佐川急便に自転車の配達を依頼したら破損されてしまい、さらにその賠償額が購入時の10分の1しかなかった、との投稿がX上で話題になっている。自転車の購入時の価格は「48万4000円」だったが、購入から3年経過していたことから、現在の時価は「−6万500円」と算定され、「時価がマイナスの場合は再調達額の10%が上限」との基準に従って、4万8400円が賠償金額だという。この投稿に対して、「算定基準がおかしい」「少なくとも現在の市場取引価格で賠償すべき」など、佐川急便の対応を非難する声が多くあがっている。この佐川急便の賠償額は妥当といえるのだろうか。
あるXユーザーが、48万4000円で購入した自転車の配送を佐川急便に依頼したところ壊され、賠償金はわずか4万8000円だったとして「自転車やめます」など、落胆する様子を投稿。この投稿を受け、「佐川急便は30万円まで賠償するんじゃなかったの?」「なんで購入額の10分の1になるの?」など驚きや疑問の声が続出。
佐川急便の賠償金の算定の根拠は、自転車の購入が3年前であり、減価償却した結果、壊れた自転車の時価が「−6万500円」と計算されるというものだ。さらに、算定した時価がマイナスの場合、「再調達額(同等の物を新たに購入するのに必要な金額)の10%が賠償の上限金額」という同社の規定があり、48万4000円の10%として4万8000円が賠償金として支払われたようだ。
自転車は法定耐用年数が2年と定められており、減価償却による計算をすると、2年で価値は0円になってしまう。48万円も払って購入した自転車が、たった2年で価値がなくなるとする考え方に、納得がいかないとの声も多い。「普通、取得価格で賠償すべきだろ」「損害賠償なのに、なぜ償却物扱いなのか」「時価は市場価格で考えるべきでは?」「法定耐用年数を持ち出すのはおかしい」など、そもそも佐川急便の算定の根拠としている「法定耐用年数」「減価償却」を使用することに疑問を投げかける向きも多い。
そこでBusiness Journal編集部は佐川急便に、法定耐用年数で計算することの是非や、市場取引価格で賠償すべきではないか、との問い合わせを行ったが、期日までに回答はなかった。では、他社ではどうかといえば、ヤマト運輸も法定耐用年数で減価償却した金額が損害賠償の上限となるという。
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国土交通省が定める「標準宅配便運送約款」第25条では、荷物の滅失やき損による損害について、「荷物の価格を送り状に記載された責任限度額の範囲内で賠償」「荷物の価格を基準としてき損の程度に応じ限度額の範囲内で賠償」とある。したがって、限度額の中で一定の基準に基づいて賠償額の算定方法を定めること自体は理に適っているといえる。
ただし、同条第3項には次のようにある。
「前二項の規定に基づき賠償することとした場合、荷送人又は荷受人に著しい損害が生ずることが明白であると認められるときは、前二項の規定にかかわらず、当店は限度額の範囲内で損害を賠償します」
つまり、配送を依頼した客に著しい損害が生じる場合には、算定基準にこだわらず、限度額の範囲内で賠償する可能性を示唆している。実際に、運送事故に詳しい弁護士も、今回の事故について、「賠償額を増やせる余地はある」との見方を示す。
「確かに自転車の法定耐用年数は2年で、佐川急便の算定方法自体は一般的に使われているもので、他社でも同じ賠償額が提示されると思います。ただ、48万円もの自転車がたった2年で価値がなくなるというのは、一般的な感覚と大きくズレています。実際に高級自転車について耐用年数を5年とした判例があります。したがって、この場合もまだ十分な価値が残っていると考えることができます。また、き損する前の品物と同程度のモノを購入した場合に必要になる金額(再調達費用)と、賠償額にあまりに大きな差がある場合、業者側が提示した価格のままで賠償とするのは、“信義則の原則”に照らして問題があるといえます」
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運送業者が損害賠償をする際の計算基準は必要であるが、必ずしも減価償却が適切とはいえない。減価償却は、あくまでも企業の会計基準であって、物品のき損が生じた場合に、その物品の価値を算定する基準として用いるのは妥当性に欠けるのかもしれない。
(文=Business Journal編集部)
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