台湾の若手俳優4人、業界の課題と世界の舞台への意欲を語る

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2024年12月07日 11:01  cinemacafe.net

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台湾・台北市で開催された文化コンテンツ産業の大型展覧会「2024 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」。今年は11月5日から11月8日の日程で実施され、文化コンテンツ産業を重点戦略に据える台湾が、国際共同製作を通して存在感を高めようとする姿勢を色濃く感じるプログラムが目を引いた。

「ノー・ボーダーズ:国際共同製作作品における台湾俳優のニュー・ウェーブ」と銘打ったフォーラムには、MCを務めたエスター・リウ(劉品言)をはじめ、ウー・クーシー(呉可熙)、クー・チェンドン(柯震東)、リン・ジェーシー(林哲熹)ら、国際共同製作作品への出演経験を持つ若手実力派俳優が登壇。自らの経験や考察を語り合った。

“台湾は安い”から抜け出すには?
フォーラムに登壇した4人の話からは、俳優たちが抱いている危機感や台湾の映像コンテンツ産業が抱える課題、「業界全体をよくしたい」という熱意が感じられた。日本の映画ファンの間では『あの頃、君を追いかけた』(2011年)などで知られ、『黒の教育』(2022年)で監督デビューも果たしているクー・チェンドンが作り手らしい感想をシェア。

「フランスでCMを撮ったとき、仕事時間は必ず1日6時間以内だった。台湾では11時間、12時間撮って、食事時間は30分というケースもある」と語り、決められた時間以内に仕事をやりきる姿勢と、それを可能にする事前準備の必要性を学んだという。

昨年、ニューヨークで『ブルー・サン・パレス』(2024年/今年の東京フィルメックスで上映)を撮ったウー・クーシーは、「米国ではスタジオや監督らの打ち合わせにも俳優が自分で行く。MeToo以降はそういう場の安全も配慮されているし、俳優をアーティストとして扱ってくれて、作品に対する考え方や、どういう作品を作りたいかなど、意見を聞いてくれる」と米国での体験を語った。

さらに、「台湾には多くの優れたクリエイターがいるけど、外国のフィルムメーカーに台湾と共同製作する理由を聞くと、『安いから』という答えが返ってくる。どうすれば、こうした“受託生産”から抜け出せるのか?」と問題を提起。国際共同製作では、できるだけ資金が台湾のプロダクションに入るようにすること、また「これが台湾の作品」と世界に打って出られるストーリーやオリジナル作品の必要性などにも言及。業界全体で課題に取り組んでいく必要性を訴えた。

日本ではドラマ「悪との距離」(2018年)などで知られるリン・ジェーシーは、フランスでは、資格を認められ、就業時間の基準を満たしたアーティストには、毎月約2000ユーロの補助金が出ることに驚いたという。


「新人俳優にとってはすばらしい生活条件。台湾でも俳優の待遇改善を求めるなら、どれだけ資金を回収し、市場を拡大できるコンテンツを作れるのか考えて努力していかないと。ずっと政府やTAICCAに頼っていてはいけない」と指摘。

さらに、「インドの俳優から、インドでは大規模なダンスシーンの練習に1年から1年半かけるケースもあると聞いた。台湾は、そんな早くから準備に入れる環境ではない。2週間で痩せろとか、バイオリンを習えというような要求をされることも。そんな短期間で何でもできたら、今頃俳優はやっていない」と俳優が置かれている苦境についても触れた。ウーが、米国で英語のアクセントコーチについて学んだという経験を話すと、「僕らをサポートしてくれるのはYouTube」とユーモアを交えつつ、台湾でも同様のレッスンやアクション指導など俳優へのサポートが必要だと同調した。

「台湾には、グレッグ・ハン(許光漢)が100人必要」と独特の表現で語ったのはクー。今年ヒットした日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』にも主演したグレッグ・ハンは中華圏だけでなくアジア全土で人気が高く、韓国ドラマにも出演している。「もっとエンターテインメントを価値のあるものだと考えてほしい。グレッグ・ハン1人ではなく、100人必要。彼は奇蹟じゃないし、偶然でもない」。さらに、「僕に外国からのオファーが多いのは、インスタグラムのフォロワー数が多いから」と語り会場を沸かせた。これは別にジョークではなく、俳優も自身の存在をアピールしていくことが必要だと考えての発言だ。

国際的な出演経験を積み重ねて信頼を勝ち取る
フォーラム終了後、多忙を縫って日本メディアのインタビューに答えてくれた4人。まずは先ほどのクーの発言を、さらに深掘りしてみた。

―― フォーラムで、台湾にも俳優に対するサポートが必要だという話題が出ました。たとえば日本では、俳優が自腹でトレーニングのためのスタジオを建てたというような話も聞きます。台湾で俳優が自主的に行動を起こしたり、たとえばクーさんが何か働きかけたりしたことはありますか?

クーもちろん、俳優自身の能力を伸ばすことは必要ですが、やはり、自分たちがそれをして、どのくらい経費を回収できるのかという話になると思います。新人や、コマーシャルなどの仕事をしていない俳優にとっては、お金や経験を消耗することになってしまう。やはり大事なのは、どのようにして外国のチームに台湾の俳優やスタッフの実力、台湾と合作する意義を知ってもらうかということ。合作したいと思ってもらえるようになることだと思います。

―― 国際的な作品に挑戦したい俳優が、日頃から準備しておくといいと思うことは?

クー広く友人を作ることです。僕は、たとえば韓国に行けば現地の友達に会うし、日本にも友達がいるので、そういう交友関係を使って人脈を作っていくんです。いつか僕のことを思い出して、一緒に何か仕事をしようという話になるかもしれませんよね。

リンチェンドンと知り合いになって、友達をたくさんつくること。冗談です(笑)。僕は、経験の蓄積だと思います。実績を作り、「国際共同製作の作品への出演経験がある」という信頼を勝ち取ること。チェンドンがフォーラムで言ったように、外国のフィルムメーカーは僕らのことをあまり知らない。国際的に知名度のある台湾の俳優はとても少ないので、キャスティングの際は、まず既に知名度のある俳優にターゲットが絞られる。でも、全く知らない俳優から探すとなった時に、相手が見るのは経験値です。

ウー演技などの技術を磨くことはもちろんですが、国際共同製作に興味があるなら、まずは外国の文化に近づくことが大切。少なくとも、まず外国の映画を見て、どういう監督がどんな作品を撮っているか、どんなジャンルの作品があるか、商業映画なのかアート系映画なのかを知ること。たとえば、金馬映画祭やさまざまな映画祭に参加し、映画関係者と知り合うこと。そして、もし欧米の作品に出ることを目標に掲げるなら英語の勉強、日本の作品なら日本語を学ぶこと。ただ「出演したい」と夢見るだけでは始まらない。目指すものが何なのかを知ることです。

リウ脚本開発やクリエイティブの部分で、ストーリーを工夫することもチャンスにつながると思う。国際的な配信プラットフォームからどんどん文化が輸出されています。国際共同製作の脚本の中に、台湾独自のストーリーや台湾でしか撮れないシーンを盛り込めば、チャンスは増えると思います。

―― 多国籍なスタッフと一緒に仕事をした経験から学んだことは? その経験から見えてきた台湾の課題は?

クー以前の1日12時間撮影のような環境が今では多少は改善はされているけれど、それらはすべてスタッフの犠牲によるもの。どうすれば個人を消耗させることなく仕事の効率を上げられるか、考えていかないといけない。やはり仕事の効率化が大切だと思います。

リウ台湾での撮影は、コストパフォーマンスが高いと見なされてきました。少ないバジェットでも目的のものが撮れてしまう。実際それでもやっていけるのですが、あらゆることが犠牲のもとに成り立っている。その成功は、偶然か幸運だっただけ。そういう問題点を既に意識して早めに変わる準備をしたほうがいいと感じている人もいるけど、みんながみんな気づいているわけではない。業界全体で同じ方向を向いて前進していけるといいなと思います。

リン俳優の意識の持ち方にも課題があると思う。今の話にあったような、限られた予算でそれなりのものを作っている現状に対して、皆はそれでいいと思っているようだけど、まずスタートの意識として、自分たちはどんなものを作りたいのか、どうすれば世界の舞台に打って出られるのかという意識を持っておくこと。台湾の業界全体が一緒に考えて挑戦しなければいけないと思います。大谷翔平さんの「憧れるのをやめましょう」という言葉がありますよね。国際共同製作の作品に出演する時の意識はこれ。実際、台湾の俳優は他国の俳優と比べても劣ってはいない。では、どうすれば世界レベルに到達できるのか? そこは僕らが努力しなければいけないのですが、もっとしっかり準備できる環境がほしい。短い期間で準備してくるのだから、僕は使い勝手のいい俳優だと言えるけど、外国と同じ条件なら、求められる以上のことができる。その環境を作るために、みんなで努力していくという意識が大切だと思います。

演技のことだけに集中できる環境を
―― ウーさんはフォーラムで、俳優がもっとクリエイティブな仕事に専念できる待遇を得られるようしなければいけないと指摘されていましたね。

ウー米国で撮影した時、俳優には専用のトレーラーがあり、中には冷蔵庫やベッドやメイク台などがありました。スター待遇しろということではなくて、あそこではヘアメイクを心配する必要がない。私のヘアメイクチームは皆、脚本を分かっていたのです。次の撮影シーンが寝起きなら、起き抜けの乱れ髪がほしい私を、きれいにスタイリングしたりしない。あちらのスタッフは、それぞれの専門を生涯の仕事としてとらえていて、待遇もいいし、リスペクトされていると感じました。たとえば、その作品のスクリプターは、スクリプターだけやっていきたいと話していました。台湾でスクリプターというのは、監督を目指す人の通過地点であることが多い。あるポジションの技術を学んでも、それが継承されていかないのです。

台湾のスタッフは、仕事はスピーディーで能力も高く、すぐ状況に適応できます。でも、その状態を持続することは難しい。日本の状況は分からないですが、分業がきちんとできている環境では、効率がいいし、皆が何をすべきか分かっている。俳優も演技のことだけに集中できます。自分のクリエイティブのことだけを考えればいいなんて、そんな環境なら天国だと思います。

―― 台湾では、どんなジャンルやテーマの作品が必要とされていると感じますか?

クー商業映画ですね。コスパがよく、資金を回収できればいいという考えから抜け出すべきで、台湾には大きな規模の作品が足りないと思います。

リン僕も同じ意見です。台湾は文芸作品が強いし、製作本数も多い。でも、それらは全部、コストや環境が起因している。大規模な商業作品は大きなバジェットやサポートが必要にはなりますが、作らないと経験を得られない。そうやってこそ、市場を拡大していけると思います。台湾の観客は、台湾の文芸作品のことは信頼していて、好きな人は映画館に足を運びます。でも、商業映画には「はあ?」というリアクションだし、ひどい出来になると思っている。俳優も含めて、そういう作品での経験値が必要。「アイアンマンを演じろ」と言われたらどうする? できるかもしれないけど(笑)、努力が必要です。

―― 一緒に仕事をしてみたい日本の俳優、監督は?

リン最初に思い浮かんだのは三池崇史監督。小栗旬さん主演の『クローズ』が好きです。

ウー「ロングバケーション」が好きなんです。数年前に見直したのですが、やはりいいドラマでした。あと北野武監督や、『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督の作品が好きです。

リウ私も木村拓哉さん世代(笑)。是枝裕和監督の作品の雰囲気が好きですね。

クー僕は奥山大史監督です。今年の台北映画祭で審査員をしたのですが、(出品されていた)『ぼくのお日さま』がすばらしかった。授賞式で会った時、すごく若い監督で驚きました。機会があれば、お仕事してみたいです。

TCCFは、台湾文化コンテンツ産業のサポートと国際化を促す独立行政法人「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー 」(TAICCA 読み:タイカ)が主催。今年で5年目の開催となる。



(新田理恵)

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