「宇宙では最先端な素材」世界初「木造」の人工衛星が打ち上げへ!その“優しいメリット”

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2024年12月07日 06:11  web女性自身

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一辺が10cmの小さな木製の箱には、限りない可能性が秘められている──。



2024年12月9日。上空400kmに浮かぶ宇宙実験施設「国際宇宙センター(ISS)」から、重さ1kgという小型の人工衛星が解き放たれる。その30分後にアンテナが開き、データの送受信ができた段階で、世界初となる木造人工衛星の運用が始まる。



この人工衛星の名前は「リグノサット(LignoSat)」(ラテン語で「木」を意味する“リグノ”と「サテライト」(人工衛星)の“サット”を組み合わせた造語)。



この「リグノサット」は、京都大学宇宙総合学研究ユニット特定教授で、宇宙飛行士の土井隆雄氏による〈宇宙における木材資源の実用性に関する基礎的研究〉が発端だ。



2020年から、京大とともに木造の人工衛星づくりに取り組んできたのが住友林業。プロジェクトに関わる同社の筑波研究所のマネージャー・苅谷健司さん(55)が語る。



「木に囲まれていると落ちついたり、リラックスできたりするといわれますが、木材が人にどのような効果をもたらすのかを研究してきました。京都大学とも20年近くにわたり木の効用や効果について共同研究をしてきたことから、今回の木造の人工衛星のプロジェクトにも関わることになりました」



人工衛星は、±100℃という寒暖差、強力な放射線が飛び交うなかで運用される。そんな過酷な空間で、木材は耐えられるのだろうか?



「宇宙空間は究極のストレス環境です。しかし、ストレスを強く感じる空間でこそ、自然素材である木が効果を発揮します。また、10万年分の放射線をあてた実験でも、木材の組織自体にほとんど変化が生じないことも明らかになっています」(苅谷さん、以下同)



実際、木造の人工衛星を作るとなると、懸念点はいくつもあった。



「真空の宇宙空間は水分がゼロ。通常15%ぐらい水分を含んでいる木材が変形したり割れたりするのではというのが最初の懸念。真空状態を作り出す装置に針葉樹から広葉樹といったさまざまな種類の木材を長期間入れて調べてみました」



その結果、住友林業が保有する約4.8万ha(日本の国土の800分の1)の森林(社有林)から切り出されたヤマザクラ、ダケカンバ、ホオノキの3つが候補に。2022年2月には、この3つの木材を実際に宇宙に持っていって10カ月間曝露実験が行われた。



「人工衛星が運用される上空は、酸素(O2)がなく、原子状酸素(AO : Atomic Oxygen)がたくさんある世界。この原子状酸素により、木材の表面が削れていくような浸蝕が発生すると考えられていました」



しかし実験の結果、浸蝕はまったく確認できず。これらの試験を経て、最終的に選ばれたのは、北海道紋別市の社有林で切り出されたホオノキ。飛騨高山地方の名物料理「朴葉みそ」で知られる大きな葉を茂らす木が、人工衛星の筐体に使われることになった。



「変形しづらく耐久性があるホオノキは、供給量が多くないため家具や建材には使われず、野球のバット、ボウリングのピン、まな板などに利用されてきました。また、昔は、日本刀の鞘にも使われてきました」



そんな木造の人工衛星には、どのような夢が詰まっているのだろうか?



「宇宙ゴミ(スペースデブリ)にならないことです。国際ルールでは、低軌道の人工衛星は運用を終えたら、大気圏に再突入させて燃焼させなければいけません。ところが、金属製の人工衛星は、燃焼時に、微小物質(アルミナ粒子)が宇宙ゴミとして発生します。木材ならば、大気圏に突入すればガスになって分解され、微小物質は発生しません。環境にも非常に優しいというところが最大のメリットです」



現在、宇宙空間で運用されている人工衛星は約3000基。巨大市場として期待されている宇宙ビジネス。なかでも人工衛星を使って、測位、通信、放送、地球観測などのサービスを提供するビジネスは今後も拡大していく。それにともない微小物質である宇宙ゴミの問題が生じる。



「スペースX社やamazon社は、何千基、何万基といった人工衛星を使って、巨大な衛星網をつくる『メガコンステレーション』を計画しています。今後、人工衛星が一気に増えることで、大量の微小物質が成層圏を覆うことになることが予想されます。



微小物質が、オゾン分子と反応してオゾン層を破壊してしまい気候変動を起こしたり、さらには電波障害が起こることも。また、微小物質は、重力によって地球に落ちてくるので海洋の生態系にも影響を及ぼす可能性も懸念されます。」



これから打ち上がる人工衛星が、すべて木製ならば、宇宙ゴミの問題が軽減される。



さらに宇宙においての木の活躍は限りなく広がる。



人類がより気軽に宇宙旅行するようになったときにも、宇宙船内に木質空間があればストレスを和らげる効果も。月や火星などへの植林と夢は広がる。



「我々が木材に期待しているのは宇宙線が大気と反応して発生する中性子線を遮蔽する力です。木材は水素原子を多く含んでいるため、他の素材に比べて、中性子線を遮断します。宇宙から降り注ぐ中性子線は、人間だけでなく、コンピューターや半導体にも悪影響を及ぼします。とくに半導体に中性子線が当たるとソフトエラーを引き起こすことは知られています。木材を使うことで、中性子線からの影響を大きく軽減する可能性があります」



中性子線の影響で、ジェット機にシステムエラーが生じ緊急着陸し、数十人の負傷者を出した飛行機事故もあった。最近ではテレビ局の放送が中断してしまうトラブルも。半導体が内蔵されているスマホだけでなく、今後ますます需要が増大していくAIやクラウドなどのデータセンターでも、今後、木材の活躍の場が広がりそうだ。



最後に苅谷さんがこう語る。



「ライト兄弟が、はじめて空を飛んだ飛行機は木製です。木材は燃えたり、腐食したり、変形したりすることから次第に航空産業では使われなくなりました。



しかし、宇宙という、空気もない、微生物もいない、水もない空間では『燃える、腐る、変型する』という木材のデメリットが解消されます。人類が宇宙に進出するに向けて恒久的な材料資源の調達は重要な課題です。持続可能な材料である木材は、実は、宇宙では最先端な素材じゃないかというのが、私たちの考えです」



たくさんの夢を載せて、木造の人工衛星は、いま、宇宙に放たれようとしている。

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