スプリントの優勝を譲り、黄旗区間でペナルティを受けたノリスの心理。アブダビでの3名の日本人への期待【中野信治のF1分析/第23戦】

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2024年12月06日 11:20  AUTOSPORT web

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2024年F1第24戦アブダビGP ランド・ノリス(マクラーレン)
 ルサイル・インターナショナル・サーキットを舞台に行われた2024年第23戦カタールGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季9勝目、自身通算63勝目を飾りました。

 今回はスプリントでチームメイトに勝ちを譲り、決勝はペナルティで後退したランド・ノリス(マクラーレン)について、そして角田裕毅(RB)、次戦アブダビGPのフリー走行1回目(FP1)に出走する岩佐歩夢(RB)と平川亮(マクラーレン)への期待など、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

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 2024年シーズン最後のスプリント開催となったカタールGPですが、そのスプリントではトップチェッカー目前のノリスが最終コーナー立ち上がりで減速し、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)に勝ちを譲るというシーンがありました。

 チェッカー後、ノリスが「途中から、彼に勝利を譲らなきゃと思ってたんだ。スプリントでの優勝は、特に目指してない。ワン・ツー・フィニッシュでチームが最大ポイントを取るのが一番の目的だったし、それは果たせたからね」とコメントしたとおり、サンパウロGPのスプリントでピアストリに勝ちを譲ってもらったことへのお返しだったということですが、決してそれだけが理由ではないと思います。

 スプリント終盤、チームは「このままの順位でハッピーだから」と無線を飛ばしています。その無線を聞いた上でピアストリに勝ちを譲ったのは、それが今後の戦略でプラスになるアクションだとノリスが考えたからではないか、という気がします。

 前戦ラスベガスGPでフェルスタッペンが4連覇を決めて、ノリスは2024年シーズンのドライバーズタイトル獲得はなりませんでした。ただ、2025年以降はわかりません。今後ノリスが1点でも多くのポイントを稼がないといけなくなった際に、ピアストリに助けてもらいやすい状況を作っておくことは、理にかなっているでしょう。

 今回勝ちを譲ったというシーンを見て、私はノリスの人の良さ云々よりも、「ノリスはきちんと次のシーズンのことを考えている」と感じました。2025年はフェルスタッペンを含めたライバル勢を確実に負かすことが彼の目標になりますし、その際にはチームメイトであるピアストリの協力が必要です。それを見据えて、ノリスはすでに2024年シーズン中から次のシーズンへ向けた環境作りに取り組んでいます。

 それだけ貪欲に、フェルスタッペンを倒しに行くのだというノリスの強い意志を感じると同時に、もう2025年シーズンの戦いは始まっているということにも気付かされる出来事でした。

 そんなノリスは、決勝でフェルスタッペンの背中を追って2番手走行中に、ダブルイエロー区間で減速せず、約0.8秒フェルスタッペンとのギャップを縮めたということで、10秒のストップ&ゴーペナルティが科されることになり、コンストラクターズ争いに欠かせない多くのポイントを失う結果となりました。

 イエローフラッグが振られた区間は減速しなければならないのはサーキットレースの基本ルールです。ダブルイエローが振られている区間は、危険が伴う状況を意味します。そこで減速をしないことは、安全性の重大な侵害と判定される行為です。

 ただ、ダブルイエローが振られている際にどれだけアクセルを抜けばいいのか、という指標は明確にはされていないため、ペナルティ対象か否かの判断は難しい問題だったりします。とはいえ、今回のノリスに関してはダブルイエロー区間(ホームストレート)を全開で走っていたので、ペナルティの裁定が下されることになりました。

 そして、ダブルイエローが振られていた区間は見通しのいいホームストレートで、ノリスに対してもダブルイエローの理由(落ちたミラーの破片が散らばっている)は無線で伝えられていたと思います。ドライバーはイエローが出た際に、その原因がわからないと、より慎重に走る傾向にあります。ただ、自分の目でホームストレートの状況を見て、さらにイエローが出た理由も把握してしまうと『もう大丈夫かな?』という油断が生まれてしまうこともあるでしょう。

 ノリス自身も決勝後に「イエローフラッグが出たら減速しなければならないのは分かっている。ゴーカートで学ぶルールだ。でもどういうわけか、今日はそれに違反してしまった」と話したとおり、イエローでの減速はモータースポーツの基本です。

 それでも、減速しなかかったのは『もう大丈夫かな?』という油断と、延々と追いかけてもギャップが縮まらないフェルスタッペンの背中が前にあり、少しでもギャップを縮めたいというドライバー心理があったとも推察できます。同じドライバーとしては、そういうドライバー心理はわかります。

 ただ、ルールを守ることは第一です。ダブルイエローが振られた際にはフェルスタッペン、ノリス以外にも複数台がイエロー区間を通過していましたが、ノリス以外の車両は大なり小なりありつつもみんな減速していました。そのため、まったくリフト(アクセスを戻す行為を)していなかったノリスにペナルティが科されたのは致し方ないと思います。

 また、イエロー解除後にフェルスタッペンが「ノリスはイエローで減速していないはずだ。レポートしてくれ!」と無線を飛ばすシーンも流れていましたね。前を走るドライバーは、イエロー解除後に後ろのマシンが0.8秒も近づいたらすぐにわかります。あのダブルイエロー区間はノリスにとってシビアな場面であると同時に、フェルスタッペンにとってもシビアな場面でした。

 後ろにノリスがいる中でどれだけスロットルを緩めないければいけないのか、緩めすぎるとイエロー区間を出てからノリスに前に出られるチャンスを与えてしまうことにもなりません。だからこそ、フェルスタッペンも慎重な対応が求められました。後ろのノリスの状況を常に見ながらの戦いでしたから、フェルスタッペンもすぐにノリスが減速していないとすぐに気がついたのでしょうね。

■角田、岩佐、平川への期待

 裕毅が13位、リアム:ローソンが14位と、カタールGPはRBの2台にとっては苦しい週末となってしまいました。最終戦アブダビGPの舞台となるヤス・マリーナ・サーキットは裕毅も決勝自己最高位の4位を記録している得意のコースです。それだけに、RBのクルマの特性やセットアップがいいかたちで噛み合ってくれたらいいなと思うばかりですね。

 裕毅は今、2025年シーズンに向けた動きの渦中にあります。その動きを裕毅にとってさらにポジティブなものにするためにも、次戦アブダビGPのレース結果は非常に重要です。レースの順位だけではなく、チームメイトのローソンと比較してどれだけの走りができるのかという部分が特に重要になります。

 レッドブルから“選択される立場”にある裕毅とローソンにとって、今回のアブダビGPは新たなステージへの鍵となる一戦となるかもしれません。RBのクルマがどうであれ、一番のライバルも同じクルマに乗っていますから、そのなかで裕毅には戦いきってほしいですね。

 また、アブダビGPのFP1には歩夢(RB)と平川選手(マクラーレン/アブダビGP後のテストはハースから参加)というふたりの日本人ドライバーが出走します。ふたりにはチームからそれぞれタスクが与えられるでしょうから、そのタスクを完璧にこなすことが大事なのかなと思います。

 FP1を任された新人が一番やってはいけないことは、ミスでクルマを壊すことです。しっかりとチームに自分の仕事ぶりをアピールするためにも、まずはふたりともミスなく走り終えてほしいと願っています。その上で、チームの役に立ついいフィードバックができれば、チームからの評価もさらに上がるでしょう。そうなるためにも、ふたりに流れが向いてくれたら良いなと、そう願っています。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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