合にもならない」

 その衝撃こそが、「シコラー」が攻めに転じた契機。「攻めを選んだというより、ほかに選択肢がなかった」とも坂本は打ち明けた。背水の陣に追い込まれ、窮鼠(きゅうそ)猫を噛む境地だったのかもしれない。

 そして結果的にこの決断は、劇的な成長へのターニングポイントとなる。

 サーブとフォアで攻めに攻め、坂本が全豪オープンジュニアを制したのは、今年1月のこと。その変化は錦織圭をも「短期間でここまで大きく変わることがあるのか」と驚かせたほどだった。

 この転換期を坂本は、「もともとはチキンなので、今、フォアで打てているのが信じられないくらい」だと振り返る。

 自身を「ビビラー」とも形容するが、そのビビラーが超攻撃スタイルへと豹変したわけは、おそらくは坂本が有するもうひとつの顔にある。それは本人いわく「すぐ天狗になってしまう、イケイケ系」の一面。彼のなかに共存する「チキン」と「イケイケ系」の融合こそが、覚醒的成長の源泉だろう。

 完敗のショックを急成長のトリガーとするプロセスは、今回の四日市チャレンジャー優勝の起点にも存在した。それはプロ転向直後の9月末に出場した、ジャパンオープンの予選。有明コロシアムに組まれた一戦で、坂本は当時88位のルカ・ナルディ(イタリア)に3-6、1-6で敗れた。

「ものすごく緊張していて、最後まで頭が真っ白だった」

 試合後は目に涙も浮かべ、プロデビュー戦の苦みを噛みしめていた。

 この敗戦でフットワークとフィジカルの向上の必要性を痛感した坂本は、チームスタッフたちの指導の下、改革に取り組んだ。

 今大会にも帯同したデビスカップ強化プロジェクトコーチの綿貫敬介は、「ウォームアップも含め、フィジカルの強化に努めてきた」という。そのうえで、走り込みや守備の練習に多くの時間を割いた。

【試合中に脳裏によぎった本の一節】

 それら取り組みの成果を実感できた試合があったという。それは四日市大会の前週に、神奈川県で開催された「慶應チャレンジャー」。

 準々決勝で坂本は、最終的に優勝した清水悠太を相手にフルセットの死闘を演じた。しかも第1セットを取られ、第2セットも大きくリードされながら猛追してセット奪取。最終的に敗れはしたが、綿貫コーチは「打つだけでなく、自分は走っても戦える選手だと思えたはず」だと述懐した。

 実際に坂本も、この試合の大きさを以下のように語る。

「最近の課題として、試合中のアップダウンが激しく、ダウンした時に戻ってこられないことが多かった。でも清水選手との試合では、完全に流れが相手にいったなかから、ひとつ戻ってこられたのが自信につながった」

 ちなみに第2セットで敗戦間際に追い込まれた時、坂本の頭をよぎったのは、最近読んだ本に書かれていた『仕事とは、世間に求められて、初めて成立する』といった趣旨の一節だったという。

 プロとなり、テニスを仕事にした以上は、求められる何かを示さなくてはいけない──。そのような思いが「勝利の向こう側」に彼を向かわせたというのだ。

 四日市チャレンジャーの決勝戦は、磨きをかけた守備力と攻撃力が、思考力を媒介に高次で融合した瞬間だった。試合開始早々にリードを許した時は、「若干、気持ちが切れかけた」という。その後トイレットブレークを挟み、第2セット最初のゲームをいい形でキープした時に、「ひとつ、切り替わった」。

 決勝で対戦したクリストフ・ネグリトゥ(ドイツ)は、粘り強さが持ち味の苦労人。コーチが試合中に「一球でも多くボールを返せ。ラリーに持ち込むんだ」と助言していたことからも、長い打ち合いなら優位との読みが見てとれる。

 だが実際には、坂本は厳しい体勢からもボールを返し、なおかつ攻勢に回れば迷わずネットに詰め、息を飲むような繊細なボレーを沈めてみせた。最終セットも「集中力がフッと抜けた」場面がありながらも、危機をしのぎ加速する。

【勝利後は恒例の「侍ポーズ」】

 そして最後は、相手のラケットを弾くようなサービスウイナー。「勝ちを意識しないよう、目の前のポイントに集中することだけ考えていた」という坂本は、勝利の瞬間も小さくガッツポーズを掲げるだけだった。

 優勝の実感があふれてきたのは、勝利後、恒例の「侍ポーズ」をした瞬間。弾けるように駆け出すと、まずはコーチたちの待つ陣営に、次に友人や家族たちのいる客席へと飛び込んだ。

「歴史が変わる瞬間」の先に何があるのかと問うと、彼は「グランドスラムで優勝し、世界1位になること」とまっすぐに答える。

 果たして目指すその地点に、彼はたどり着けるだろうか──。その答えを見届けるためにも、やはり刮目が必要だ。

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  • 錦織より体格がいいけど、フィジカルを今の内鍛えておかないと錦織みたいにケガに苦しむことになる。
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