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上司から「自責思考を持て」「他人のせいにするな」と言われた経験はないだろうか。確かに、他責から自責へと考え方を変えることは、個人や組織の成長において大切な要素だ。しかし、この「自責思考を持て」という言葉が、時として部下を追い詰める"無敵論法"となり、逆効果を生むケースがある。
【画像】行き過ぎた「自責思考」は建設的な解決の道を閉ざすことになる
部下の成長を阻む指導法とはどのようなものか、細かく解説する。組織のマネジャーをはじめ、教育者や子育て中の親にもぜひ最後まで読んでもらいたい。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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●他責も自責も極端はよくない
確かに、問題が起きるたびに「他責」の発言をする若者が増えている。パワハラと指摘されることを恐れ、強く指導できなくなった上司が増えているせいだ。
「心理的安全性」という言葉の副作用も見逃せない。この表現が世の中に浸透して以来、若者が「何でもいえるようになった」と受け止めはじめた。例えば以下のような調子だ。
「このプロジェクトが失敗したのは、課長の指示があいまいだったからです」
「成長できないのは、会社の教育制度が不十分だからです」
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だからこそ、上司は自責思考を持つように指導したくなる。しかし「全て自分が悪い」という考え方は、かえって部下を追い詰めることになる。
●無敵論法とは何か?
無敵論法とは、一見正論に見えて、実は相手を追い詰める言葉や論理のことだ。相手が反論できない仕組みになっている。
「自責思考を持て」という言葉も、使い方を誤ると無敵論法になりやすい。例えば、
「他責にするな。プロジェクトが失敗したのは君の責任だ」
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「自責思考を持て。教育制度が不十分と言うけど、自分で学ぼうとする気持ちが大切だ」
このように、全ての原因を部下の努力不足や考え方の問題にすり替えてしまうのだ。マジメな若者ほど自責思考をうのみにするだろう。
「確かに誰かのせいだと考えるのはおかしい」
「自分に問題があるのに、すり替えてはいけない」
しかし、あまりに自責の念にかられるのは問題だし、危険だ。
●なぜ「自責思考」は危険なのか? 3つの理由
「自責思考」が危険な理由を3つ紹介しよう。
1. 思考停止に陥る
2. 精神的な負荷が過剰になる
3. 上司の責任放棄を助長する
それでは、想定事例を使いながら一つ一つ解説していこう。
思考停止に陥る
会議室に10人が集まり、プロジェクトの振り返りが行われていた。
「このプロジェクトが失敗した原因は何だと思う?」
部長がこう問いかけると、新人のAさんは考え込んだ。確かにスケジュール管理は甘かった。しかし予算申請しても課長は聞く耳をもたず、意識の低い契約スタッフにも手を焼いた。そう思いながらも、
「全て私の段取りが悪かったからです、申し訳ございません」
そう答えた。以前から「自責思考を持て」と言われ続け、問題があれば「私が悪い」と言うクセがついていたからだ。すると部長は満足げに、
「他責にしない姿勢は立派だ」
と言い放った。本来なら予算やリソース配分の問題として議論すべきだったのに、Aさんの努力不足で片付けられてしまったのだ。
精神的な負荷が過剰になる
営業部の月次会議。課長は売り上げ目標未達の原因を若手のBさんに尋ねた。
「退職された方の引き継ぎが不十分で……」
と話し始めたBさんの言葉を遮り、
「引き継ぎができていたら、売り上げ目標は達成したのか?」と一喝。
「確かに……」
とBさんは思いとどまった。1000万円の目標に対して670万円の案件分が引き継ぎ不十分でショートした。これは誰もが知っている公然の事実である。ただ、だからといって不足分を埋められなかったのは、自分の責任かもしれない。Bさんはそう思いなおした。
「申し訳ございません。苦しまぎれに言い訳をしてしまいました」
計算すると分かる。平均顧客単価50万円の商材で700万円近いショート分を補うには、14〜15社から受注を取らなくてはならない。そんな芸当は、大ベテランの営業でさえむちゃな数字だった。しかし、そのことを目の前の課長は分かっていないようだった。
「とにかく、目標未達成なのは事実だ。反省するように」
このようなやりとりの連続で「全て自分が悪い」と思い込まされたBさんは、徐々に自信を失っていった。
数カ月後、Bさんは体調不良で休職することになった。コントロールできない要因まで自分の責任と感じ、心が折れてしまったのである。
上司の責任放棄を助長する
新商品企画のブレストでのこと。若手社員のCさんが人員不足を指摘した。品質を検証するベテランの意見、知恵が必要と訴えたのだ。
すると部門長は眉をひそめ、
「人員が足りないというのは他責思考だ。知恵を絞って自分で何とかしろ」
と一蹴した。本来なら部門長が解決すべき人員配置の問題を「他責にするな」という言葉で棚上げにしたのだ。結局、改善されずにプロジェクトは進められ、品質に問題が生じた。しかし部門長は、
「まさかこんな品質管理もできないとは想像していなかった。私の人選ミスかな」
とCさんを叱責。上司としての責任を放棄し、全てを部下の努力不足に転嫁したのである。
このように「自責思考」を過度に要求すると、部下に過度な負担を強いる危険性がある。ときには上司の無責任な逃げ道にもなってしまう。
大切なのは適切なバランスだ。部下の努力を促すことは必要だが、それは上司や組織の責任を放棄することではない。
では、どのように指導したらいいのか?
●「自責」と「他責」のバランス
「他責100%」でも「自責100%」でもいけない。大切なのは「自責と他責のバランス」だ。上司は部下と一緒に、次の3つを整理しよう。
1. 自分でコントロールできる部分
2. 自分ではコントロールできない部分
3. コントロールできる部分をどう改善するか
それでは、一つ一つ解説していこう。
自分でコントロールできる部分
行動したり、考えるだけでできるものなら自分でコントロールできる。それを怠ったら自分の責任だ。
例えば、顧客にアポをとること、スピーディに返信すること、メンバーや上司のスケジュール調整をすることなどが挙げられる。
自分ではコントロールできない部分
一方、自分でコントロールできないことも多い。一定の能力を身につけるには時間がかかる。誰かと関係を構築するのにも、それなりの期間が必要だ。
例えば取引先の社長と調整したくても、関係ができていなければそれは簡単ではない。
「部長、先方の社長と連絡をとってもらえませんか?」
とお願いし、
「他人に頼るな。そんなこと自分でやりたまえ。知恵を絞るんだ」
と突き放されたらさすがに、やる気がなくなるだろう。品質管理の件もそうだ。知識も経験も不足しているのに、「自分でやれ」と言われたら心が折れる。自分でコントロールできることではないからだ。
改善策の検討
本人がコントロールできる部分と、コントロールできない部分を仕分けできたら、コントロールできる部分をどう改善するかに思いを巡らせればよい。コントロールできない部分については、組織として何をサポートできるかを考えるべきだ。
このように上司と部下が共に考え、次につながる建設的な振り返りができれば、部下の成長にもつながっていく。大切なのは一人で抱え込ませないことだ。
プロジェクトが失敗したのなら、まず「なぜ失敗したのか?」を上司と部下で一緒に分析しよう。そのうえで、上司は「私にも責任がある」と認めるのだ。上司も自責思考を持ち、
「自分の指示があいまいだった」
「もっと早く気付いてあげられた」
このように伝えることで、部下も素直に受け止められる。コントロールできる部分を改善する意欲も湧いてくるだろう。
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